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無情の「G1乗り替わり」から4年…“元”エリート騎手が出会った大物2歳牝馬

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武藤雅騎手

 若武者に、ついにチャンスが巡ってきたのかもしれない。

 13日、札幌競馬場で行われたコスモス賞(OP)は、1番人気のモリアーナ(牝2歳、美浦・武藤善則厩舎)が勝利。ステルヴィオやゴールドシップといったG1馬が過去の勝ち馬に名を連ねる出世レースを快勝した。

「スタートを出たので勝ちに行く競馬をしました」

 終わってみれば力が違った。9頭立てで行われた芝1800mのレース。デビュー戦は中団やや前目から上がり3ハロン最速となる33.0秒の脚で突き抜けたモリアーナだが、この日は武藤雅騎手の「スタートを出た」という言葉通り、まずまずのスタートからじわじわと前へ。2番手から4角先頭に立って、そのまま押し切る積極策だった。

「直線入り口の手応えではもっと突き放すかと思いました。レース後に武藤騎手が『早めに先頭に立ってフワッとした』と言えば、お父さんの武藤調教師も『最後は尻尾を振って遊んでいた』と課題を挙げていた通り、まだまだ子供ですね。最後は2着ドゥアイズと2馬身差でしたが、着差以上の強さだったと思います。

ただ、デビュー戦ではかなり行きたがっていましたが、この日は前に馬がいなくても2番手で我慢できていました。武藤騎手が『カッと行きそうになった』と話した最初の1コーナーの入り口でやや外に膨らむ幼さも見せましたが、1戦ごとに気性面も成長していると思います。これで賞金も加算できましたし、陣営にとっても今後に向けて大きな1勝でした」(競馬記者)

 記者曰く、気性面に課題を抱えているモリアーナにとって、今回のコスモス賞出走は10月のアルテミスS(G3)に向けての「ガス抜き」だったという。

 そんなある意味“勝ち負け度外視”の一戦を快勝しただけに、武藤調教師も「アルテミスSを予定していたけど、急遽の参戦で賞金を加算できたのは大きいね。オーナーと相談してから、(12月の阪神ジュベナイルフィリーズ・G1)へぶっつけ本番でもいいと思う」と嬉しい誤算だったことを明かしている。

騎乗2戦2勝でG1へ、無情の乗り替わりを味わった4年前

 

 また主戦の武藤騎手にとって、モリアーナが目指す阪神JFは苦い思い出のあるレースだ。

 2018年12月のこと。阪神JFに向けた追い切りを見守り「本当は雅君に乗せてあげたかったですけど……」と話したのは、ジョディーを管理する戸田博文調教師だ。

 師が複雑な表情を見せたのも当然か。武藤騎手の手綱でデビュー戦を快勝したジョディーだったが、続く新潟2歳S(G3)ではあっさりと池添謙一騎手に乗り替わり。その後、手綱が戻った赤松賞(1勝クラス)も勝利に導き、2歳女王決定戦の出走をほぼ手中にした武藤騎手だったが、待っていたのは四位洋文騎手(現調教師)への乗り替わりという残酷な現実だった。

 デビューイヤーに同期最多の24勝を挙げ、民放競馬記者クラブ賞を受賞。2年目となったこの年は多くの若手がローカルを主戦とする中、厩舎の方針で東京・中山といった中央で騎乗。それでも前年を上回る37勝を挙げて、中央競馬騎手年間ホープ賞を受賞している。

 G1騎乗条件の通算31勝もとっくにクリアしていたが、弱肉強食は競馬の常……。ジョディーの赤松賞が、自身初の“特別勝ち”だった武藤騎手に対して、新馬勝ちの期待馬が迎える大舞台で陣営が選択するのは実績ある「勝てる騎手」ということだったのだろう。

 その後、再びジョディーとコンビを組んだ武藤騎手はクイーンC(G3)、フローラS(G2)で3着し、オークス(G1)にも挑戦。自身2度目となったG1騎乗に繋げただけでなく、米ベルモントオークス(G1)にも遠征し、初の海外騎乗の機会も得た。

 だが、おそらく本人は満足していないだろう。あれから4年が経ったが、武藤騎手は今なおJRAの重賞勝利に手が届いていない。

「デビュー6年目で、すでにJRA通算163勝(13日現在)を挙げている武藤騎手が、まだJRAの重賞を勝ったことがないのは少し意外ですね。

今年も師匠の水野貴広厩舎の管理馬クロスマジェスティとのコンビでアネモネS(L)を勝って桜花賞(G1)にも挑戦しましたが、15番人気13着と『参加することに意義があった』と言われても仕方のない結果でした。

ただ、コスモス賞の走りを見る限りモリアーナは粗削りながらスケールを感じる馬ですし、今後が非常に楽しみな存在。武藤騎手もこの馬とのコンビで一皮むけたいでしょうね」(別の記者)

「強かった。ホントは壁をつくって(末脚を)溜められれば良かったんだけどね。力があるので洋芝もこなしたけど、府中とかのパンパンの良馬場で溜めた方が良さが出そう」

 レース後、管理馬の走りを分析した武藤調教師。だが、例え父の管理馬であっても、息子の「次走」が約束されているわけではない。新人の頃はエリート街道を歩んでいた武藤騎手だが、昨年はデビュー最低の年間20勝に落ち込むと、今年もここまで7勝と苦戦している。

「早めに先頭に立ってフワッとしましたが、能力で押し切ってくれました。溜めた方が切れると思います」

 そう話す武藤騎手は、今年これがオープン3勝目。年間7勝の内、3勝がオープンなのだからハイレベルな舞台での勝負強さは見せられている。

 ジョディーの無念の乗り替わりから4年、今度こそパートナーと共に2歳女王決定戦の舞台に立てるか。いや、今6年目ジョッキーに求められているのは立つことではなく、勝つことに違いない。

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