JRA今じゃ珍しい「元返し」の単勝100円! マヤノトップガン “じゃない方”の阪神大賞典(G2)も凄かった、ナリタブライアン「7馬身差」圧勝劇をもう一度
20日、阪神競馬場では天皇賞・春(G1)につながる重要なステップレースの阪神大賞典(G2)が行われる。
15日現在、『netkeiba.com』の単勝予想オッズで1倍台前半の断然人気に支持されているのは、有馬記念(G1)2着以来の出走となるディープボンドだ。
昨年のこのレースでは3番人気ながら、2着ユーキャンスマイルに5馬身差をつけて快勝。そのパフォーマンスが評価され、天皇賞・春では1番人気に推されたが、惜しくも2着に敗れた。悲願のG1制覇へ向けて、まずは今年の始動戦でいいスタートを切りたいところだ。
1953年に創設されたこのレース。ディープボンドが昨年に続く勝利を挙げれば、史上6頭目の連覇達成となる。過去にそんな偉業を成し遂げた5頭のうちの1頭が、94年の三冠馬ナリタブライアンだった。
ナリタブライアンの阪神大賞典制覇と聞いて、ファンの多くが真っ先に思い浮かべるのは96年のレースだろう。人気を分け合ったマヤノトップガンと4コーナー手前から並走する形でゴール前まで続いたデッドヒートは今も語り草となっている(結果はアタマ差でナリタブライアンが優勝)。
一方で、95年のレースも違う意味でインパクトの強い一戦だった。
前年に圧倒的なパフォーマンスで10年ぶりの三冠馬に輝いたナリタブライアンは、暮れの有馬記念も制し、向かうところ敵なしの状態だった。陣営は春の大目標を天皇賞に定め、阪神大賞典を始動戦に選択した。
その年は1月に発生した阪神・淡路大震災の影響で、レースが行われたのは京都競馬場だった。オッズ板に示されたナリタブライアンの単勝最終オッズはなんと1.0倍。いわゆる「100円元返し」の鉄板馬だった。
京都競馬場に詰めかけたファンのほとんどがナリタブライアンの勝利を疑わず、注目は「どう勝つか」「何馬身差で勝つか」であった。
三冠馬の古馬初戦の注目度は明らかに高かった。それはレース映像を見ても分かる。関西テレビが放送した『ドリーム競馬』内のレース中継カメラは、最内スタートから中団前目につける三冠馬の姿を最初から最後までほぼ切れることなく捉え続けていた。
実況を担当したのは杉本清アナウンサー。当然のごとくナリタブライアンの一挙手一投足を伝えた。
「いよいよナリタブライアンが始動します」という杉本アナの一言で幕を開けると、「どのような位置につけるんでしょうか」「内々を通って1番のナリタブライアン」「悠々と落ち着いているナリタブライアン」と、レース序盤から“主演男優”にスポットライトを当て続けた。
1コーナーで鞍上・南井克巳騎手(現調教師)がうまく外目に持ち出すと、超スローペースにも関わらず折り合いはピッタリついていた。レースが動いたのは2コーナー付近。四位洋文騎手(現調教師)のタマモハイウェイが掛かり気味に進出し、ナリタブライアンを交わして一気に先頭集団へと上がっていった。これに全く動じなかったナリタブライアンと南井騎手は、泰然自若の構えで4~5番手で脚を溜めた。
そして、三冠馬がようやく動いたのは3コーナーに差し掛かった辺りだった。「さぁブライアン、スパートするか。ブライアン、ちょっとちょっと、南井の手が動いて行った行った行った!白い帽子が行った!もうたまらん、もうたまらんという感じでブライアンが行った!先頭に出てしまうのか」と、淀の下り坂で加速する三冠馬の姿を杉本アナは追い続けた。
4コーナー手前、抜群の手応えで先頭に躍り出ると、直線では後続との差は開く一方。残り200m過ぎには南井騎手が横目でターフビジョンを“チラ見”する姿が捉えられている。
「さぁ、ブライアン、春の天皇賞へ向かって独走!」「ナリタブライアンに陰りなし!今年もナリタブライアンだ!」と、杉本アナは前年から続くブライアン劇場の続編を予告した。
離されること7馬身。2着には2番人気ハギノリアルキングが中団から追い込んだ。2着馬からブービー10着馬までが1秒0差だったこのレースで、ナリタブライアンがハギノリアルキングにつけたタイム差は1秒1。ほぼノーステッキでの完勝に、春の盾獲りは約束されたも同然と思われたのだが……。
その約1か月後、ナリタブライアンは股関節炎を発症。春を全休すると、その後は長いスランプに陥った。結局、連覇することになる伝説の阪神大賞典を除けば、そのパフォーマンスが戻ることはなかった。
絶大な人気を誇った三冠馬にとって、“じゃない方”の阪神大賞典もまた、忘れられないレースの一つである。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。
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