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ぼくらはあの頃、アツかった(8) 呪われし館での苦く、淡い思い出

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noroinoyakata.jpg呪いの館(のイメージ)

 2000年代、思い出深いホールに「L」があった。

 どんなお店だったかを一言でいうと、テコでも出ないボッタ店。これに尽きる。

 悪名が市内の隅々にまで轟いた結果、地元のお爺ちゃんお婆ちゃんでさえも遊戯を避けるようになっていたので、常に店内は閑散としており、たまに間違えて入った粗忽者が無間地獄のように千円札を飲まれて舌打ちするのと……それから腰パンのスタッフが怠そうに散歩する以外、店内に動くものの姿はない──そんな呪われし館の如きホールであった。

 どこかの大地主が趣味と実益と税金対策を兼ねて片手間に営業しているのならスッと入ってくる話だが、実はLはそれなりにデカいチェーン店である。2016年の当代においても現存している会社が運営する、ちゃんとしたホールなのだ。事実、県内にある同系列の店舗はそれなりに繁盛していたのだが、唯一、我が市内にあるLだけは変だったのである。

 要するに、店長がボンクラだったのだ。

 事態を重く見た(?)運営会社はあるタイミングでそれまでの店長を切り、新しく──若くて有能な男を、店の長に据えた。

 それに伴い店舗をリニューアルし、さらにはテコでも働かない腰パンにロン毛のバイト連中の代わりに、寒村の小作人の如き、マメで気のつく無口な玉運び職人を大量に揃え、トドメにそれまで存在しなかったコーヒーレディをも、結構なハイレベルで揃えてきたのである。

 準備万端、全てはお客様の笑顔のため……!

 それまでのボッタの皮を脱ぎ捨て、さながら空蝉より生まれし白銀の蝶の如く転生したL。拓かれた新天地。希望と出玉のカスケード。爆裂のアルカディアである。揚々とした意気込みを胸に秘め、Lが新店長就任を世間に知らしめるためにとった行動は、とてもシンプルで強烈だった。

 そう。全6イベントだ。

pachinkoya.jpg

 都会のほうだとまた状況は違うかもしれないが、筆者が当時住んでいた九州の西海岸一帯は基本的に「設定確認はすでに禁止されていた」ので、全6を謳いつつも実際はオール2とか、もはや戦争しかないようなあからさまなインチキが横行していた。デトロイトである。なんか知らんが。店内でドラム缶で火を炊いたりケバブ焼いててもおかしくない。暴動。無秩序。そんな単語が頭に浮かぶ。筆者もそんなインチキを通算で10回は喰らっていた。

 誤解のないように一応言っとくと、筆者はこれでもミーアキャットとかそっち系の小動物並みに警戒心が強い。それでいてガセイベの罠にハマりまくっていたので、要するにあの時代、あの地域の全6はそれほど頻繁に行われ、そしてガセばかりだったのである。

 筆者もその日、噂を聞いて一応は大学を休んで並んだものの、心の中では全然信じていなかった。

 なんせあの泣く子も黙るボッタ店である。並びが発生しているだけでもミラクルなレベルなのに、実際に全6をブッ込んで来る訳がない。

 見ると、周りのお客も同じような気持ちらしく、「どうせ出ない」「お布施に来た」「100ゲーム回してダメだったらトイレットペーパー盗んで帰る」とか、そういう話ばかりが聞こえてきたものだった。

 一時間ほど待機したのち、抽選を経て入場。筆者の入場順はかなり後ろの方だったが、なんとかネットの『カイゾクショック』を確保することができた。

 もとより全6は半信半疑……というか嘘っぱちだと思っていたし、どうせなら好きな台を打ちたいと思っていたのでこれは逆に嬉しかったものである。

 びっくりしたのは『サラリーマン金太郎』などの人気爆裂台に空きがあったことだ。全6ならばいの一番に埋まりそうなものなのに、半分くらい空いてた。いよいよ誰もLのことを信じていないのが、これだけでも明白であった。

 やがて打ち始めの時間が来た。

 ボリューム最大のユーロビートに合わせて、一斉にメダルの投入音が響く。スロッターの性。胸が高鳴る。脳が熱くなる。

 もうここまできたらボッタだろうが全6だろうがとことん楽しもう、という気分になって、自然と笑みが出た。

 しかしてその笑みは、一時間後に別の形に変わった。

ashino.jpg

 あ、これ絶対6だわ。俗にいう「こぜ6」である。確信した。周りを見る。並びが全部、純ハズレ=ATみたいな感じになっている。ボーナスも異様に軽い。

 なんだか狐に抓まれたような感じだった。筆者の右隣はちょうど機種の切れ目になっていて、そちらには『ハナビ』があった。こちらのムードは特に異様だった。そう。かの機種は小役カウンタ搭載機なので設定判別が効く。何度かボーナスを消化しているにも関わらず誰も離席していない時点で、最低でも5は確信している筈である。

