残りわずか“マカヒキ世代”の激走に感動の声…JBCデーを盛り上げたOROカップ
11月3日、盛岡競馬場と門別競馬場で開催されたダート競馬の祭典・JBC。どちらの競馬場もあいにくの空模様となってしまったが、ダート界最高峰の戦いに多くのファンが熱視線を送った。
2014年以来、8年ぶりの盛岡開催となった今年のJBC。もちろんメインの各競走も盛り上がりを見せたのだが、この特別な一日をより際立たせる一助となったのが、盛岡9Rに組まれた“芝のレース”だった。
日本の地方競馬場で唯一、芝コースを有する盛岡だからこそできたこの取り組み。9Rに行われた『岩手県知事杯OROカップ』は地方のターフチャンピオンを決める芝・1700mの戦いで、本来であれば9月に開催される重賞競走である。
それが今年はJBCが盛岡で開催されるとあって、同じく9月に開催されていた2歳の芝重賞『ジュニアグランプリ』とともにJBCデーに移動。この日の盛岡はJBCの3競走を含め、5レース連続で重賞が開催されるという魅力的なスケジュールが完成した。
各地区の“元JRA所属馬”たちが相次いで参戦を表明
加えて、このチャンスを逃す手はないとばかりに、1着賞金も昨年の1000万円から3000万円に増額されていた。JRAのG3戦に迫る高額賞金となったことを受け、各地区の“元JRA所属馬”たちが相次いで参戦を表明。なんと14頭の出走馬のうち、11頭が元JRAのオープン馬という豪華なメンバー構成となった。
中には昨年のサマー2000シリーズの覇者であるトーセンスーリヤや、2018年にステイヤーズS(G2)を勝ったリッジマン、さらには2016年にファルコンS(G3)を勝ったトウショウドラフタなど、JRAの芝重賞勝ち馬も5頭がエントリー。懐かしさを覚える馬名の数々に、ファンからは「同窓会のよう」といった声もあがった。
レースはアトミックフォースが1番人気に応えて6馬身差の快勝。こちらはJRA時代にオープン勝ちこそなかったものの、2年前の新潟大賞典(G3)で2着、昨年もメイS(OP)で3着、その後のエプソムC(G3)でも5着と、直近まで芝のレースで活躍していた実力馬であった。
2着のコズミックフォースも、昨年12月に大井の勝島王冠(重賞)を制すなど最近は地方のダートに活躍の場を移していたが、元は2018年にプリンシパルS(OP)を勝った元有望株だった。続戦した日本ダービー(G1)では16番人気で3着に食い込み、勝ったワグネリアンとはわずか0秒2差という激走。3連単285万円超えの大波乱の立役者となったのも印象深い。
そして、彼らに続いて8番人気ながら3着に食い込み、波乱を演出したのが9歳馬のロードクエストだった。
2015年の新潟2歳S(G3)では2着に4馬身差をつける圧巻のパフォーマンスを見せ、暮れのホープフルS(G2・当時)で2着と好走。3歳時にはNHKマイルC(G1)でも2着に入るなど、世代屈指の実力を見せたこの世代のスターである。
その後も京成杯オータムH(G3)やスワンS(G2)で勝利を挙げ、JRAの芝重賞は計3勝をマーク。昨年の地方移籍後も盛岡でせきれい賞(重賞)とOROカップで芝の重賞を連勝したが、9歳となった今年は2戦して14着と12着。昨年勝利したせきれい賞でも大きく崩れ、さすがに衰えの色も隠せなくなっていた。
ところが、この日は道中後方から向こう正面で一気に捲る積極的な競馬を見せると、4コーナー先頭で直線へ。アトミックフォースには突き放されたものの、最後まで懸命に走り抜いて3着を確保。大舞台で健在ぶりを見せつけた。
何よりファンの心を震わせたのが、つい先日引退を発表したマカヒキとの縁だ。ロードクエストはマカヒキと同じ2013年生まれの牡馬で、2016年の皐月賞(G1)とダービーではともに競い合った戦友である。
マカヒキもダービー馬としては異例とも言える長い現役生活を送っていたが、今年の10月25日に引退と種牡馬入りが決定。これで2016年の日本ダービー出走馬のうち、今なお現役を続けているのはこのロードクエストとエアスピネルの2頭だけとなった。
この世代の筆頭株であるマカヒキは“引退レース”がない中でキャリアに幕を下ろしただけに、ファンからすれば消化不良だった部分もあったことだろう。そんな中で同世代のロードクエストが大きなレースに挑み、戦友の想いも背負ったかのような激走。その雄姿は大きな感動を呼んだ。
先日の天皇賞・秋(G1)では3歳馬のイクイノックスが古馬の強豪を撃破し、ニューヒーローの誕生が話題になった競馬界。このJBCでも、レディスクラシックではヴァレーデラルナとグランブリッジの3歳馬コンビがワンツーフィニッシュを決め、クラシックでもクラウンプライドとペイシャエスの3歳馬2頭が2着・3着と先輩たちを相手に奮闘を見せた。
新時代の到来を印象付ける出来事が続いている中、台頭する新星がいるということは、その陰には第一線から退く古豪もいる。そんな現実を突きつけられながら、それでも力の限り最後まで走り続けるベテランの姿は、また違った形で人々に勇気を与えた。
まさに今年のJBCのテーマである「Get Emotion」を象徴するようなひと幕。OROカップ自体はJBC競走という括りには含まれないものの、このレースと“地方馬・ロードクエスト”の奮闘は2022年のJBCデーというひとつのお祭りを語るうえで欠かせないハイライトシーンとなった。
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