
JRA横山典弘「ポツン」について激白!「俺のポツンがあまり好まれていないことはわかってる」知られざる「2つ」のポツンと、それでも続ける理由とは

「みんなが聞きたいのは“ポツン騎乗”じゃないの(笑)?」
関東の大ベテランであり、時に「武豊騎手以上の天才」と称される名手・横山典弘騎手がそう切り出したのは、『netkeiba.com』で好評連載中の対談企画『競馬対談with佑』だ。
藤岡佑介騎手がホスト役を務め、様々なゲストを招いてトークを繰り広げる人気企画に登場した横山典騎手。本騎手といえば、馬群から大きく取り残される大胆な追い込み作戦、いわゆる「ポツン」が一部の競馬ファンの間で代名詞のように扱われているが、そんなネットスラングを本人が知っていることに驚いたファンも少なくないはずだ。
詳細はぜひ本対談企画をご覧いただきたいが、常識破りともいえる作戦「ポツン」は炸裂するたびに大きな注目を集め、失敗に終わればたちまち批判の的、逆に成功すれば大絶賛という、今や横山典騎手を語る上で欠かせないアイデンティティの一部となっている。
そんな多くの人々を虜にしている大胆騎乗の裏には「天才」と称される横山典騎手独特の考えがあることは、ファンの誰もが知るところ。ただ、ポツンは本人にとっても「ギャンブル」的な作戦だというから驚きだ。
今年の代表的なポツンは、日本ダービー(G1)のレッドジェネシスだろう。
前哨戦の京都新聞杯(G2)を勝利して、競馬の祭典に挑んだレッドジェネシスだが、主戦の川田将雅騎手がヨーホーレイクに騎乗したため、陣営が白羽の矢を立てたのが、経験豊富な大ベテランの横山典騎手だった。
当時は13番人気の伏兵に過ぎなかったが、秋の神戸新聞杯(G2)で2着し、菊花賞(G1)で1番人気に推されるなど、その素質はG1級。穴党ファンの淡い期待を背負ったレッドジェネシスと横山典騎手だったが、あろうことかスタートからまったく行く気がないと思えるような後方待機策を選択……完全なポツンとなった。
結果は上がり3ハロン33.7秒の末脚で追い上げたものの、11着どまり。人気を考えれば妥当な結果だが、当時多くのファンから批判的な声が上がったのは言うまでもないだろう。
それにしても何故、横山典騎手は失敗すれば批判の的となる一か八かの作戦「ポツン」を幾度となく敢行するのだろうか。
「藤岡佑騎手との対談を拝見しましたが、一番はやはりポツンをすることが勝利(好結果)を生むために最善であると、横山典騎手が考えているからでしょう。
特に力の足りない馬に騎乗する際は、普通に乗ってもそう簡単に勝てるものではありません。普通に乗って普通に負けていれば、ファンやメディアの批判に晒されることもありませんが、横山典騎手はそれを良しとしていないんだと思います。
もちろん、どんな馬でも敢行するわけではなく、レースの展開や馬の本来の脚質が合致した場合に、ポツンが作戦の候補の1つに挙がっているようですね。今年の日本ダービーのレッドジェネシスも当時は批判されましたが、あそこで無理なレースをしなかったからこそ、秋の神戸新聞杯で好走できたという見方もできます」(競馬記者)
また記者曰く、横山典騎手のポツンは大別して2種類あるという。それが「本気ポツン」と「疑似ポツン」だ。
「横山典騎手は普段から目先のレースの勝利よりも、その馬の将来を強く重視している騎手の1人です。対談でも『たとえばね、歩様がおかしくて、俺自身は使わないほうがいいんじゃないかなぁと思っても、使わざるを得ない状況っていうのもある』と話されていますが、実際に横山典騎手がそう感じた際は、スタートから徹底してほとんど無理をさせません。
それが結果的に、集団から大きく遅れた位置取りとなるわけですが、レースを見ている人からすれば、それが『一発を狙っている本気のポツン』なのか、それとも『馬に一切無理をさせないための疑似ポツン』なのかの見分けがつかないわけです。
その結果、大きく負けた際にはポツンが敗因として挙げられ、横山典騎手に対して『何故、あんな作戦を取ったのか』という批判が集まる……。本来なら、そこを上手くファンへ説明するのがメディアの仕事なのですが、紙面や取材時間の都合上、皆さんを納得させられるようなコメントを引き出せていないというわけです。そこは大いに反省すべき点かと」(同)
記者曰く、そんな「疑似ポツン」つまりは横山典騎手が馬に無理をさせない選択を下した代表的な例が、2016年の日本ダービーだという。
騎乗したブレイブスマッシュは、今年のレッドジェネシスと同じく早々に集団から大きく取り残される完全なポツンとなった。さらにレッドジェネシスは最後の直線で多少の脚を使ったが、ブレイブスマッシュの際は最後までほぼ追わず……。「ただ回ってきただけ」という結果になり、前の馬から9秒も遅れた最下位でゴールしている。
当時、ブレイブスマッシュは大穴の1頭に過ぎなかったが、それでも終始後方とまったくの無抵抗に映った横山典騎手の騎乗はファンからの疑問の的に。レース直後には「史上最悪のポツン」とまで批判された。
「実はあの日、あまり人気がなかったので目立ってはいませんでしたが、ブレイブスマッシュはレース前から明らかに様子が変でした。いつになくイレ込みが激しく、横山典騎手も相当手を焼いていたようで、レース前の返し馬すらまともにできない状況だったのです。
スタートこそまともに出たんですが案の定、その直後に暴走。スタンド前発走で、観客に近い8枠だったことも重なって、声援に驚いたブレイブスマッシュは1頭だけコースの外側に逸走しました。
大暴走寸前でなんとか横山典騎手が立て直しましたが、その時点で『これ以上の無理はさせられない』と判断したのでしょう。それがあの大差の最下位、『史上最悪のポツン』に繋がったんだと思います」(同)
そんな日本ダービーから約2年後、豪州に移籍したブレイブスマッシュは大きく素質を開花させる。
世界最高峰の賞金額を誇るジ・エベレストで3着すると、MRCフューチュリティSでG1初制覇。当時発表された『ロンジンワールドベストレースホースランキング』では、日本最高のレイデオロ、アルアインと並ぶ世界12位にランクインされた。
「関係者にとって、俺のポツンがあまり好まれていないことはわかってる」
藤岡佑騎手との対談で、そう心情を明かした横山典騎手は、ポツンが原因で降板になった馬もいるという。ちなみに藤岡佑騎手との対談企画は、これが連載第1回。ここから孤高の天才ジョッキーの本音がどこまで披露されるのか、興味が尽きない。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。
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