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JRA「23年で1番良い馬」オグリキャップになれなかった日本ダービー(G1)1番人気。「上手く乗れなかった」強過ぎたからこそ動けなかったM.デムーロの慢心と後悔

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JRA「23年で1番良い馬」オグリキャップになれなかった日本ダービー(G1)1番人気。「上手く乗れなかった」強過ぎたからこそ動けなかったM.デムーロの慢心と後悔の画像1

 競馬は、必ずしも1番強い馬が勝つとは限らない。
 それが難しさであり、醍醐味の1つでもある。

 特にレースの流れが特殊な流れになった場合、どうしても本来の能力を発揮できずに終わってしまう馬は珍しくない。パンサラッサが1000m通過57.6秒の歴史的ハイペースで牽引した先週の宝塚記念(G1)も、まさに「特殊なレース」の典型といえるだろう。

 昨年の上がり3ハロン最速がクロノジェネシスの34.3秒だったことに対して、今年はヒシイグアスの35.9秒。これだけを見ても、今年の宝塚記念が如何に持続力勝負の死闘となったかがうかがえる。勝ったタイトルホルダーら上位馬の走りは見事だったが、これまでミドルペース以下の瞬発力勝負で力を発揮してきた1番人気エフフォーリアにとっては、本来の力が発揮し辛い流れになってしまった。

 無論、これが競馬である。だからこそ勝ち馬は称賛されて然るべきだ。

 しかし、時としてそういった「レースのあや」によって、本来の力を発揮できずに埋もれてしまった馬がいる。特に生涯に一度しか挑戦できないクラシックの舞台では、これまで数々の名馬の卵が“幻”のまま消えていった。

「23年の中で、当歳を見た感覚では1番良い馬」

「シンザンやハイセイコー、オグリキャップ。そんな馬になってほしい」

 今から5年前の2017年の春。音無秀孝調教師はクラシック挑戦を控えた1頭の3歳牡馬にそう期待をかけた。

 1964年に史上2頭目の三冠馬となり「神馬」とさえ称されたシンザン。第1次競馬ブームの立役者として『週刊少年サンデー』(小学館)や『週刊少年マガジン』(講談社)など有名雑誌の表紙を飾ったハイセイコー。そして、競馬史上最大のアイドルホース・オグリキャップ――。

 いずれも競馬という枠を飛び越し、社会現象を起こした名馬である。21世紀以降でこの3頭に比肩したのは、無敗三冠を成し遂げたディープインパクトだけだろう。

 当時、キャリア23年目にして名伯楽の域に達していた音無調教師は2009年にJRA特別賞を受賞したカンパニーや、メイケイエールの父として知られるミッキーアイルなど数々の名馬を手掛けていた。だが、それでも「すごかった。他の馬とは比べものにならん」とまで言わしめた逸材が、父にディープインパクトを持つアドミラブルだった。

 キャリア3戦で日本ダービー(G1)を勝ち「和製ラムタラ」と言われたフサイチコンコルド、皐月賞馬のヴィクトリーなどが一族に名を連ねるアドミラブル。音無調教師は幼少の頃から「生まれてすぐに見た時からG1馬になると思っていた。馬体が雄大で、ディープインパクトの子供らしくバネがある柔らかい走り」「今まで23年の中で、当歳を見た感覚では1番良い馬だったかもしれない」と最上級の評価を与えていた。

 アドミラブルは、そんな師の慧眼に叶うだけの逸材だった。デビュー戦こそノド鳴りの影響で力を発揮できず、出世が遅れたものの術後から3連勝。その内容も、まさにクラシック級である。

 初勝利は皐月賞トライアルの弥生賞(G2)当日までズレ込んだが、阪神・芝1800mの未勝利をほぼ馬なりのまま2馬身半差で完勝。勝ち時計の1:45.8は、同日同舞台で行われた大阪城S(OP)よりも1.3秒も速かった。

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M.デムーロ騎手

 続く2戦目のアザレア賞(1勝クラス)も、単勝1.9倍に応えて3馬身差の圧勝。このレースから手綱を取ったM.デムーロ騎手も「メチャ強いですね」と絶賛し、『netkeiba.com』で先日28日に掲載された『Road to No.1 M.デムーロ 世界一になる』では「これはダービーを勝つチャンスだ!」と当日の心境を語っている。

 それでもアドミラブルが、多くの競馬ファンに「世代の勢力図を一気にひっくり返すかもしれない」と思わせたのは、3戦目の青葉賞(G2)だった。

 単勝1.5倍に推された一戦は、2着ベストアプローチらライバルたちをまったく相手にしない2馬身半差の圧勝劇。勝ち時計の2:23.6は断トツの青葉賞レコードであり、前年の日本ダービーよりも0.4秒速い破格のタイムだ。

 だが、この青葉賞には「ダービー馬になれない」という今なお続くジンクスがある。

 過去の勝ち馬には2002、03年の年度代表馬シンボリクリスエス、2004年の年度代表馬ゼンノロブロイ、天皇賞・春(G1)を連覇したフェノーメノなどが名を連ねるが、いずれもあと一歩で涙を呑んだ歴史があるのだ。

 それでもアドミラブルは、日本ダービーを単勝1番人気で迎えた。これは上記した3頭でも成し得なかったことであり、ついに「青葉賞からダービー馬が出る」と多くのファンが本馬の強さを見込んだ証だ。

「上手く乗れなかった」M.デムーロの慢心と後悔

「いろんなことを考えたダービーでした」

 しかし、「レースのあや」を司る勝利の女神はアドミラブルに微笑まなかった。1000m通過が63.2秒という歴史的スローペースは、紛れもなく特殊なレースの典型である。

 道中、スローを嫌って2番人気のレイデオロとC.ルメール騎手が先に動いたが、デムーロ騎手は追いかけなかった。結果だけを見れば、レイデオロがそのまま押し切って世代の頂点に立ち、アドミラブルは上がり最速で追い上げたものの3着だったのだから、デムーロ騎手に慢心があったと言わざるを得ない。「レイデオロがあんなに強いと思ってなかった」と悔しがっても後の祭りである。

 だが裏を返せば、デムーロ騎手はそれだけアドミラブルの力に自信があったということだ。特に「絶対に(ダービーで)勝ち負けできると思ってた」と振り返る青葉賞の内容はあまりに秀逸で、だからこそ名手に安全策を選択させたのだ。

「ダービーは上手く乗れなかった」

 あれから5年。音無調教師が最高傑作と期待したアドミラブルは日本ダービー後に脚部不安を発症して長期休養を強いられると、度重なるアクシデントによって一度もターフに戻れなかった。

「めちゃめちゃいい馬だった。忘れないね、あの馬のことは」と語ったのはデムーロ騎手だ。無論、仮にレイデオロを追いかけたアドミラブルが、日本ダービーを勝てたかは誰にもわからない。だが、音無調教師らアドミラブルの関係者は「必ずしも1番強い馬が勝つとは限らない」と改めて競馬の難しさを思い知ったに違いない。

(文=浅井宗次郎)

<著者プロフィール>
 1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)

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