
「同枠問題」にファンが不満を募らせた枠連オンリー時代…オールドファンには懐かしい「単枠指定」も登場!【競馬クロニクル 第65回】

1991年の8月。秋競馬から発売される新馬券『馬連』の試験発売が函館競馬でスタートした。
筆者は日高の牧場取材をわざとこの時期にぶつけて、週末は函館競馬場へ乗り込むプランを決行。すると、どうだろう。場内で知った顔を何回見たことか! なかにはパドックの掲示板に表示された馬連のオッズを見ながら「おー、付く、付く、付く」と口にしながら興奮する知人までいるほどで、まったく競馬ファンというのは手に負えないと呆れた記憶がある(などと偉そうに言いながら、自分もなけなしの軍資金をポケットに突っ込んで当地へ駆けつけていたわけだが)。
枠連時代に発生した問題と馬連への変遷
1963年の『8枠連勝複式』(正式名称は『枠番号二連勝複式)、いわゆる現在の『枠連』導入以降、これが長く馬券の主流を占めていた。しかしこの賭式には、いくつもの欠点があった。
なかでも最大の問題は、1つの枠に2~3頭が入ったケースで、1頭が出走取消や競走除外となった場合でも、馬券が払い戻されないという欠点(『同枠取消問題』とも呼ばれた)。特にその1頭が上位人気馬であった場合には、ルールだとはいえ馬券の取り扱い(払い戻されないこと)についてたびたびファンは不満を募らせていた(何度かは騒擾事件に発展するケースもあった)。
この欠点を補うため、中央競馬が1974年に導入したのが『単枠指定制』である(導入当初は『シード制』と呼ばれた)。
『単枠指定制』とは、投票が集中するとみられる馬を1頭しか入らない枠、『単枠』に固定する制度。仮に単枠指定した馬が出走取消、発走除外されても馬券面で他の馬に影響を与えないことから『同枠取消問題』が回避できる利点があった。指定される馬は概ね単勝の支持率が30%を超えそうな馬というのが目安とされ、1973年の日本ダービーに出走した“元祖アイドルホース”ハイセイコーの人気ぶり(単勝支持率66.7%)の存在がこの制度を採用する契機となったと言われている。
ちなみに『単枠指定』第1号は1974年の皐月賞に出走したキタノカチドキで、このときは同馬が優勝。その後も、トウショウボーイ、ミスターシービー、シンボリルドルフ、オグリキャップ、タマモクロス、メジロマックイーン、イナリワンなど、錚々たる面々が指定を受けた。
さて、『8枠連勝複式』のもう一つの問題点、いや、ファンが不満を募らせていたのは、往々にして“穴馬が上位に入ったのに配当が安い”ケースが続発する点にあった。
1989年のエリザベス女王杯(20頭立て)を例に見てみよう。
1着は最低人気のサンドピアリスで、単勝4万3060円はグレード制導入以降のG1記録としていまだに残っているレコードだが、同馬は同枠に7番人気のライトカラー(オッズ23.2倍)などが入っており、2着にも10番人気のヤマフリアル(オッズ27.8倍)が入ったのにもかかわらず、枠連の配当は単勝の約5分の1となる8460円にとどまったのだ。これでは当たっても「腑に落ちない」と感じるのが普通だろう。
確かに、狙った馬が3着以下に敗れたのに、同枠に入った他の馬が2着以内に入って馬券が当たる、いわゆる「代用」の的中があったり、枠順抽選の際にどの馬が同じ枠に入るのかというワクワクがあったりと、『枠連』にも楽しみがあったことは否定しない。しかし、そもそも『8枠連勝複式』が採用された理由が、やたらと射幸心を煽らないことにあるのだから、ファンの不満が長いあいだ燻り続けたのは道理だった。
そうしたファンの配当面での不満や『同枠取消問題』を解消するため、1991年に導入されたのが『馬番号二連勝複式』、つまり『馬連』だったのだ。
『馬連』の好評を受け、中央競馬は『ワイド』(拡大馬番号二連勝複式、1999年)、『馬単』(馬番号二連勝単式、2002年再導入)、『3連複』(馬番号三連勝複式、2002年)、『3連単』(馬番号三連勝単式、2004年)と、高配当が望める新馬券を導入。そして2011年には指定された5レースの勝ち馬を当てるという的中至難な馬券で、“億”の配当がしばしば出現する『WIN5』(5重勝単勝式)が誕生し、現在に至っているのはご存じのとおりである。
『馬券』という括りでもう一つ触れておきたいのが、中央競馬の全国全レースが買えるようになったのは意外なほど遅く、2003年だったということだ。
1983年まで馬券は基本的に関東エリア、関西エリアを分けて発売されており、東西の規(のり)を越えて売られていたのは“旧八大競走”(3歳クラシック5レース、春秋の天皇賞、有馬記念)に加え、宝塚記念やジャパンCなど、格が高いとされる重賞に限られていた。そして、すべての重賞が全国発売となるのは1984年のこととなる(東西の人馬が入り乱れる夏の北海道シリーズは例外的にそれ以前から全国発売されていた)。
私的に懐かしく思い出したのは東西が“分断”されていた時代によく聞いた『東西相互発売』という言葉である。このフレーズを耳にするたびに心が沸き立つような喜びを感じたものだ。
これは重賞ならぬ、重症ですね。
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