凱旋門賞馬が敗戦も「武豊の夢」には悲報? 欧州で浮き彫りとなった過酷な現実
現地時間23日、イギリスのアスコット競馬場で行われたキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(G1)は、イギリス馬のパイルドライヴァー(牡5、W・ミューア&C・グラシック厩舎)が優勝した。
6頭立ての最低人気という評価を覆したパイルドライヴァーだが、これで2021年のコロネーションCに次ぐ2勝目のG1タイトル。プロレスの技でも有名なパイルドライヴァーという馬名も、オールドファンにとっては親しみを覚える響きではないだろうか。
2馬身3/4の差をつけて破った相手は、なんと昨年の凱旋門賞(仏G1)を制しているトルカータータッソ。3着ミシュリフは日本でもお馴染みの実力馬だが、そんな強豪が2着からさらに8馬身も置き去りにされたのだから驚かされる。
陣営も次走に凱旋門賞を視野に入れていると表明。あのトルカータータッソを負かしたのだから色気を持つのも無理はない。凱旋門賞後にはブリーダーズC(米G1)やジャパンC(G1)、香港国際競走に向かうプランもあるという。
ただ、この“強過ぎた”パイルドライヴァーに真っ向勝負で勝利した日本馬がいることも思い出しておきたい。
それは今年3月にアラブ首長国連邦のドバイにあるメイダン競馬場で開催されたドバイシーマクラシック(G1)を快勝したシャフリヤールだ。凱旋門賞でも人気の一角となりそうな馬に快勝しているのだから、相当レースレベルが高かった一戦だったことが分かる。
「日本のトップクラス5頭が参戦したこのレースを制したのが、昨年のダービー馬シャフリヤールでした。3着にオーソリティー、5着にもユーバーレーベンが入り、世界に通用するところを見せましたね。
これがいかに凄いことだったのかは、敗れた外国馬のその後の成績を見ると明らか。4着のパイルドライヴァーについては先述した通り。2着ユビアー、6着アレンカー、7着フクムの成績を見てみてください。シャフリヤールの強さが際立ちます」(競馬記者)
確認したところ、2着ユピアーはマンノウォーS(米G1)で3着に敗れたが、次走のG2で最後方から突き抜けて圧勝。6着フクムはタタソールズGC(愛G1)を勝利し、7着フクムはコロネーションC(英G1)でパイルドライヴァーに4馬身1/4差をつけている。
優勝したシャフリヤールは、次走のプリンスオブウェールズS(英G1)で見せ場もなく敗れてしまったが、こうして振り返れば倒した面々は大物ばかり。ドバイシーマクラシックの勝利は価値がある。
そこで痛感させられるのは、やはりレースやコースの適性だろう。
欧州の馬場で活躍できない日本馬だが、ドバイや香港のレースなどでは正反対。2月のサウジカップデーでも大活躍が話題となった。そういう意味でもこれらの競馬場は日本馬向きの条件ということなのだろう。
こういった背景を考えると、ジャパンCに参戦した欧州の馬が好走できない理由もまた然りである。彼らに勝てたからといって、日本馬が凱旋門賞で同じ成績を残せるのかとなると、必ずしもそうであるとは言い切れない。
当然のことながらこの目を逸らせない現実は、近年の凱旋門賞に挑戦した日本馬たちにとっても、高い壁として立ちはだかっている。
単純に相手関係の比較だけなら、ドバイシーマクラシックの結果を素直に喜びたいところだが、「アウェイ」で苦戦を強いられた欧州馬が「ホーム」に戻って実力を発揮しただけとも言えそうな内容だ。昨年まで100回を誇る凱旋門賞の長い歴史の中で欧州調教馬以外の馬が一度も勝ったことがないという過酷な現実は無視できない。
「武豊騎手で凱旋門賞を勝つのが夢」と公言しているキーファーズが送り込むドウデュース、タイトルホルダーをはじめ、今年挑戦を表明している日本馬たちは、今度こそ「アウェイ」を克服することが出来るだろうか。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。
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