JRA福永祐一「もう少し調教を積んでおいた方が……」コントレイルを超える大器を襲った計算外の敗戦。まさかのゴール前強襲から6年、阪神JF(G1)で“因縁”の対決
12日、阪神競馬場では2歳女王決定戦・阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)が開催される。
今年は上位人気5頭による「5強対決」などと言われているが、その中に名を連ねるウォーターナビレラ(牝2歳、栗東・武幸四郎厩舎)と、ベルクレスタ(牝2歳、栗東・須貝尚介厩舎)には、ちょっとした血統的な“因縁”がある。
「もう少し調教を積んでおいた方が良かったかな……」
今から6年前の2015年。そう悔しがった福永祐一騎手の歴代最強馬といえば、現在は先日のジャパンC(G1)で有終の美を飾ったコントレイルだろう。
だが、本人が『JRA-VAN』のインタビューで「排気量の大きさでいうと、今まで乗った馬のなかで間違いなく一番で、その評価はコントレイルと出会った今でも変わりません」とまで評価しているのが、ウォーターナビレラの父であり「未完の大器」と称されたシルバーステートである。
シルバーステートといえば、福永騎手が「そのエンジンの性能にボディがもたなかった」と話している通り、自身のポテンシャルがあまりにも高過ぎたが故、その負荷に身体がついてこなかった悲運の名馬でもある。
未勝利戦を5馬身差で圧勝。単勝1.1倍に推された紫菊賞(500万下当時)をほぼ馬なりのまま上がり3ハロン32.7秒の末脚で突き抜けるなど、2歳秋に大楽勝で連勝を重ねた際、福永騎手は翌年のクラシックへ大きな夢を描いたに違いない。
しかし、翌年年明けに屈腱炎を発症してクラシック挑戦を断念。ここからシルバーステートの運命が大きく変わってしまった。
そして、そこに至る要因の1つに挙げられるのが、デビュー戦の敗戦だ。
単勝1番人気で迎えた2015年7月11日の新馬戦だった。中京のマイル戦で行われたレースの最後の直線、シルバーステートが手応え十分に堂々の先頭に躍り出た。本命馬が後続を突き放し、まずは貴重な白星を1つゲットすると思われた矢先……。
外から猛烈な末脚で強襲したのが、後にヴィクトリアマイル(G1)の覇者となるアドマイヤリード、つまりはベルクレスタの姉である。
「もう少し調教を積んでおいた方が良かったかな……。その分、追い比べでは分が良くありません」
レース後、そう福永騎手が振り返った通り、ゴール前の接戦をアタマ差で落としたシルバーステートにとっては痛恨の敗戦。翌年のクラシックを意識できる期待馬だけに「今後」を意識した仕上げで挑んだ陣営にとっても完全に計算外……描いていた青写真が一気に瓦解した瞬間だった。
無論、この敗戦がシルバーステートの後の屈腱炎発症につながった科学的な根拠はどこにもない。ましてや純粋に勝利を目指したアドマイヤリードに一片の責任もあろうはずがない。
しかし、今になって振り返れば、もしシルバーステートの2歳秋の出走が3戦ではなく、2戦であったなら。もっと言えば、仕切り直しとなった7月25日の中京出走が未勝利戦でなく、中京2歳S(OP)だったら……。当時を知るファンの中には、そう考える人もいたのではないだろうか。
実際に未勝利戦の勝ち時計は、同日同舞台の中京2歳Sよりも1.3秒も速いのだ。
あれから6年。シルバーステートは無事に種牡馬となり、初年度産駒から2歳女王決定戦に3戦3勝の有力馬ウォーターナビレラを送り込むなど、順調なスタートを切っている。一方の福永騎手は香港遠征のため不在だが、「馬産地の評判もいい」とかつての相棒を関係者に売り込むなど、そのベタ惚れようは相変わらずだ。
一方のアドマイヤリードの妹、つまりはG1馬を姉に持つベルクレスタはアルテミスS(G3)で2着するなど、早くも高い素質の片鱗を見せている。
無論、ウォーターナビレラは数多くのシルバーステート産駒の1頭であり、ベルクレスタもアドマイヤリードの6つも年下の妹だ。だが、出走各馬の血統表に脈々と連なる名馬たちから当時に思いを馳せるのも、ブラッドスポーツといわれる競馬を深く楽しむ術の1つといえるだろう。
(文=浅井宗次郎)
<著者プロフィール>
オペックホースが日本ダービーを勝った1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)
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