JRA「57億円の損失」コントレイルは本当に“期待ハズレ”だったのか。「英雄」ディープインパクトらとの比較と、ジャパンC(G1)売上から見る無敗三冠馬の「現在地」
28日に東京競馬場で行われたジャパンC(G1)は、1番人気のコントレイル(牡4歳、栗東・矢作芳人厩舎)が有終の美を飾る大団円で幕を閉じた。
相手関係もあるので一概には言えないが、それでも単勝1.6倍という支持は今年の大阪杯(G1、1.8倍)や天皇賞・秋(G1、2.5倍)を上回るもの。三冠を達成した昨年の菊花賞(G1)以降、連敗が続いていたコントレイルだが、それでも多くのファンが復活勝利を信じていた証であることは間違いないだろう。
だが、その一方で今年のジャパンCの馬券売上は約215億円。昨年よりも-21.2%、金額にして57億円も減少したことになる。
無論、史上最強牝馬アーモンドアイに、若き無敗の三冠馬2頭が立ち向かった昨年のジャパンCは「世紀の一戦」と言われるほど特別なレースだった。そんな“伝説”と比較して、今年のジャパンCの盛り上がりが欠けたことは、コントレイルだけの責任ではないだろう。
しかし、そのコントレイル自身が無敗を続けていた昨年ほどのカリスマ性を失っていたことは事実。57億円もの減少という事実が各メディアから報じられれば、一部のファンがコントレイルの人気に疑問を持つのも無理はない。
そんなファン心理の根幹にあったのは、やはり過去の無敗の三冠馬シンボリルドルフ、ディープインパクトの存在だろう。
1984年に史上初の無敗の三冠馬となったシンボリルドルフは、その後も天皇賞・春(G1)、ジャパンCに加え、有馬記念(G1)を連覇。G1・7勝を積み上げ「皇帝」と呼ばれた本馬は、長く史上最強の称号を欲しいままにした。
そして、コントレイルの父であり、2005年に三冠馬となった「英雄」ディープインパクトもまた、天皇賞・春、宝塚記念、ジャパンC、有馬記念とG1・7勝を達成。
結果、無敗三冠馬の「基準」はG1・7勝クラスとなり、敗れるだけで大ニュースになるような「無敵の存在」という先入観がコントレイルには課せられていた。
言ってしまえば、コントレイルはそんなファンの期待を裏切ってしまったのだ。期待が大きければ大きいほど、裏切られた際の反動も大きくなる。連敗が続く中、コントレイルに浴びせられたバッシングは相当なものだったに違いない。
しかし、コントレイルは本当に期待外れな「不人気な馬」だったのだろうか。
57億円という昨年からの大幅ダウンばかりが報じられているが、冷静にジャパンCの売上約215億円を振り返ると、実は過去10年で3番目という優秀なものだ。
昨年の約272億円は、2000年以降のジャパンCの最高売上という特別な一戦。コントレイルの“現在地”を知るための参考になるのは、222億円を売り上げた2017年の方だろう。
この年のジャパンCを勝ったのは、シュヴァルグランだった。ただし、単勝2.1倍の1番人気、つまりは売上の核となったのはキタサンブラックだ。
演歌歌手として高名な北島三郎オーナーに、鞍上は日本競馬の第一人者・武豊騎手。当時のキタサンブラックは三冠こそ菊花賞だけだったが、すでにG1・5勝。競馬界を代表するスターになる条件が十分にそろっており、紛れもなく「競馬の代名詞」として一時代を築いたアイドルだった。
コントレイルは、そんなキタサンブラックのジャパンCと、売上にしてわずか5億円の差だったのだ。補足だが、今年のジャパンCが異例の12Rだったため、多少の誤購入が起きたことを考慮すれば、ほぼ互角だったといえる。
コントレイルは、間違いなく国民的なアイドルとして、競馬の一時代を支えたといえるだろう。「皇帝」「英雄」に並ぶ、後世に伝えられるような素晴らしい称号の誕生を期待したい。
(文=浅井宗次郎)
<著者プロフィール>
オペックホースが日本ダービーを勝った1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)
PICK UP
Ranking
17:30更新- ルメール軍団「誤算続き」で迷走中?使い分けの弊害に一部ファンから疑問の声
- クロワデュノール「世代最強説」に現実味も…ダービー馬候補が未勝利戦より遅い時計の怪
- 武豊×ドウデュース完全包囲網で波乱含み!?豪華メンバーのジャパンCにチェルヴィニア、ブローザホーン、オーギュストロダンら最強メンバー集結。レジェンド元JRA騎手の見解は?
- 「別競技」の高速馬場で欧州最強マイラーの意地見せたチャリン!ジャパンC参戦オーギュストロダン、ゴリアットに朗報?
- C.ルメール「アンラッキー」な過怠金に謝罪…マイルCSでも「牝馬のC.デムーロ」の手綱冴えるか?
- エアスピネル降板に武豊騎手は「何」を思う……8年前、すべてを手にしてきた天才騎手が”最大級”の屈辱を味わった「ウオッカ事件」とは
- 【京都2歳S(G3)展望】藤田晋オーナーの大物エリキングが登場! ジョバンニ、サラコスティがリベンジに燃える
- 【ジャパンC(G1)展望】「ディープ」オーギュストロダンVS「ハーツ」ドウデュース、2005年有馬記念から19年越しの最終決戦!
- 春のG1戦線に水を差す「醜聞」続く…現役騎手の父に詐欺容疑、G1馬オーナーが逮捕
- 「3大始祖」消滅の危機……日本で「2頭」世界で「0.4%」の血を残すべく立ち上がったカタール王族の「行動」に称賛
関連記事
元JRA藤田伸二氏「さすがにないわ」ジャパンC(G1)後輩騎手の“奇策”に苦言、コントレイル消して狙った本命は健闘も……。
JRAジャパンC(G1)横山武史もガックリ「玉砕覚悟」の大捲り!? 武豊キタサンブラック再現のはずが、キセキ3度目の4コーナー先頭に大歓声
JRAジャパンC(G1)コントレイル有終走の裏で「ダート馬」と最下位争い!? あまりにも「残念過ぎた」4世代ダービー馬対決
JRAジャパンC(G1)フランスから来た「美人すぎる厩務員」が話題沸騰!? 外国馬グランドグローリー5着善戦で「動く」ジャパンマネー?
JRA兄はサリオスでも「コントレイル級」の大楽勝!? C.ルメール×国枝栄厩舎コンビが送り出した良血馬サリエラが来年のニューヒロインに名乗り