
武豊、福永祐一と目指したクラシック…捨てられた元エリートが最も輝いた瞬間

サイレンススズカを彷彿とさせるハイペースを作り出したパンサラッサの一人旅で盛り上がった先週の天皇賞・秋(G1)。直線に入って15馬身ほどの差を跳ね返して差し切ったのは3歳馬イクイノックスだった。
多くの観衆を魅了した熱戦の中、勝ち馬から0秒9遅れてゴールしたのが、古豪のカデナ(牡8、栗東・中竹和也厩舎)である。
先日は9歳馬マカヒキの引退が発表されたばかりだが、ターフを沸かせた老兵もまた現役生活の別れを告げる時がやってきた。JRAの発表によると、11月2日付けで競走馬登録を抹消、今後は北海道日高郡新ひだか町のアロースタッドで種牡馬入りを予定しているようだ。
芝の中距離戦線を主戦場としてきたカデナだが、デビュー当時はクラシック候補の一角に名を連ねた期待馬でもあった。
無敗の三冠馬コントレイルの活躍でも知られるノースヒルズ代表の前田幸治氏がオーナー、血統的にもディープインパクト産駒と大きな期待を寄せられていたことは間違いないだろう。
実際、2016年9月のデビュー戦には武豊騎手が配され、新馬戦2着から2戦目の未勝利戦を勝ち上がると、3戦目からは福永祐一騎手にスイッチ。百日草特別(500万下・現1勝クラス)で2着に敗れたものの、その後の京都2歳S(G3)と弥生賞(G2)といった重賞で連勝を決め、クラシック初戦の皐月賞(G1)では、3番人気の支持を受けた。
ところが皐月賞を9着に敗れ、8番人気まで評価の急落した日本ダービーでも見せ場もなく11着に大敗。G1に駒を進めてからは、坂道を転がり落ちるかのように勢いに陰りを見せた。
ついには9戦続けて手綱を取った福永騎手とのコンビも解消。かつてのエリートは、二桁着順に凡走しても不思議ではない存在まで落ちぶれてしまった。ここまでなら、よくいる早熟馬と例えられても仕方がなかったといえる。
捨てられた元エリートが最も輝いた瞬間

しかし、転んでもただでは起きなかったのがカデナの凄いところだ。デビューから16戦目に出会った鮫島克駿騎手とのコンビで福島民報杯(L)3着に食い込むと、他の騎手が騎乗した3戦でも3着→2着→3着と復調気配。天皇賞・秋、中山金杯(G3)こそ二桁着順に沈んだが、2月の小倉大賞典(G3)で約3年ぶりとなる勝利の美酒に酔った。
川田将雅騎手が騎乗するヴェロックスが、単勝オッズ1.4倍の断然人気に支持されたこのレース。カデナも4番人気とはいえ、こちらの単勝は18.1倍と大きな差があった。前年のクラシックを勝ち負けしてきた大本命の勝利を信じて疑わなかったファンは、決して少なくなかったはずだ。
だが、いざレースが始めると、最後の直線で伸びを欠くヴェロックスを尻目に後方待機から末脚を伸ばしたカデナが差し切って番狂わせ。2着に10番人気ドゥオーモ、3着に2番人気ジナンボーが入った3連単の払戻は32万円を超える大波乱となった。
「ガッツポーズは思わず出ました」
好騎乗で勝利へ導いた鮫島駿騎手にとっても、これが嬉しい初重賞勝利。今や全国リーディングの上位に名を連ねる若手の有望株が、自信を付けた思い出の一戦だったといえるだろう。
これはあくまで個人の感想に過ぎないのだが、カデナの最も輝いた瞬間は、武豊でも福永祐一でもなく、鮫島克駿ともぎ取った泥くさい小倉大賞典だったと思う。
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