
JRAチャンピオンズC(G1)白の女王ソダシ「ダート覚醒」は本当か? 過度な期待を裏切ってきた父クロフネの「幻想」

12月5日、中京競馬場ではチャンピオンズC(G1)が開催される。毎年、年間のダート王を決める一戦として定着しているが、今年は少し様相が異なる。芝G1・2勝を誇る白毛の女王ソダシ(牝3歳、栗東・須貝尚介厩舎)が参戦を決めたからだ。
「血統的には、ここだよね」
『中日スポーツ』の取材に須貝調教師が期待を隠さなければ、主戦の吉田隼人騎手も「デビューしたころからダートで乗ってみたかった」と、満を持しての参戦であることを示唆。陣営にとっては、まさにさらなる可能性に満ち溢れた待望のダート初挑戦といえる。
大手競馬ポータルサイト『netkeiba.com』の予想オッズは並みいるダートの猛者を退け、ソダシを2番人気に想定。日本だけでなく、世界中にファンを持つ白毛のアイドルであることを考慮すれば、レースを1番人気で迎えてもおかしくはない。
そんなファンの期待の支えになっているのは、須貝調教師の「血統的には、ここだよね」という言葉通り、白毛ファミリーのダートにおける活躍だ。
ソダシの母ブチコがダートで活躍したというだけでなく、祖母シラユキヒメを祖とする一族には、関東オークス(G2)など交流重賞を3勝したユキチャン、レパードS(G3)を勝ったハヤヤッコ、現在ダートで3連勝中のダノンハーロックなど、ダートの活躍馬が多数。
近親の活躍を見る限り、初ダートを迎えるソダシが水を得た魚のごとく「芝以上のパフォーマンス」を見せてもおかしくないというわけだ。
さらにファンの期待を膨らませているのが、ソダシの父クロフネの存在だろう。
米国で生産されて日本で調教を受けた、いわゆる「マル外」のクロフネは、3歳時に芝のNHKマイルC(G1)を制し、日本ダービー(G1)に挑戦するも5着に終わる。
秋は神戸新聞杯(G2)から始動し、陣営は天皇賞秋(G1)に目標を定めていたが、当時あった外国産馬の出走枠の関係でまさかの除外となってしまう。「仕上げていたのに、レースを使わないのはもったいない」と初ダートの武蔵野S(G3)へ出走を決めた。
レース内容は衝撃だった。鞍上の武豊騎手が軽く促すと、4コーナーを回った時にはすでに先頭。そこからはまさに独壇場だった。みるみる後続を引き離し、大差勝ちを収めたのだ。
タイムは1分33秒3と初のダート戦で、いきなり当時の日本レコードを叩き出した。なお、この時計は同年のマイルCS(G1)から、わずかコンマ1秒遅いだけである。このレース後、ジャパンカップダート(G1、現チャンピオンズC)に挑み2戦連続大差でレコード勝ちを収めたクロフネが「伝説」と化した事は言うまでもない。
あれからすでに20年が経過しているが、映像などを通じて「あの衝撃」は今なお人々の胸に刻まれている。だからこそ、多くのファンが同じ3歳G1馬であるソダシに、かつてのクロフネ伝説の再現を期待するわけだ。
しかし、ソダシは本当にダートで真価を発揮するのだろうか。
競走馬としてだけでなく、種牡馬としても大きな成功を残したクロフネ。自身と同じく産駒も芝・ダートと活躍の場を選ばない傾向にあるが、実際に賞金順に並べると上位陣は芝馬で占められる。ダート専門だったのは7位のテイエムジンソク以下の馬たちだ。
そして何よりも、いまだクロフネ産駒からダートG1馬がホワイトフーガ(JBCレディスクラシック)ただ1頭しか出ていない事実を忘れてはならない。
実は今回に限らず、初ダートを迎えた芝の実績馬が「父クロフネの幻想」で過剰人気になった例はいくつもある。
代表的な例として挙げられるのは、ソダシと同じ2歳王者に輝いたフサイチリシャールだろう。父クロフネと同じく、3歳秋の神戸新聞杯を経由した本馬は、武蔵野Sで初ダートを迎えた。父の再来を期待したファンから1番人気の支持を集めたが、結果は5着。続く、ジャパンCダートでも4番人気に推されたが13着に大敗している。
さらにヴィクトリアマイル(G1)を勝ったホエールキャプチャも、エリザベス女王杯(G1)を走った後に、交流重賞のクイーン賞(G3)に挑戦。単勝4.9倍の3番人気に支持されたものの13着に大敗し、以後ダートに挑戦することはなかった。
無論、代表産駒の1頭スリープレスナイトのように、完全な芝ダート兼用馬を輩出することができるのも種牡馬クロフネの魅力の1つだ。しかし、過去の事例はソダシの「ダート覚醒」を盲目的に信じることは危険であると示している。
実際にサンプルこそ少ないものの、チャンピオンズCを初ダートで制した馬はおらず、3歳牝馬の勝利例がいないことを忘れてはならない。ましてや、ソダシの秋華賞(G1)の敗戦は気性面が原因だ。
これまで数多くの歴史的名馬が過去の常識を壊し、新たな伝説を築いてきたが、その一方で「常識」は簡単に覆せないからこそ、常識なのだ。ソダシは、そんな大きな壁に挑戦する。
(文=銀シャリ松岡)
<著者プロフィール>
天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。
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