
JRA武豊ドウデュースら「本当の敵」は凱旋門賞離れ!? タイトルホルダー馬主が掲げた「狂騒曲」の終止符が賛同される理由

2日、宝塚記念(G1)を勝ったタイトルホルダーの共有オーナー岡田牧雄さんが『現代ビジネス』の取材に応え、凱旋門賞を勝利し「狂騒曲」に終止符を打つと息巻いているが、大いに賛成したいのは筆者だけではないかもしれない。
言い得て妙である「凱旋門賞狂騒曲」とは、言うまでもなく日本競馬が長年「悲願」として掲げる凱旋門賞(仏G1)へ、毎年のように現役最強馬を次々と送り込み“玉砕”し続けている現象のことである。
無論、日本馬が凱旋門賞制覇を目指すことに意味がないというつもりは毛頭ない。だが、単純に秋競馬の最盛期に、その主役となるスターホースが不在というダメージは小さくはないし、日本の競馬ファンからの凱旋門賞挑戦に対する疑問の声も年々大きくなっている印象だ。
そして、それ以上に深刻に感じられるのが欧州の競馬関係者の「凱旋門賞離れ」である。
この日、英国のサンダウン競馬場では芝2000mのエクリプスS(G1)というレースが行われる。これまで日本馬が参戦した歴史がないこともあって、日本の競馬ファンにとってあまり馴染みのないG1レースかもしれない。だが、欧州では年々評価を高め、近年は英国有数のビッグレースとして認知されている。
ちなみに昨年の勝ち馬は、同年の仏ダービー馬のセントマークスバシリカ。4月のドバイシーマクラシック(G1)で日本のクロノジェネシスやラヴズオンリーユーを破ったミシュリフらを寄せ付けずG1・4連勝を飾っている。秋には愛チャンピオンS(G1)で5連勝を飾り、欧州の年度代表馬に輝いた。
あれから1年。今年も仏ダービー馬のヴァディニが出走を予定している。
超ハイレベルな今年のエクリプスS
先月の仏ダービー(G1)を5馬身差で圧勝し、凱旋門賞を目指すタイトルホルダーや日本ダービー馬ドウデュースなど日本勢のライバルになることが懸念されていたが、今回は約850万円の追加登録料を支払っての出走。陣営は完全に2000m路線に舵を切っており、2400mには興味がないようだ。
この仏ダービー馬に待ったをかけるのが、同じ3歳馬の世代No.1マイラー・ネイティヴトレイルだ。
昨年、G1・2勝を含む無傷の4連勝で欧州の最優秀2歳牡馬に輝いたネイティヴトレイル。今春の英2000ギニー(G1)を2着に敗れてキャリア初黒星を喫したものの、続く愛2000ギニー(G1)で貫録のG1・3勝目。今回が初の2000m挑戦になるが、あっさりこなしてしまうだけのスケールを感じさせる逸材だ。
今年のエクリプスSがハイレベルと言われる所以はこの2頭が、日本のシャフリヤールが敗れたプリンスオヴウェールズS(G1)で1番人気(2着)だったベイブリッジや、昨年の3着馬ミシュリフらを抑えて一騎打ちの様相を呈していることだ。
まだ夏競馬が始まったばかりだが、間違いなく秋の中距離戦線に大きな影響を与えるレースになるだろう。
凱旋門賞やブリーダーズCターフといった2400mとは一線を画す欧州の中距離戦線には、この後にもインターナショナルS(G1)や英・愛のチャンピオンSといった、近年評価を高めているビッグレースが目白押しだ。
セントマークスバシリカやヴァディニのように、これまでなら凱旋門賞に有力候補の一角として名を連ねてもおかしくない強豪が中距離路線を選択するケースも増えている。
実際にIFHA(国際競馬統括機関連盟)が定める『2020年世界のトップ100・G1競走』では、先述したインターナショナルSが第1位に輝き、2位に愛チャンピオンSが続いており、凱旋門賞は11位タイに甘んじだ。
こういった風潮で懸念されるのが、凱旋門賞の形骸化だ。つまりは価値の下落である。
例えば、日本の牡馬クラシック最終戦となる菊花賞(G1)へ参戦する有力馬が年々減少傾向にあるように、近年の欧州にも長距離レースが敬遠され「2400mよりも2000m」という風潮が生まれつつある。
無論、昨年の『世界のトップ100』の第1位が凱旋門賞だったように、欧州の中心はまだまだ2400mだ。だが世界的にスピード化が進む中、年々凱旋門賞の価値が下降傾向にあることは間違いない。
このままいけば、仮に日本馬が凱旋門賞を制して長年の悲願を達成したとしても、欧州の関係者から「落ち目の凱旋門賞くらいなら……」という水を差すような声が聞こえてくるかもしれない。
宝塚記念の完勝で現役No.1を決定づけたタイトルホルダー、日本のレジェンド・武豊騎手と挑むドウデュース、今春のドバイシーマクラシックで改めて強さを見せつけたシャフリヤール、昨年は前哨戦のフォワ賞(G2)を制したディープボンド、世界的実績を誇る矢作芳人厩舎が送り込むパンサラッサ、ユニコーンライオン、ステイフーリッシュ――。
あくまで登録段階だが、今年は例年以上に楽しみな“日本代表”が揃った。
日本競馬は着実に進化しており、今や世界的な評価もうなぎ登りといっても過言ではない。もし今年、凱旋門賞制覇を逃したとしても近い将来、日本馬が欧州で悲願を達成することは確実だろう。
だが、その時に凱旋門賞の価値が従来の物でなければ本末転倒だ。いずれ勝つことは間違いだろうが「真の悲願達成」にこだわるのなら、案外、多くの時間は残されていないのかもしれない。
(文=銀シャリ松岡)
<著者プロフィール>
天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。
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