JRAもう“幻の菊花賞馬”とは呼ばせない! 武豊に「体当たり」の過去も……、元若手の有望株が「一番強い」お手馬と挑む頂上決戦に手応え
先週末の東京競馬場で行われたダイヤモンドS(G3)は、テーオーロイヤル(牡4、栗東・岡田稲男厩舎)が、条件戦から一気の4連勝で重賞初制覇。昨秋の菊花賞(G1)は除外で出走できなかったが、着実に力をつけて素質を開花した。
主戦を任されている菱田裕二騎手は、自身が所属する岡田厩舎の管理馬で初重賞制覇ともなった。
「この馬が一番強いと思っていましたが、プレッシャーもありました。師匠の馬で勝てて、日頃から感謝しかないのですが、僕自身本当に嬉しいです。本当にポテンシャルは高い馬だと思うので、僕自身馬に負けないように成長できるよう、頑張っていきたいです」
レース後のコメントで菱田騎手がそう振り返ったように、戦前からパートナーの力を高く評価。師への恩返しにも成功したが、真価を問われるのはまだまだこれからかもしれない。
次なる目標は、天皇賞・春(G1)でのG1獲りとなるだろうが、本番でダイヤモンドS組の成績が振るわないことは気になる材料だ。
過去30年を振り返っても、このレースが前走だった出走馬の好走は、22頭中わずか1頭。ゴールドシップが制した2015年の2着馬フェイムゲームのみ。傾向的に本番とあまり直結しない前哨戦という側面を持っている。
しかし、今年の場合はそういったデータに捉われない方がいいのではないかと指摘した記者もいた。
「昨年の勝ち馬ワールドプレミア、3着カレンブーケドールは既に引退し、5着のウインマリリンも大阪杯が濃厚。有力視されたステラヴェローチェはドバイ、そしてオーソクレースが屈腱炎で離脱しました。
上位人気はタイトルホルダーとディープボンドくらいですからね。アリストテレスも復調途上ですし、相手関係はかなり楽になるでしょう。例年のダイヤモンドS組は、本番で“用無し扱い”されることも少なくないですが、今年はバカにできませんよ」(競馬記者)
また、改修工事中の京都競馬場から阪神競馬場に変更されている現在の状況も、テーオーロイヤルにとって好都合といえる。直線に坂のない京都は上がり勝負になることも珍しくなく、切れる脚のある馬に有利だが、阪神の長距離戦はとにかくタフ。早めの競馬で長くいい脚を使えるスタミナを要求され、上がりの掛かるレースが多い。
となると、追い込んだ馬が2着3着に食い込んだダイヤモンドSを、強気の競馬で押し切ったテーオーロイヤルの走りは、阪神の長距離戦で好走するために必要な条件を満たしている。
そして、これは鞍上の菱田騎手が初G1を手にする最大のチャンスかもしれない。
近年は30勝前後と伸び悩んでいるが、デビュー3年目にして60勝以上した元・若手の有望株。ペース判断にも長けており、積極的に動くのも持ち味だ。若手時代には、名伯楽の松田博資調教師も目にかけてもらえるなど、将来を嘱望されていた。
「若手の台頭もあって壁を越えられずにいますが、チャンスに恵まれれば、それに応えられるだけの腕はあります。普段は凄く礼儀正しい好青年ですが、競馬になると豹変する勝負師タイプ。
勝利に対して人一倍貪欲で、それが紙一重の危険な騎乗に繋がる事も多々あります。あの武豊騎手に直線で体当たりしたのは有名ですよね。結果的には降着になりましたが、そのくらい勝ち気な性格という事です」(同)
記者が話したのは、2015年4月18日に行われた阪神12Rのことだ。このレースでアイムユアドリームに騎乗した菱田騎手は、最後の直線コースで外側に斜行。パトロール映像には、被害馬カネトシビバーチェに騎乗していた武豊騎手が、バランスを崩す姿が映し出されていた。
菱田騎手からすると、“若さゆえの過ち”といったところだが、今年は勝率、連対率ともに高い数字をマークしており、再浮上の期待が持てる好調ぶり。やはり重賞クラスの馬がお手馬にいると、モチベーションも変わり、いつも以上にレースに集中できるようになれたのだろうか。
師匠の岡田調教師も、G1は2009年のマイルCSで2着のエイシンアポロンが最高と未勝利。天皇賞・春では、師弟揃っての初G1勝ちに期待したい。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。
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