JRAウオッカとサトノレイナスの日本ダービーを徹底検証。女王ソダシに迫った「牝馬No.2」は牡馬に通用するのか?
サトノレイナスは、日本ダービーで通用するのか――?
いよいよ週末に迫った第88回東京優駿(日本ダービー)において、大きなテーマである牝馬サトノレイナスの挑戦。その可能性を検証してみた。
牝馬のダービー制覇といえば2007年のウオッカが思い出される。しかし、あのレースを振り返るには、まず当時の牡馬のレベルをチェックする必要があるだろう。
クラシック一冠目の皐月賞(G1)を制したのは7番人気のヴィクトリー、2着は15番人気のサンツェッペリン、そして3着は2番人気フサイチホウオーだった。そのフサイチホウオーは日本ダービーで単勝1.6倍の1番人気に支持されたものの、直線まったく伸びず7着に敗退。さらにヴィクトリーもサンツェッペリンも敗退している。この3頭は、日本ダービー以降さらに大敗を重ね、2着もないまま引退している。
さらに日本ダービーでウオッカの2着だったアサクサキングスは、後に菊花賞を制したものの、古馬になってG1レースを勝利することはできなかった。つまり当時の3歳クラシック戦線における牡馬のレベルは、かなり低かったと言えるのである。もちろん勝ったウオッカの勝利に水を差すつもりはない。同馬も、同世代のライバルであったダイワスカーレットも非常に強かった。ただ同世代の牡馬に恵まれた印象は否めないのである。
では今年の牡馬はどうだろうか。
無敗で皐月賞を圧勝したエフフォーリアを筆頭に、今年行われた3歳混合重賞の9レースはすべて牡馬が勝利している。中には1番人気に支持された馬もいたが、牝馬は14頭すべてが敗退しているのだ。この段階で今年の3歳世代は「牝馬よりも牡馬の方がレベルは高い」と言っていい。
ソダシが桜花賞で記録したレコードタイムは確かに評価されるべきだが、近年の高速馬場ではレコードタイムの価値はそれほど高くはない。むしろ直接対決での力関係がすべてだろう。
牝馬のクラシック挑戦は日本ダービーのウオッカ、ビワハイジ、レッドリヴェールなどに限らず、皐月賞のファンディーナ、菊花賞のダンスパートナーなどが挑戦するも、ウオッカの1着以外はすべて完敗と分が悪い。最近古馬のG1レースでは牝馬が牡馬を圧倒しているが、それらの多くは4歳秋以降であり、クラシックにおいてはやはり牡馬が有利と言える。
ではサトノレイナス自身はどうだろうか。
まず血統の父ディープインパクトは文句なし。ここまでディープインパクト産駒は日本ダービーを6勝しており、兄サトノフラッグは日本ダービーで11着だったが、3000mの菊花賞は3着に好走している。
デビュー勝ちを決めた東京コースの適正も高く、そして鞍上はリーディングジョッキーで大一番に強いC.ルメール騎手。2017年のレイデオロ以来となる日本ダービー優勝に向けて並々ならぬ決意を持っているはず。そして管理する国枝調教師は、アーモンドアイやアパパネといった名牝を管理した名伯楽で、定年まで5年となった今、悲願の日本ダービー制覇へ向けて持てるすべてを費やして挑むだろう。
ローテーションも桜花賞からの中6週は、皐月賞よりも1週長く理想的とも言える。中間はノーザンファーム天栄で調整され、ここまでの追い切り内容から仕上がりに不安は感じられない。ここまで4戦して2勝2敗と成績は安定し、4戦中3戦で上がり最速を記録。重賞は未勝利だが、阪神ジュベナイルフィリーズと桜花賞でともに2着に好走しているので、実績的に大きなマイナスではない。
しかし、大きな不安要素が2つある。
その一つはここまで1600mしか経験がないということ。オークスのソダシがそうだったように、桜花賞の1600mから800mの距離延長はこの時期の牝馬にとってかなり厳しいと言わざるを得ない。そもそも過去20年の日本ダービーを振り返っても、1600mを超える距離の経験がなかった馬の好走は皆無。そのデータからも、サトノレイナスが距離延長に戸惑い力を出し切れないことは十分に考えられる。
もう一つは牡馬との対戦経験がないことだ。ウオッカは2歳時に牡馬と対戦した経験があり、少なからずそれはプラスに作用しているはず。しかしサトノレイナスはデビュー以来牝馬としか対戦経験がない。
エフフォーリアを筆頭に牡馬の強豪が揃った相手関係、そして初の2400mと牡馬との対決。さらに細かく言えば初のコーナー4つと初のスタンド前発走、そして8枠16番の外枠など、この日本ダービーはサトノレイナスにとって不安要素が多すぎる。
結論としては、サトノレイナスが日本ダービーで勝利を掴むだけでなく、上位に好走するのもかなり厳しいと言わざるを得ない。今回は思い切って「消し」の判断もありだ。(文=仙谷コウタ)
<著者プロフィール>
初競馬は父親に連れていかれた大井競馬。学生時代から東京競馬場に通い、最初に的中させた重賞はセンゴクシルバーが勝ったダイヤモンドS(G3)。卒業後は出版社のアルバイトを経て競馬雑誌の編集、編集長も歴任。その後テレビやラジオの競馬番組制作にも携わり、多くの人脈を構築する。今はフリーで活動する傍ら、雑誌時代の分析力と人脈を活かし独自の視点でレースの分析を行っている。座右の銘は「万馬券以外は元返し」。
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