「ダメ馬にはダメ馬なりの道がある」!? パイオニア森秀行調教師の「無謀なる遠征」に称賛の嵐
しかし、森調教師には確かな「狙い」があった。一つはこの2頭が前述したように重賞で掲示板に載った実績があるため、ドバイから招待される可能性があること。そして、もう一つが今年のUAEダービーの出走予定頭数が少なかったことだ。
結果的に森調教師の目論見はまんまと的中し、賞金総額が「200万ドル(約2億2,000万円)」のUAEダービーは「わずか7頭」で争われることに。さらに森厩舎の2頭も無事に招待を受けることとなったため、「遠征費等の諸経費が、全額ホスト持ちになった」ことも大きい。
ちなみにユウチェンジとオンザロックスに絶望的な差を見せつけた、リオンディーズやエアスピネル、サトノダイヤモンドらが集う皐月賞(G1)の賞金総額は1億7500万円。フルゲートなら18頭の争いになる。
これを見れば、森調教師の手腕……言い換えれば、場所を問わない「グローバルな視点」とプランを実行する「経験と判断力」は、十分に称賛されるべきものだろう。仮に国内に残っていたとしても両頭は、皐月賞に出走することさえ極めて難しい立場だったのだから。
そして、森調教師の抜かりないところは、そんな日本では力の一枚落ちる2頭の馬に「世界最高のビッグチャンス」を用意するだけでなく、僅かでも上の着順を狙うためJ・モレイラ、M・デムーロというワールドクラスの騎手を手配したところだ。
結果的に、ユウチェンジは3着に入線した。オンザロックスも5着確保で約650万円をゲット。ちなみにユウチェンジが得た3着賞金約2200万円は、朝日杯FSで4馬身以上ちぎられたリオンディーズの弥生賞(G2)2着の賞金とほぼ同額、3着だったエアスピネルを完全に上回っている。
無論、これら3頭に力の差があることは確かであり、同世代における立場も目指すところも異なるかもしれない。しかし、森厩舎に馬を預けている馬主からすれば、これほどありがたい話は、そうないのではないだろうか。
確かに近年の森厩舎は全盛期に比べれば成績は下降し、JRAの重賞勝ちも2010年が最後である。
しかし、競馬雑誌『優駿』に掲載されていた「中央競馬の枠組みの中で戦っている限り、それは定められた総賞金という”一つの山”を何百人かの調教師で奪い合っている。しかし、その枠組みから外に飛び出していけば、山は一つではない。賞金の上限はそれこそ無限に近くなる」という森調教師の言葉は、所有馬に1円でも多く稼いでもらいたい中小の馬主にとっては本当に心強い言葉だろう。