福永祐一「格の違い」見せつけられたトラウマ払拭?
17日、小倉競馬場で行われた博多S(3勝クラス・芝2000m)は、福永祐一騎手の5番人気ルペルカーリア(牡4、栗東・友道康夫厩舎)が快勝。これまで4度跳ね返されてきた3勝クラスの壁を5度目の挑戦でクリアした。
未完の大器がようやく本格化の気配を感じられる復活勝利だ。特筆すべきは見た目以上に強さが伝わる勝ちっぷり。好スタートを決めると外からハナを主張してきたホウオウエクレールを一旦先にやって2番手からの追走。ペースも流れて1000m通過の前後半が58秒6-58秒4と先行勢に厳しい流れを押し切った。
勝ちタイムの1分57秒0は、今夏の小倉開催でレコード勝ちしたガイアフォースの1分56秒8(ともに良馬場)とわずか0秒2の差しかない。後者が54キロでまだ馬場状態の良好だった3日に記録していたことを考慮すると互角以上の評価も可能だろう。
血統的にもモーリス×シーザリオという超良血馬だけに楽しみはある。今回の走りが本物なら秋の重賞挑戦も視野に入りそうだ。
「外枠から自分のリズムで運べました。ペースは気にせず、失速しない馬なので待たずに動いていきました。この形でこれからもやっていければ良いのかなと思います」
会心のレースをそう振り返った福永騎手のコメントから伝わるように、試行錯誤を繰り返した鞍上の導き出した答えが正しかったことを証明する結果。コンビを組んだ9回目にして“最適解”に辿り着けたのかもしれない。
「直近の3走も福永騎手が騎乗していましたが、手応えの割に伸びない敗戦を繰り返していました。折り合いを重視してのことでしょうが、後方からの競馬を意識するあまり、馬のリズムと合わなかった可能性も考えられますね。
それが今回はどちらかというと完全に馬任せ。高い能力がありながら乗り難しい面のあるシーザリオ産駒の特徴をいい方に引き出した好判断だったと思います。福永騎手の『この形』という表現もそれを踏まえてのことなのでしょう」(競馬記者)
母シーザリオは現役時代に福永騎手が手綱を取って日米オークス制覇をした思い入れの強い名牝。G1を制した産駒のリオンディーズやサートゥルナーリアに騎乗する機会は巡って来なかったが、ルペルカーリアの成長は頼もしい限りだろう。
その一方、ルペルカーリアの圧勝劇は兄であるエピファネイアが制した2014年のジャパンC(G1)を彷彿させるシーンでもあった。
今でこそ頼れる騎手に成長した福永騎手だが、2018年にワグネリアンで悲願の日本ダービー(G1)制覇を成し遂げるまでは、ここ一番で勝ち切れない弱点を抱えていた。
当時のジャパンCにはもう1頭のお手馬であるジャスタウェイが参戦していたこともあって、エピファネイアの手綱を任されたのは世界的名手のC.スミヨン騎手。奇しくも福永騎手のお手馬2頭の直接対決が実現した訳だが、初騎乗のスミヨン騎手が直線で4馬身の差をつける大楽勝だった。
ジャスタウェイで2着に敗れた福永騎手も「あそこまで強いとは思っていなかった。スミヨンも初騎乗でうまく抑え込んでいたしね」と驚くほかなかった。それまで何度も騎乗しながら乗りこなせなかったパートナーのポテンシャルを初コンビの相手が完璧に引き出したのだから、“格の違い”を見せつけられたといっていい。
これには福永騎手も「俺から乗り替わったから強いって言われるのは当然だと思うし。そういう評価をする人がいるのは自然だと思う」と複雑な心情を吐露。「自分じゃ到底かなわないとも思わない。すごいジョッキーだとは思うけどね」と強がるしかなかったが、世界との壁を認めたくない感情がトラウマになったかもしれない。
2頭の対決は同年暮れの有馬記念(G1)でも再現したものの、スミヨン騎手から乗り替わった若手時代の川田将雅騎手も同様に結果を残せない5着。競馬ファンの多くが世界的名手の実力を痛感させられることになった。
過去のそういった経緯があるからこそ、伸び悩んでいたルペルカーリアで福永騎手が完璧な騎乗を見せたことにちょっとした感動すら覚えたのは筆者だけだろうか。
18日のマーキュリーC(G3)でもバーデンヴァイラーで勝利した福永騎手。年齢的にはもうベテランだが、円熟味を増した手腕は間違いなく世界の一流騎手に近づいているはずだ。
(文=黒井零)
<著者プロフィール>
1993年有馬記念トウカイテイオー奇跡の復活に感動し、競馬にハマってはや30年近く。主な活動はSNSでのデータ分析と競馬に関する情報の発信。専門はWIN5で2011年の初回から皆勤で攻略に挑んでいる。得意としているのは独自の予想理論で穴馬を狙い撃つスタイル。危険な人気馬探しに余念がない著者が目指すのはWIN5長者。
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