武豊「総スカン」から始まった凱旋門賞の歴史。前年2着馬で挑むビッグチャンスも、ディープインパクト以上の不完全燃焼に酷評
10月2日にパリロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞(G1)が段々と迫り、日本の関連報道もいよいよ熱を帯びてきた。中でも最近、毎日のようにメディアに登場しているのが、今年の日本ダービー馬ドウデュース(牡3歳、栗東・友道康夫厩舎)で挑む武豊騎手だ。
14日には10戦無敗馬バーイード回避の情報が世界を駆け巡ったばかり。世界最強と名高い強敵の不在が確定し、日本競馬が世界の頂点にまた一歩近づいた。
「全部、予定通りです」
ドウデュースは前哨戦のニエル賞(G2)で敗れたものの、主戦騎手の表情には余裕がある。今回が通算10度目の挑戦となるからこそ醸し出せる頼もしさだが、10度目の挑戦となるからこそ、その思いも募るばかり……。凱旋門賞制覇は日本競馬の悲願であると同時に、日本が世界に誇る不世出のレジェンドジョッキーの悲願でもあるのだ。
武豊騎手「総スカン」から始まった凱旋門賞の歴史
だが、そんな武豊騎手の凱旋門賞挑戦の歴史は「屈辱」から始まったことは、あまり知られていない。
「え? 自分で良いのですか?」
騎乗依頼を受けた当時の心境が『netkeiba.com』で連載中の『ジョッキー’s ヒストリー』で語られている。
詳細はぜひ8月7日の記事をご覧いただきたいが、武豊騎手が驚いたのも当然か。当時のホワイトマズルといえば、G1未勝利ながら前年の凱旋門賞2着馬である。他にもキングジョージ6世&QES(G1)2着があるなど、紛れもない欧州のトップホースの1頭だったからだ。
引退後は日本で種牡馬として活躍するホワイトマズルだが、この時すでに社台ファーム代表の吉田照哉氏が所有権を購入していた。その関係で日本の若きスターにビッグチャンスが巡ってきたというわけだ。
思わぬ形で世界挑戦が始まった武豊騎手は、ホワイトマズルの“試運転”となったキングジョージ6世&QESでさっそく2着と、そのポテンシャルの片鱗を味わっている。騎手本人だけでなく、日本の競馬界がこれまで雲の上でしかなかった世界制覇へ大きな手応えを感じたのは言うまでもないだろう。
そして迎えた凱旋門賞。だが、ここで武豊騎手は現在になっても後悔の念を語るほどの不完全燃焼に終わっている。レースの詳細は割愛するが、勝ったカーネギーから約2馬身遅れた6着に敗れたのだ。悔しさという意味では、かつての集大成となったディープインパクト以上かもしれない。
日本競馬にとっては、これも大きな一歩だったが、現地のメディアは挙って武豊騎手の騎乗を酷評した。
前年にはメジロマックイーンやベガ、ナリタタイシンでG1・4勝。この年もオグリローマンで桜花賞(G1)を勝つなど、すでに日本トップの座を完全に手にしていた武豊騎手だったが、競馬の本場となる欧州では「小さな島国から来た若手騎手」といった程度の評価しかなかったそうだ。
日本が国際セリ名簿基準委員会(ICSC)が定めるパート1国に昇格し、欧州の主要競馬開催国と肩を並べるのは、ここから13年も後の話である。
「ホワイトマズルに乗って何もできなかった」
よく知らないジョッキーが現地のトップホースに騎乗して負けたとなれば、メディアや関係者から批判的な声が出るのも仕方なかったか。アスリートに批判は付き物かもしれないが、武豊騎手がここまで“総スカン”を食らったのは、後にも先にもこの時だけかもしれない。
いずれにせよこの敗戦を受け、武豊騎手は以前にも増して欧州、そして凱旋門賞を意識するようになったという。
あの敗戦から、すでに28年の時が流れ、ベテランと呼ばれるようになった武豊騎手の挑戦は今回の10回を数える。今では、現地でも「ユタカ・タケ」の名を知らない競馬関係者はいないほど、その名は世界に広く知れ渡っており、今年も注目のジョッキーの1人にその名が挙がることだろう。
「同じ距離、同じコースで走ってイメージしやすくなった」
巻き返しを期すドウデュースは、ホワイトマズルの祖父としても知られているリファールのクロスを持つ馬。日本が誇るレンジェンドが悲願を果たすとき、28年前に酷評したすべての声が称賛に変わるはずだ。
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