JRAパンサラッサは「サイレンススズカ」になれない!? 平成・令和で名を馳せる稀代の逃げ馬2頭に存在する「決定的な違い」とは
26日、阪神競馬場で行われる宝塚記念(G1)。そのレース展開のカギを握る1頭として注目を集めているのが、逃げ馬パンサラッサ(牡5歳、栗東・矢作芳人厩舎)である。
すでに現役屈指の逃げ馬として名を馳せているパンサラッサ、その大逃げのスタイルから、時に稀代の逃げ馬サイレンススズカと重ねて語られることもある。今回はそのサイレンススズカが唯一制したG1である宝塚記念に、パンサラッサも挑むこととなる。
2頭の姿を重ね、豪快な逃げ切り勝利を期待するファンも多いだろう。しかし宝塚記念に挑むにあたって、サイレンススズカとパンサラッサの間には決定的な違いが存在する。
稀代の逃げ馬2頭の「決定的な違い」とは
サイレンススズカは大逃げの印象が強いが、その強さの本質は「逃げて差す」競馬である。コンビを組んだ武豊騎手との阿吽の呼吸によって道中で一旦ペースダウン、直線の前で一息入れたうえで存分に二の脚を使うことで、影すら踏ませぬ逃亡劇を完遂してきた。
一方のパンサラッサは、言葉通りの大逃げが身上である。速いラップを刻み続けて後続の脚を消耗させ、最後は自身もバテるが、後続もバテているといったレース運びが強みだ。
この2頭の“逃げ”の違いは、ラップタイムにもハッキリと表れている。以下に示すのはサイレンススズカが制した金鯱賞(G2)と、パンサラッサが制した中山記念(G2)のラップタイムである。
サイレンススズカ 1998年金鯱賞
12.8-11.2-11.2-11.5-11.4-11.4-12.0-12.4-11.7-12.2
パンサラッサ 2022年中山記念
12.7-11.2-11.3-11.1-11.3-11.5-11.6-12.2-13.5
2頭のラップを見比べると、前半はそれぞれ11秒台前半という、かなりのハイペースで逃げている。しかし違いが出てくるのがラスト4~3ハロン、サイレンススズカは12.0-12.4とペースを落としていることに対して、パンサラッサは11.5-11.6と速いラップを刻み続けている。
この直線手前での“一息”の有無が最後の2ハロンでのラップに大きな違いを生み出す。サイレンススズカは11.7-12.2と再加速を見せているのに対して、パンサラッサは12.2-13.5と最後には大きく失速してしまっている。
もちろん、この2レースは距離やコース形態が異なるため単純な比較はできない。しかし2頭が他に逃げ切ったレースの多くで同様の傾向が出ており、“息を入れる”サイレンススズカと、“逃げ続ける”パンサラッサの2頭には明確なスタイルの違いがあるといえるだろう。
また、2頭が好走してきたレースは共に1800m~2000mが中心であり、2200mの宝塚記念は適性からはやや長いと言える。この距離延長に際して、2頭の逃げ方の違いが大きな影響を及ぼす可能性がある。
サイレンススズカは宝塚記念に勝利して距離不安を払拭して見せたが、この時は直線の手前で普段以上に大きくペースを落としていた。この一息が、最後の200mで失速することなく距離の壁を打ち破れた要因かもしれない。
一方のパンサラッサは前走のドバイターフ(G1)で勝利こそしたが、初めて一線級を相手取ったレースで最後は同着での決着。1800mでもギリギリの逃げ切りであったこの結果を考えると、息を入れる一工夫のできないパンサラッサは2200mの距離で最後に脚が止まる可能性も否定できない。
同じ大逃げ馬でも、その性質が全く異なるサイレンススズカとパンサラッサ。その姿を重ねて期待を寄せるファンも多いと思われるが、パンサラッサが「異次元の逃亡者」となることは簡単では無いかもしれない。距離不安を払拭して逃亡劇を完遂するのか、それとも失速して御用となるのか、パンサラッサの走りに注目したい。
(文=エビせんべい佐藤)
<著者プロフィール>
98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。
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