JRA2日間で「200億円超」が動くセレクトセールって何? タイトルホルダーやデアリングタクトも輩出、平均落札額は“プロ野球選手の年俸”に匹敵
国内のサラブレッド生産者と馬主にとって“1年で最も重要”といわれる一大イベントが今月11~12日の2日間にわたって開催される。
それは「セレクトセール」と呼ばれる一般社団法人日本競走馬協会が主催する国内最大のサラブレッドのセリ市だ。
セレクトセールの名称は主催者がセリに出す馬を厳選していることが由来で、ノーザンファームや社台ファームの生産馬を中心に、数多くの良血馬が北海道・苫小牧のノーザンホースパークに集結する。
不況が叫ばれる昨今の国内経済状況だが、ことセレクトセールに限っては別世界。数千万円、時には億単位のお金が数十秒単位でつりあがっていく様を見るのは、我々一般のファンからすれば驚くべき光景だ。
平均落札額は“プロ野球選手の年俸”に匹敵
昨年は2日間で472頭が上場、うち439頭が落札された。最高額は4億円を超え、2日間の売上総額は約225億円(税抜、以下同)に上った。ちなみに、昨年の平均落札価格は約5100万円。これはプロ野球の支配下選手の平均年俸とほぼ同じである。
現在、国内では“第3次競馬ブーム”の真っただ中ともいわれ、中央・地方ともに馬券の売り上げは堅調。気軽に始めることができる一口馬主への関心も年々高まっており、セレクトセールの今年の売上総額は過去最高だった昨年を上回る可能性が高いだろう。
競馬関係者だけでなく一般のファンからも注目が集まるのも無理はない。何しろ国内最大といわれるだけあって、セレクトセールはまさに活躍馬の宝庫。過去にはディープインパクト、キングカメハメハといった名馬も同セール出身で、最近ではタイトルホルダーや三冠牝馬のデアリングタクトなども出している。G1勝利を夢見るオーナーたちには欠かせない最重要イベントといえるからだ。
今年は初日に1歳馬が約240頭、2日目には当歳(0歳)馬が約200頭登場するが、大きく異なるのは、約10年間にわたって“億超え”を連発してきたディープインパクト産駒が不在になることだろう。
同産駒は昨年の上場も1歳馬(現2歳)4頭だけだったが、今年はその数がついにゼロになってしまう。その後釜として期待されているのがエピファネイア、キズナ、ロードカナロアなどの新興勢力だ。
中でも特に注目されるのがエピファネイア産駒。初年度からデアリングタクト、2年目からはエフフォーリアという2頭の名馬を輩出し、3年目のサークルオブライフも阪神JF(G1)を勝つなど、その活躍は競馬ファンなら誰もが知るところ。
ところが、古馬になってからの成長力には疑問の声が上がっているのも事実だ。先日の宝塚記念(G1)ではエフフォーリアが父の“早熟説”払拭を狙ったが失敗。デアリングタクトが同レースで3着に好走したことで、なんとか首の皮一枚つながったという状況である。
エピファネイアの種付け料は国内最高額となる1800万円まで上昇しているが、セレクトセールの結果次第では来年の種付け料にも影響が出る可能性もある。今年は1歳馬19頭、当歳馬16頭の合計35頭がエントリー。昨年は31頭中、4頭が“億超え”だったが、果たして今年は何頭が大台を突破できるか。
もう1頭の注目種牡馬がエピファネイアの半弟で、19年の皐月賞馬サートゥルナーリアである。父シンボリクリスエスの兄に対して、こちらは父がロードカナロア。初年度から200頭以上に種付けし、産駒に対する生産者の評価は総じて高い。2日目に当歳馬14頭が上場されるが、市場でどのような評価を受けるのか気になるところだ。
もちろん落札する側の動向も注目される。2年連続2度目の参戦となる“ウマ娘”オーナーこと藤田晋氏は昨年、2日間で23億円超をつぎ込んだ。今年は昨年以上の“爆買い”となるのか。古参の金子真人氏や「ダノン軍団」の野田順弘氏、「サトミホースカンパニー」の里見治氏らとの“競り合い”にも注目が集まる。
なおセレクトセールの模様は『グリーンチャンネル』などで視聴可能だ。数年後を見据えた馬主たちの戦い、そして生産者たちの駆け引きをぜひ堪能してもらいたい。
【セレクトセール】
創設:1998年(99~2005年は中断)
最高取引額:6億円(トゥザヴィクトリーの2006=競走馬名はディナシー)
主な出身馬:マンハッタンカフェ、キングカメハメハ、ディープインパクト、アドマイヤマーズ、ラヴズオンリーユー、デアリングタクト、タイトルホルダー
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。
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