桜花賞&NHKマイルCによる「変則二冠」達成。最強3歳に唯一足りないピース「非業」の名牝ラインクラフト
戦前から「史上最高のメンバー」の呼び名が高かった今年の3歳牡馬クラシック。その主役の一角を務めるリオンディーズとエアスピネルの対決は、かつて同世代だった母シーザリオとエアメサイアから続く「因縁の戦い」である。
リオンディーズの母シーザリオがオークス(G1)を勝ち、エアスピネルの母エアメサイアが秋華賞(G1)を勝って当時2005年のクラシックを分け合ったこともあり、このような「血のドラマ」が現実に起こることも、まさにブラッドスポーツなる競馬の醍醐味の一つといえるだろう。
ただ、本来であれば、この2世代に渡る血のドラマに参加していなければならなかった、もう一頭の名牝いた。
2005年の残る一冠・桜花賞(G1)を制したラインクラフトである。
実は、ラインクラフトに流れるファンシミンの血は、日本を代表する成功を収めた牝系でありながら、同時に「G1を勝てない一族」といわれていた。
1972年に社台グループによって日本へ導入された繁殖牝馬ファンシミンは、そこから最優秀障害馬を受賞したブロードマインドの他にも、ダイナシュート、ダイナフェアリー、ローゼンカバリーといった数多くの重賞勝ち馬を輩出し、その血を大きく広めることに成功している。だが、G1のタイトルには何故か縁がなかった。
しかし、ファンシミンが日本に来てから約33年後の2005年、一族のアドマイヤマックスが高松宮記念(G1)を勝利。「一族の悲願」がようやく達成されたかと思えば、その僅か14日後、今度はラインクラフトが桜花賞を完勝している。
そして、さらに翌年にはソングオブウインドが菊花賞(G1)を勝ってしまうのだから、まさにファンシミン系の溜まりに溜まった鬱憤が爆発したような「血の奇跡」であった。
後の日米オークス馬となるシーザリオとの大接戦の末に桜花賞を制したラインクラフトは、その類まれなるマイラーとしての適性を見込まれ、オークスではなくNHKマイルC(G1)に挑戦する。
牝牡含めてクラシックホースがNHKマイルCに挑戦した例は、後にも先にもラインクラフトただ一頭である。それもただ挑戦しただけでなく、見事に”変則二冠”を成し遂げてしまうのだから本当に凄い。
ただ、実はこの時のラインクラフトは出走馬中、唯一のG1馬であったにもかかわらず2番人気に甘んじている。