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ディープインパクトを超える”予感”を残した弥生賞。『幻の三冠馬』フジキセキの願い

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 今年も春の訪れとともに、弥生賞の季節がやってきた。

 ヴィクトワールピサ、ディープインパクト、アグネスタキオン、スペシャルウィーク……皐月賞へ向かう”王道トライアル”であるだけに、歴代の弥生賞馬は近年だけを見ても歴史的な名馬の名がずらずらと並ぶ。

 そんな中、レースのインパクト、そしてその後の”予感”で最も大きなものを残したのは、昨年の有馬記念翌日12月28日にこの世を去った、第32回弥生賞の覇者フジキセキではないだろうか。

『幻の三冠馬――』この競馬史の中で使い古された言葉を聞いた際、真っ先に浮かぶのがフジキセキだ。弥生賞が最後となるキャリアは僅か4戦に過ぎないが、それでもレースを見ていた誰もがサラブレッドの頂点となる三冠馬の出現を意識せざるを得なかった。

 それぐらい、フジキセキが残した4戦はどれもが衝撃的だったのだ。

 1994年の8月20日。新潟でデビューを迎えたフジキセキだったが、牧場での評価は上々だったものの8頭中の2番人気に過ぎなかった。デビューのゲート審査に4度も落ちたフジキセキは案の定、新馬戦でも大きく出遅れ。鞍上の蛯名正義騎手が懸命に手綱をしごくも最後方からの競馬となってしまう。

 距離は1200m。まだ右回りだった頃の新潟とあって、この出遅れは致命的とさえ思わせるものだった。しかし、フジキセキは道中で休むことなく加速し続け、どんどんポジションを上げていくと4コーナーでは先頭に並びかけていた。

 あまりの推進力、そして強引なレースぶりに場内のどよめきが収まらない。誰もがフジキセキの”暴走”の結末を想像している最中、4コーナーで一頭が落馬。カメラや観客の視線が一瞬そちらに捉われ、すぐに先頭に戻ると、いつの間にか先頭に立ったフジキセキが後続を突き放していた。

「僅かに……ああっと、2番のフジキセキが先頭に躍り出している!」

 実況アナウンサーさえ慌てさせるフジキセキの”ワープ”は、観戦者の意識と常識を置き去りにした。何が何だかわからないまま後続はどんどん突き放され、最後は馬なりのままでゴール。ついた着差は8馬身だった。

「フジキセキの強い! また、サンデーサイレンス産駒です!」

 ゴール後、フジキセキの強さを称賛すると共に発せられたアナウンサーの言葉が、日本競馬に”新時代”が到来したことを告げていた。この年、アメリカの二冠馬として鳴り物入りで来日したサンデーサイレンスの初年度産駒がデビュー。おもしろいように次々と勝ち上がり、まさに”サンデーサイレンス旋風”が吹き荒れようとしていた。

 そして、父譲りの漆黒の馬体を持つフジキセキは、その渦の中心にいた。

 秋初戦、もみじS(OP)に出走したフジキセキは、単勝1.2倍という圧倒的な人気に推された。新馬戦とは一転、良いスタートを切ったフジキセキは中団につけると、またもほとんど馬なりのまま楽勝。一発のムチも入らないまま、レースレコードを更新した。

 なお、この時の2着馬が後の日本ダービー馬タヤスツヨシ。タヤスツヨシ自身も3着以下を3馬身以上突き放していたが、勝ったフジキセキの強さだけがただただ際立ったレースだった。

 そして迎えた朝日杯3歳S(G1)。単勝1.5倍の断トツ人気で初のG1に挑むフジキセキだったが、そこには唯一ライバルとなりそうな存在がいた。後にきさらぎ賞を単勝1.0倍の元返しで圧勝し、武豊と共にケンタッキーダービーに駒を進めたスキーキャプテンである。

 レースは内枠の有利を生かしたフジキセキが好位に、スキーキャプテンが最後方から直線勝負に懸ける形で運ぶ。4コーナーを回り、最後の直線に入るとフジキセキが内ラチ沿いをスルスルと抜け出し、抜群の手応えで先頭に立った。

 これまでと同様、馬なりで後続を突き放す圧巻の走りに、またもフジキセキの圧勝かと思われた。しかし、最後方から大外を回ったスキーキャプテンが物凄い勢いで追い込んでくる。これにはフジキセキの鞍上・角田晃一騎手も慌てて追い出したが、スキーキャプテンがクビ差まで追い詰めたところがゴール。

「来年のクラシックは、やはりこの馬を中心に展開されます!これがフジキセキです――!」3戦3勝、無敗の2歳王者が誕生した瞬間だった。

 クラシックに挑む年明け初戦は、王道の弥生賞(G2)が選ばれた。プラス16kgの馬体重はデビュー当初よりも36kgも重い508㎏だったが、直前の調教では坂路で一番時計を記録。この多くの名馬にしばしば見られる急激な成長力もまた、フジキセキを大器と言わせた要因の一つだった。

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