ソダシにとっても脅威、浜中俊の「覚醒」に刮目せよ
今年の浜中俊騎手はちょっと違う。
そう感じたファンも少なくないのではないか。
17日の函館記念(G3)で7番人気の伏兵ハヤヤッコ(牡6、美浦・国枝栄厩舎)を好騎乗で勝利に導いた浜中騎手だが、今年の重賞は7月半ばにしてはや5勝目をマークした。
年間重賞5勝は7勝を挙げた2014年以来となる8年ぶりの快挙。今年の開催がまだ5ヶ月余り残っていることを考えると、自身にとってキャリア初の二桁勝利も夢ではないほどのハイペースだ。
騎手全体でも6勝を挙げてトップの川田将雅騎手が勝率17.1%なのに対し、浜中騎手はこれを大きく上回る勝率27.8%。全国リーディングこそ27位に甘んじているが、かつて2012年に全国リーディング騎手となった名手の手腕はまだまだ衰えていない。
■2022年、浜中騎手の重賞勝利
マーチS(G3・ダート1800m)メイショウハリオ、2番人気
マイラーズC(G2・芝1600m)ソウルラッシュ 、6番人気
目黒記念(G2・芝2500m)ボッケリーニ、2番人気
函館スプリントS(G3・芝1200m)ナムラクレア、1番人気
函館記念(G3・芝2000m)ハヤヤッコ、7番人気
5勝の内訳も芝の短距離から中長距離にダートの中距離と様々な条件で結果を残した。上位人気馬だけではなく、穴馬でも勝利したことは特筆に値する。まさにオールラウンダーといっていい活躍だ。
そして、今年の浜中騎手には何かしらの強い覚悟のようなものが感じられる。例年は地元の小倉を主戦場にすることが多い夏競馬もあえての函館参戦。6月半ばから先週までの短い期間で重賞を2勝したのは驚きである。
特に目立ったのは函館スプリントSのナムラクレア。3歳牝馬で50キロということもあり、今の浜中騎手にとっては減量が苦しいかなりの“酷量”だったはず。それでもクリアして見せたことは、『絶対に乗るんだ』という強い意思が伝わる。そして最高の結果もしっかりとついてきた。
また、ハヤヤッコで制した函館記念の騎乗も現在の浜中騎手の好調ぶりが顕著に表れた内容だった。
「近走で行き脚のつかなかったハヤヤッコに気合を入れてポジションを取りに行く好判断をしたのも“乗れている”からこそでしょう。最内枠のスタートだったため、ゲートが開くまでに出していくつもりがないとあの乗り方はできません。
パトロール映像を見ても内ラチ沿いの最短距離をロスなく走るクレバーなコース取り。外に出したのも勝負どころだけで、最後方から外を回した2着馬との差に繋がりました。3/4馬身という着差を考えても浜中騎手だからこそ勝てたといえます。
まさに神騎乗といっていいレース。個人的にも今年の浜中騎手で最も素晴らしい騎乗ぶりだったと思います」(競馬記者)
血統的にダート色が強いソダシが芝でデビューしたように、ハヤヤッコもまた当初は芝で使われていた馬。距離の長かった天皇賞・春(G1)は大崩れしたものの、日経賞(G2)でもタイトルホルダーの5着に好走した実績もある。抜けた馬が不在のローカルG3なら通用しても不思議ではないだけの実力を証明した。
勿論、今回の勝利は浜中騎手の好騎乗だけではなく、ハヤヤッコ自身の実力があってこそ。陣営は札幌記念(G2)への参戦も視野に入れており、同馬を所有する金子真人オーナーは白毛の女王ソダシやマカヒキとの3頭出しもあるだろう。
7番人気という穴で勝利した上に、今年の函館記念がパワーを要する重馬場だったこともあって、ハヤヤッコの快勝が軽視される可能性も低くないが、全体ラップを見てみるとフロックで片づけてしまうには怖さがある。何しろ前半1000mの通過ラップの60秒1は良馬場並みの速さ。この激流で57キロを背負って好位から強気に押し切るのは弱い馬にできる芸当ではない。
ソダシとの白毛対決ばかりが話題となっているものの、断然人気が確実な馬を狙っても妙味は少ない。絶好調の浜中騎手が札幌記念の裏にあたる小倉の北九州記念(G3)に騎乗するという話も出ていることは残念だが、穴党として非常に魅力的な1頭となりそうだ。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。
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