
JRA皐月賞「異色の無敗馬」デシエルトに見る26年前の幻想。トウカイテイオー、ビワハヤヒデら伝説の「後継者」として突如現れた無敗の大物とは

先週19日に行われた皐月賞トライアル・若葉S(L)は、2番人気のデシエルト(牡3歳、栗東・安田隆行厩舎)が3馬身差で圧勝。例年以上の大混戦といわれる牡馬クラシック戦線に、また1頭スター候補が出現した。
ダート1800mのデビュー戦を7馬身差で圧勝し、ダートの1勝クラスを連勝した異色の戦績の持ち主。この時期適当な番組がなく、仕方なしに芝のレースへ出走して惨敗するダート馬は毎年のように見かけるが、勝ってそのままクラシックへ方向転換してしまう例は稀だ。
デシエルトは、これで3戦3勝。しかも芝デビューとなった若葉Sは、3馬身差の圧勝である。まさに底知れない存在として、本番の皐月賞(G1)でも要注目の存在になりそうだ。
競馬史を紐解いても、極めて稀有な例であるデシエルト。だが、若葉Sの歴史を紐解くと、過去に例がなかったわけではない。1996年の牡馬クラシック戦線で、「大物」と期待されたミナモトマリノスの存在を覚えているファンは決して少なくないはずだ。
1996年といえば、大種牡馬サンデーサイレンス全盛の時代。この年もダンスインザダーク、イシノサンデー、ロイヤルタッチの「サンデー三銃士」が牡馬クラシックの中心にいた。そんな中、ミナモトマリノスは、はっきり言って実力以上の評価が独り歩きした馬である。90年代でも指折りの過大評価をされた存在と言えるだろう。
この馬の名を全国の競馬ファンが知るところとなったのは、まさにデシエルトと同様だ。ダートのデビュー戦と、500万下(現1勝クラス)を圧倒的な走りで勝ち上がって、初芝となった若葉Sで3連勝。異例の存在として、クラシックへ駒を進めた大器である。
当時のマスコミ、そして競馬ファンは、このミナモトマリノスを「大物出現」と期待した。
それもそのはず、1991年から上位2頭に皐月賞の優先出走権が与えられるようになった若葉Sだが、初年度からトウカイテイオー、セキテイリュウオー、ビワハヤヒデ、オフサイドトラップ、そしてジェニュインと、歴代の勝ち馬はすべてG1級の名馬。そこに続いたのが、このミナモトマリノスである。
さらにミナモトマリノスが2馬身半差の2着に負かしたのが、ラジオたんぱ杯3歳S(G3)、きさらぎ賞(G3)の重賞2勝を含むデビュー3連勝を飾っていたロイヤルタッチ。先述した「サンデー三銃士」の1頭であり、若葉Sでは単勝1.1倍の圧倒的支持を集めていた。
そんな大物サンデー産駒を負かしたのだから、ミナモトマリノスが皐月賞で3番人気に支持されたのも当然か。多くの競馬ファンが、この底知れぬ大器に3歳クラシックの勢力図の刷新を期待したが、結果は4着だった。
その後、日本ダービー(G1)でも5番人気、菊花賞(G1)では3番人気と高い支持を集めたミナモトマリノスだったが、通算のキャリアは20戦3勝。つまり、あの若葉Sまでのデビュー3連勝以降、1度も勝つことはなく、2着が1度あるだけだった。
あれから26年。デシエルトには「幻のクラシックホース」に終わったミナモトマリノスにはない武器がある。
ミナモトマリノスは、サンデーサイレンスやブライアンズタイム、トニービンといった一流種牡馬の産駒が当時のクラシックの主流となる中、イルドブルボン×母父マグニテュードというマイナー血統だった。一族にこれといった活躍馬もおらず、まさに突然変異的な存在である。
一方のデシエルトの母アドマイヤセプターは、4代母ダイナカールからエアグルーヴ、アドマイヤグルーヴと受け継がれてきた日本屈指の名牝系。昨年の新種牡馬ドレフォンの産駒としてダートを歩んできたが、芝で真価を発揮できる血統的な下地があった。ちなみにエアグルーヴとミナモトマリノスは同世代である。
あの時、ミナモトマリノスに“騙された”ファンは今、どれくらい残っているだろうか。きっと1人1人が「あの時の自分は青かった」と言える猛者に成長していることだろう。
無傷の3連勝で皐月賞に挑むデシエルトも、おそらく人気を集めるはずだ。果たして、得体の知れないスケールが「本物」であることを証明するのか、それとも厚い壁に跳ね返され「第2のミナモトマリノス」になってしまうのか。当時を回顧しながら今年のクラシックを楽しむのも、また一興だ。
(文=浅井宗次郎)
<著者プロフィール>
オペックホースが日本ダービーを勝った1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)
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