JRA横山武史「独壇場の2022年」を止めるのはルメール、福永、川田? エフフォーリア・タイトルホルダー、盤石の2枚看板を脅かす「未完の大器」たち
競馬は「馬7、騎手3」と言われた時代も今は昔か――。格差が猛威を振るう昨今は、まさに「競馬は騎手」と言われる時代である。
特に昨秋のG1戦線は横山武史騎手、C.ルメール騎手、福永祐一騎手の3人が大暴れ。波乱に終わったエリザベス女王杯(G1)やダートのチャンピオンズC(G1)など、一部のレースを除けば、ほぼすべてでいずれかが馬券に絡み、菊花賞(G1)や天皇賞・秋(G1)など、この3名が上位を独占した大レースもあった。
この傾向が、今年のG1戦線で大きく変わるとは想像し辛い。まさに馬ではなく「騎手」を見て馬券を買う時代が今年も続こうとしている。
その一方で、昨秋はコントレイルやグランアレグリア、クロノジェネシスにラヴズオンリーユーなど一時代を築いた名馬が相次いで引退。2022年は、新たな勢力争いの幕開けと言っても過言ではないだろう。
そんな中で大きなアドバンテージを握っているのが、横山武史騎手だ。
昨年G1・5勝と大ブレイクした若手代表の横山武騎手。それだけにお手馬もフレッシュな顔ぶれが目立つ。特に皐月賞(G1)、天皇賞・秋、有馬記念(G1)を制し、年度代表馬の最有力になっているエフフォーリアは今後の競馬界を担う存在。デビューから7戦すべて横山武騎手が騎乗しており、結束も固い。
さらに、そのエフフォーリアが勝った有馬記念で5着と格好をつけた菊花賞馬タイトルホルダーも、今年は主役の1頭になるだろう。有馬記念では兄の横山和生騎手が代打騎乗したが、菊花賞(G1)を勝たせた横山武騎手へ戻ることが有力。エフフォーリアが中距離、タイトルホルダーが長距離と歩む路線が分かれれば、横山武騎手が今年の古馬王道路線を制圧するシナリオも見えてくる。
一方のルメール騎手は、大幅な戦力ダウンが懸念される。
昨年引退したグランアレグリア、クロノジェネシスはルメール騎手の看板的なお手馬。目立った3歳馬は菊花賞2着のオーソクレースくらいで、現在はジャパンC(G1)で2着したオーソリティが大将格か。
無論、時に「強奪」と揶揄されるほどの乗り替わりが、このフランス人騎手が毎年のように大レースを勝ちまくっている所以だ。とりあえず、先月のチャレンジC(G3)を楽勝したソーヴァリアントは最優先で手の内に入れておきたい。オーソクレースと同じく、G1級の素質を秘める好素材だ。
福永騎手に至っては、自らの騎手人生を注ぎ込んだ集大成コントレイルが引退して迎えるシーズンになる。他にも長くマイル路線で活躍したインディチャンプも引退、若きスプリント王ピクシーナイトが香港の落馬事故に巻き込まれて戦線離脱中など、苦戦は必至か。
まずは日本ダービー(G1)でエフフォーリアを下し、ジャパンCでも3着したシャフリヤールを中心に、春G1を戦えるだけの戦力を整えるところからの“リスタート”になりそうだ。
今年、横山武騎手の独壇場を止めるとすれば、川田将雅騎手が面白い存在だ。
世界の女王ラヴズオンリーユーと短距離王ダノンスマッシュの引退に加え、大阪杯(G1)を制したレイパパレの不調と、一見厳しいシーズンになりそうな川田騎手。しかし、2頭の「未完の大器」は、エフフォーリアやタイトルホルダーを倒し得るスケールを感じさせる。
1頭目は、サリオスとサラキアを兄姉に持つエスコーラだ。デビュー戦こそ不良馬場もあって4着に敗れたが、約半年の休養を経てから3連勝。特に復帰戦となったレースでは、2着に1.8秒差をつける圧勝劇。未勝利戦ながら芝1800mの日本レコードを叩き出し、全国の競馬ファンの度肝を抜いた。
その後も、まったく危なげない内容で連勝を重ねているエスコーラ。走るたびにレース運びに安定感が増しているところは、川田騎手の英才教育の賜物だろう。
そして、もう1頭が4戦3勝のプログノーシスだ。敗れたのは昨年4月の毎日杯(G3)だが、前を走っていたのは後のダービー馬シャフリヤールと、ダービー4着馬グレートマジシャンだけと、3歳春から非凡な才能を見せていた。
この馬の武器は、父ディープインパクト譲りの末脚だ。特に前走の武田尾特別(2勝クラス)では、上がり3ハロン32.8秒という異次元の切れ味。その約40分後に同じ阪神の外回りで行われたマイルCSでグランアレグリアが32.7秒、シュネルマイスターが32.9秒を記録している点でも、単純な切れ味勝負ならすでにG1級といえるだろう。
2頭ともまずは3勝クラス突破が目標になるが、順調にいけば4月の大阪杯(G1)で、エフフォーリアと初対決になってもおかしくないほどの逸材だ。川田騎手にとっては「2022年の秘密兵器」といえる存在だろう。
果たして、今年の競馬界の主役を担うのは、やはり横山武史騎手か。それとも2頭の「未完の大器」を有する川田騎手か、シャフリヤールと福永騎手がダービー馬の威信を見せるのか、はたまたウルトラC的な新コンビを結成したルメール騎手が、まさかの大逆転を起こすのか――。
今年も、この4人から目が離せない。
(文=浅井宗次郎)
<著者プロフィール>
オペックホースが日本ダービーを勝った1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)
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