JRA一時は差し押さえ対象に!? 落札額に見合う活躍を求められるのは“宿命”か……“波乱万丈”過ぎる5億円ホースの現在地
今週の競馬は、東京・阪神・新潟へと開催替わり。例年この時期になると、クラシック路線を目指す有力2歳馬勢が大挙、関東・関西の開催に狙いを定めて出走してくる。
中でも今週の注目は開幕初日の9日、阪神5Rの新馬戦に登場するショウナンアデイブだ。昨年のセレクトセールでの落札額は5億6100万円 (以下、税込)。国内の1歳セリ史上最高額で取引された同馬のデビュー戦を、楽しみにしているファンも多いだろう。
また同馬が落札される直前に4億4000万円で落札された、ダノンマイソウルのデビュー戦を待ちわびているファンも多い。さらに2019年のセレクト当歳馬セールにおいて5億760万円で落札されたリアドは今月24日、阪神の新馬戦でデビュー予定と、今年の秋は例年にも増してセレクトセールで高額取引された馬が注目を集めている。
そんなセレクト高額馬の現役競走馬の中ではアドマイヤビルゴが有名だろう。こちらは17年のセレクト当歳で6億円を超える金額で落札された「6億円ホース」。デビュー以来9戦4勝、獲得賞金は約8千万円と6億円にはまだまだ及ばない。セレクト高額馬はどうしてもその落札価格が話題となり、金額に見合った活躍が期待される点は、ある意味“宿命”と言える。
こうした“宿命”を背負うセレクト高額馬のなかでも、“波乱万丈”を絵に描いたような競走馬がいる。04年のセレクト当歳では、当時の歴代最高価格となる5億円を超える金額で落札されたザサンデーフサイチを憶えているファンも多いのではないだろうか。
同馬のオーナーは、当時の競馬界を席巻した関口房朗氏。わずかデビュー3戦で日本ダービー(G1)を勝利したフサイチコンコルドの馬主であり、フサイチ軍団は日本のみならず米国のケンタッキーダービー(G1)も制覇。セリでは世界中の大金持ちを相手に存在感を見せつけ続けた「フサイチ軍団」の総帥だ。
その落札価格から注目を集めたザサンデーフサイチは06年にデビュー。しかし現役時代の通算成績は41戦3勝で、獲得賞金は約7千万円と5億円には遠く及ばない賞金を残して11歳で現役引退してしまった。
当時の競馬界を席巻していた関口氏だが、後年は高額馬への投資を縮小。数頭の所有馬を手放す中、ザサンデーフサイチは6歳時には一時的に大津地裁に差し押さえられるという一幕もあった。
その後、種牡馬を引退したザサンデーフサイチについては先月17日、引退馬ファンクラブ「TCC」(Thoroughbred Community Club)が、その身を預かることを発表したばかり。「TCC」とは競走馬の現役引退後の余生を考え、引退馬の支援や馬を介したリハビリを行う施設であり、行き場を失った馬たちにかかる資金はファンクラブ会費でまかなわれるなど、人とサラブレッドの新しい“架け橋”となる事業を推進する組織として注目を集めている。同組織のHPによれば、同馬は去勢手術を行った後、施設に入る予定だ。
競馬はブラッド・スポーツであり、競走馬が「経済動物」である限り、良血馬は高額で取引される反面、その期待に応えるか否かは、走ってみないと解らないという現実もある。
今週デビューするショウナンアデイブをはじめ、セレクトセールで高額取引された良血馬には、どんな未来が待っているのか。彼らのデビュー戦に限らず、今後の競走馬生活を温かく見守りたい。
(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール> 野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。
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