JRA「覚醒」の初G1制覇は必然!? 重賞172戦「1番人気ゼロ」16年目35歳の穴ジョッキーが勝てた理由
拳を天に突き上げ、全身で喜びを爆発させた。
27日、中京競馬場で行われた春のスプリント王決定戦・高松宮記念(G1)は、8番人気のナランフレグ(牡6歳、美浦・宗像義忠厩舎)が勝利。主戦の丸田恭介騎手はデビュー16年目にして、嬉しい初のG1制覇となった。
前日まで降り続けた雨の影響で、この日の中京は重馬場。悪化の著しい内を通ってきた騎手も勝ち馬も、まるでダートを走ってきたかのように泥だらけだった。だが、キャリア29戦目の6歳馬と、16年目の35歳。長い苦難を共にして、ようやく初の栄冠を手にしたコンビだからこそ、それがかえって「絵」になる。ナランフレグの父は、かつてのダート王ゴールドアリュールだ。
「先生にはお世話になりっぱなしで……『何か1つでも』と思っていたんで」
レース後の勝利騎手インタビューでそう語った丸田騎手の声は涙で震えていた。2007年にデビューしてから、2018年までの約12年間。そしてこの日の中京遠征でも馬を用意してくれるなど、フリーになってからも支えてくれた師匠・宗像調教師にようやく届けられた初重賞。長く待たせてしまった分、「最も大きなレース」をプレゼントすることができた。
「丸田恭介」は、熱心な競馬ファンなら誰もが知る穴男だ。2010年の初重賞は12番人気の福島記念(G3、ダンスインザモア)。この日の8番人気の勝利を含め、これまで重賞9勝の丸田騎手だが、その内5勝が10番人気以下である。
穴党の中には熱烈なファンもいるが、本人は決して現状を良しとしていなかったようだ。
「ジョッキーになった以上、常にG1に乗って結果を出すことを目指していかないと。今を受け入れたら上にいけないから。1番人気で勝つ騎手にならないと」
『スポーツ報知』の取材にそう強い決意を語っていたのは、今年1月だった。昨年、3年ぶりに重賞を勝った(フラワーC(G3)、ホウオウイクセル)ことで、約4年間途絶えていたG1騎乗が復活した。12月のホープフルS(G1)では、当時の自己最高となる3着。「結果を出せば、状況も変わる」ことを実感したからこそ、16年目の35歳は“動いた”。
「この高松宮記念で今年3勝目と例年以上に苦戦している丸田騎手ですが、今年はこれまでの主戦場だったローカル開催ではなく、東京・中山といった中央で騎乗していることが目立ちます。
トップジョッキーがあまりいないローカルの方が勝ち星を稼ぎやすいことは確かですが、G1などの大レースが行われるのはあくまで中央。トップホース、そしてその関係者らが集う中央で結果を残すことが、大レースに騎乗することに繋がりやすいのは間違いありません。
最近では、丸田騎手の3つ上の吉田隼人騎手も、同じように中央で騎乗する機会を増やしてG1の常連になりました。丸田騎手にも思うところがあったのではないでしょうか」(競馬記者)
その地道な挑戦の“効果”はこの日、確かに表れた。
高松宮記念の舞台となる中京は、関東所属の丸田騎手にとって、騎乗馬を集めることも大変であまり乗る機会のないコースだ。実際に、昨年は3度の遠征でわずか6鞍の騎乗。9月のセントウルS(G2)にナランフレグとのコンビで挑んだが、騎乗できたレースはその1つきりだった。
しかし、この日の中京遠征では5鞍の騎乗に成功。特に高松宮記念と同じ1200mの8Rに騎乗できたことは、丸田騎手にとってもこの日の馬場傾向を掴む上でも大きかったに違いない。
結果は12番人気のユナイテッドハーツで4着という好騎乗だったが、逃げ切ったシゲルセンムを筆頭に、前にいたのはいずれも自分より内を通った馬。本番の高松宮記念で内に突っ込む決心が固まったのではないだろうか。
「これからもナランフレグと頑張っていきたいと思います」
勝利騎手インタビューをそう締めくくった丸田騎手は、これまで重賞に172回騎乗しているが、1番人気は1度もない。「穴ジョッキー」といえば聞こえはいいが、関係者やファンからの信頼を得られていないからこそ人気しないともいえる。
「1番人気で勝つ騎手にならないと」という丸田騎手の言葉には、そんな自分の現状打破への決意も込められているに違いない。中堅ジョッキーの殻を破ってトップジョッキーの仲間入りへ――。覚悟を決め、“必然”のG1制覇を呼び込んだ35歳の歩みは、まだまだこれからだ。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。
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