 こりゃあ、いよいよガチらしい。そう。全6である。信じられないが、どうやらそのようだ。

 筆者はホールの意気込みに胸を打たれ、そして今月の家賃がちょうどヤバかった所に舞い降りた僥倖に、思わず唸った。

 ありがとうL。今までクソ店だと思っててゴメンなさい。ごめんなさい──。と、不意に、隣の台を打つ若者が、ATの切れ 目でクレジットを落とした。休憩か? と思っていたら、彼はメダルを持って悠然と去るや、『サラリーマン金太郎』に着座したのである。

 筆者はハッとして膝を打った。確かに。確かにである。ガチの全6となれば、こりゃあカイゾクショック打ってる場合じゃない。

 見れば、異変に気付いたお客たちが一斉に「より 6が美味しい機種」にゲルマン民族ばりの大移動を始めてる所だった。

 あっという間に埋まる『サラリーマン金太郎』。筆者はATの消化中だったので、ついぞそのビッグウェーブに乗れず。吐きそうになった。ああ、打ちたかった。サラ金の6。マジで打ちたかった。クソックソッ。なんで信じなかったんだ Lを。筆者のバカ。筆者のバカ──!

 それまで輝いて見えた『カイゾクショック』の最高設定が、途端に色あせて見えたものである。

 もちろん、かの台もAT機であるから 最高設定は相当に美味しい。シングルボーナス非搭載機なので安定性も高い。ただ、その尖ったゲーム性ゆえに通常時常にリプレイ外しを強要される面倒臭さが鼻に付く上、純粋に回らないのでAT間ちょっとハマるとメダルがガンガン減っていく。どうせ6が確定していると考えるなら、爆発力を鑑みてサラ金を打つべきだろう。

 なんかもう考えれば考えるほど残念な気持ちになり、正直いって折角の「AT機の6」だというのに、全然楽しめなかった。

 やがて閉店時間。

 オープンが夕方からだったので、実質の遊戯時間は6時間ほどであった。筆者の出玉は2500枚を少し超えるくらいだったように思う。十分である。家賃が浮いた。ATのゲーム数が短めに偏ったおかげで結構ヒヤヒヤしたが、ボーナスの軽さがそれを補ってくれた。隣の『ハナビ』も爆裂とまでは行かねど、全員箱を使っていた。

 心地よい疲労感と達成感。今日の勝負内容を反芻しながら交換所に並ぶ。スロの醍醐味である。

 いよいよすっかり全てを終え、車に乗り込んでいざ帰る段階になって、そういえば……という気になった。サラ金である。金太郎。あれはどうなった。チャンスが鼻先を掠めた分、爆裂の確認をするのが怖かったが、かの機種の秘めたるスーパーパワーを目撃するのはスロッターとしての義務のような気がして、恐る恐る、再入店してチラ見してみた。
そこには──。

 九州西海岸に過去存在したL。

 チェーンの規模は未だに拡大傾向にあるなかで、我が町のLはその翌年に潰れた。

 しばらく空き店舗だったが、Pという別のチェーン店がその場所に新規出店し、そこも三年くらいで潰れ、今は確かKという店になってるはずである。

 どの店舗も長くは続かない呪われし場所。地元住民が酒の席で語った話によると、Lが出店するまで、その場所は斎場だったとの事だった。店の裏手には墓地があり、それを見下ろすような形で駐車場があった。場所があんまり良くないよね。と彼は言って、赤ら顔で笑ったが、筆者はそうは思わない。Lは、あるいはPも、潰れるべくして潰れたのだろう。

 あの日、サラ金の並び──シングルボーナスを搭載した、本当の意味での爆裂機のコーナーは、軒並み爆死していた。新店長就任の全6イベントは全6ではなく、「爆裂機以外は全6」で、もっというとそのコーナーは多分クソ設定であった。

 死んだ鯖みたいな淀んだ目で閉店ギリギリまで現金投資をしている爺様やパネルに拳を叩き込みながら怒り狂う若者の姿を見て、筆者は思った。

 ああ、ここ多分、来年あたり潰れるな。と。
(文=あしの)

【あしの】都内在住、36歳。あるときはパチスロライター。ある時は会社員。この春から外資系の営業マン。ブログ「5スロで稼げるか?」の中の人。

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