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ぼくらはあの頃、アツかった(2) いつもホールで食べていた『天ぷらうどん』の味が今でも舌に残っている

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兵どもが夢の跡

 去年のことだ。

 筆者は十数年ぶりに実家に帰った。里帰りである。友達と酒を呑んだり、牡蠣を食べたり、イカを食べたり、焼き肉を食べたりした。三日目に父親の運転する軽自動車の助手席に座り、バイパスを下り、通っていた大学の方へと向かう道すがら、目の端に懐かしいホールの姿が飛び込んできた。ああ、D店だ。と思った。

 父に「旨いうどんを食わせてくれる店がある」と水を向けると、彼も少し腹を空かせていたらしく、場所を聞いてきた。D店の名前を告げる。半信半疑で従う父。ガラガラの駐車場に車を止めて外へ出る。伸びを作って息を吸い込む。青春時代、何度も何度も何度も負けたホールだ。仇敵とは言え、未だ形をもって存在していたことが嬉しい。アスファルトの感触。フェンスの模様。空気。匂い。何もかもが懐かしくて、好ましかった。

 もしかしたら潰れているかもと思ったが、軽食屋もまた、未だに運営していた。先導するように店内に入る。天ぷらうどんを2つ注文しながら、当時は「いつもの」で通じていたのを思い出して苦笑する。

 結局、Mさんとはマルチ勧誘事件以来だんだんと疎遠になり──最終的には筆者自身が地元を離れた事もあって、ついぞ会うことも無くなった。最後までお互い名前を告げる事もなかった。たまにホールでうどんを食べて、勝ったの負けたのと報告し、生存確認をする。思えば不思議な関係だった。

 うどんを完食し、父と二人でレジへ並ぶ。

 ふと、前日に行った洋食屋の料金を全部出して貰ったのを思い出して、筆者は振り返った。財布を取り出そうとする父の動きを手で制す。そして、あの頃いつもMさんが言っていたのと、全く同じように、こう言った。

──うん。俺が誘ったから俺が出すよ。
(文=あしの)

【あしの】都内在住、36歳。あるときはパチスロライター。ある時は会社員。この春から外資系の営業マン。ブログ「5スロで稼げるか?」の中の人。

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