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JRA「民事訴訟」に至った桜花賞(G1)から31年……。「ああ、終わったな」絶望の淵に立たされた松永幹夫と“裸足のシンデレラ”

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JRA「民事訴訟」に至った桜花賞(G1)から31年……。「ああ、終わったな」絶望の淵に立たされた松永幹夫と裸足のシンデレラの画像1

 先週の大阪杯(G1)は、エフフォーリアとジャックドールの“2強”がまさかの共倒れ。5連勝中だったジャックドールは、G1の洗礼を浴び、5着に敗れた。

 2番人気の支持を集めたジャックドールだったが、アフリカンゴールドから厳しいマークに遭ったことに加え、「(右後肢を)落鉄していた」(藤岡佑介騎手)ことも影響したとみられる。

「落鉄とは、馬が装着している蹄鉄が外れることです。最近だと昨年のホープフルS(G1)でアスクワイルドモアが落鉄し、10着に敗れています。レース後に判明することが多いですが、ごくまれにレース前に落鉄が分かっていても、打ち替えができないまま出走することもあります」(競馬記者)

 最近だと、2016年のドバイシーマクラシック(G1)に出走したドゥラメンテが馬場入場後に右前脚を落鉄。馬が興奮状態にあったため、蹄鉄を打ち替えることができず、そのままレースに臨み2着に敗れるということがあった。

 そのとき鞍上を務めたM.デムーロ騎手は、「蹄鉄がなかったので何度も手前を替えていた」と話していたように、“裸足”で走ることは大きなマイナス要因になり得るといえるだろう。

 時折発生する落鉄をめぐってひと悶着あったのが、31年前の桜花賞(G1)だ。

 1991年4月7日、その年は阪神競馬場が全面改修工事中だったため、京都競馬場で桜の女王を決める大一番が行われた。

 そのレースで“悲劇のヒロイン”となってしまったのは、圧倒的なスピードを武器にデビューから5連勝を飾り、単勝オッズ2.8倍の1番人気に支持されたイソノルーブルだった。

 鞍上を務めたのは当時23歳の松永幹夫騎手(現調教師)。G1初制覇を狙っていたが、レース直前にハプニングに見舞われてしまう。

「出走予定時間が迫り、さあこれからという時でした。ターフビジョンに映し出されたのはイソノルーブルと下馬した松永騎手の姿。観衆がざわつく中、右前脚の蹄鉄が落鉄していることが判明し、装蹄師が蹄鉄の打ち替えをしようとしていました。

ところがレース直前のイソノルーブルは案の定、興奮状態。時間だけが過ぎ、場内も異様な空気に包まれていたといいます」(同)

 出走予定時刻を10分近く過ぎたころ。松永騎手がイソノルーブルに跨ると、ようやく発走のときを迎えた。このときJRAからは、「蹄鉄を打ち替えている」というアナウンスが2回あったものの、重要な“事実”については何の発表もなかったという。

 実はイソノルーブルは落鉄したまま、つまり右前脚が裸足のまま走ることになったのだが、これをJRAはアナウンスしていなかったのだ。

 関西G1のファンファーレが鳴り響き、18頭がゲートに収まると、イソノルーブルはまずまずのスタートを決める。それまで楽にハナを奪い5勝中4勝で逃げ切ってきた快速馬だが、この日は明らかに二の脚が鈍かった。

 鞍上が必死に手綱を押していくが、なかなかハナに立てないイソノルーブル。結局、道中は逃げ馬に並びかけるように2番手を追走した。

 3コーナーの坂の下りでも加速できなかったイソノルーブルを大外から捉えに行ったのが4番人気のシスタートウショウだった。道中は好位を追走していたが、3コーナー過ぎから一気に進出。楽な手応えのまま、先頭で直線を向くと、そのまま押し切り、デビュー4連勝で桜の女王に輝いた。

 一方、イソノルーブルは直線を向くと、早くもムチが飛ぶ絶体絶命の状態。後続勢も一気に押し寄せ、最後は1秒4差の5着でゴールした。

 レース後、イソノルーブルが裸足のまま走ったという事実が明るみに出ると、多くのファンが反発。イソノルーブル絡みの枠連を購入していたというファンの1人がJRAを相手取り、民事訴訟を起こす事態にまで発展した。

 当該ファンは、投票にかかった5000円の損害と、事実(装蹄の失敗)を観客に告知しなかった精神的損害を理由に、100万円の損害賠償を求めたが、裁判所はこれを棄却している(参考文献:木村光男『競馬事件簿』)。

 また、松永騎手は21年に『Number Web』(文藝春秋)に掲載されたインタビュー記事で「あの桜花賞のスタート前は、悔しいという気持ちにすらならなかった。ああ、終わったな、と思いました」と、絶望の淵に立たされた当時の胸の内を語っている。

 イソノルーブル陣営、そしてファンにとって何とも後味の悪い桜花賞となったが、“裸足のシンデレラ”はそのままでは終わらなかった。次走のオークス(G1)で逃げ切り勝ちを収め、24歳になった松永騎手にG1初制覇をもたらしたのだ。

 あれから31年、今年も春のクラシックの季節がやってきた。果たして今週末の桜花賞ではどんなドラマが待っているだろうか。

(文=中川大河)

<著者プロフィール>
 競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。

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