JRA安田記念(G1)ソウルラッシュ、イルーシヴパンサーはどちらがモーリスの再来? マイル王と比較してわかった未知の可能性とは
今週は春競馬の山場となるマイル王決定戦・安田記念(G1)が行われる。天皇賞・春(G1)から始まった6週連続G1レースもここで一段落となるが、ファンとしてはしっかり的中させて月末のグランプリ宝塚記念(G1)へ備えたいところ。
だが今年の安田記念は、ここ数年では見られなかったような混戦模様だ。昨年はグランアレグリア、一昨年はアーモンドアイと2着に敗れはしたが、馬券の軸として信頼に足る圧倒的な実力馬がいた。ゆえに比較的予想しやすいレースでもあった。
しかし今年はどうか。1番人気が想定されるシュネルマイスターは、実績こそあるものの、ドバイで大敗を喫しており、復帰初戦のここでどこまで状態を取り戻しているか不透明な部分もある。また外国産馬ということもあり、その成長力を疑う声も少なくない。
他にも3歳馬ながら挑戦を表明したセリフォス。ヴィクトリアマイル(G1)で上位に好走したファインルージュ、レシステンシア、ソングラインの牝馬。そしてサリオスやホウオウアマゾン、カラテ、ナランフレグ、ダノンザキッド、さらにはフェブラリーS(G1)を連覇しているカフェファラオなど魅力的なメンバーが揃ったが、決定的な馬は見当たらない。
その中で新たなマイル王として期待を集めているのが、現在ともに4連勝中のイルーシヴパンサーとソウルラッシュである。
4連勝の新星マイラーの「モーリス度」は?
イルーシヴパンサーは昨年6月からの4連勝で今年の東京新聞杯(G3)を制覇。ソウルラッシュも昨年12月から4連勝でマイラーズC(G2)を制するなど勢いに乗っている4歳馬。この安田記念を勝利すれば、条件戦から一気に5連勝でG1制覇の偉業となる。
この2頭と重なるのが2015年に4連勝で安田記念を勝利したモーリスだ。モーリスは現2勝クラスからダービー卿CT(G3)まで3連勝を達成し、G1初挑戦となる安田記念を勝利。その後はマイルCS(G1)、香港マイル(G1)、チャンピオンズマイル(G1)、香港C(G1)、天皇賞(秋)(G1)と国内外で活躍し、日本を代表する名馬として歴史に刻まれた。
今回の安田記念に挑むイルーシヴパンサーとソウルラッシュは、果たしてモーリス級の実力馬なのだろうか。そこでモーリスとこの2頭を比較してみると、安田記念の結果に大きく影響するであろう意外な事実がわかった。
■3頭の連勝中の成績
モーリス
ダービー卿CT(G3) 芝1600 良1.32.2 上がり33.0
スピカS(3勝クラス) 芝1800 稍1.50.2 上がり33.8
若潮賞(2勝クラス) 芝1600 良1.33.7 上がり34.6
イルーシヴパンサー
東京新聞杯(G3) 芝1600 良1.32.3 上がり33.1
ノベンバーS(3勝クラス)芝1800 良1.46.1 上がり34.0
鷹巣山特別(2勝クラス) 芝1600 稍1.35.2 上がり33.6
3歳以上1勝クラス 芝1600 良1.32.0 上がり33.8
ソウルラッシュ
マイラーズC(G2) 芝1600 稍1.33.3 上がり34.1
春興S(3勝クラス) 芝1600 重1.34.1 上がり35.8
クリスマスC(2勝クラス)芝1600 稍1.34.1 上がり34.5
3歳以上1勝クラス 芝1600 良1.33.6 上がり34.0
モーリスの連勝で見逃せないのは、連勝中はマイル戦だけでなく1800mでも勝利していること。これはイルーシヴパンサーには該当するが、マイルでしか連勝していないソウルラッシュには当てはまらない。
安田記念はタフと言われる東京の1600mで行われるレース。スピードとスタミナ、そしてCコース2週目で器用さも要求されるだけに、マイルに特化した実績だけでは、 連勝中の勢いを持ってしても安田記念を勝利することは難しいと言える。
ソウルラッシュは2000mの新馬戦を勝利しているが、相手関係や時計からも参考にはならない。やはりある程度上のクラスで結果を出してこそ、その能力は評価されるのだ。
またモーリスとイルーシヴパンサーは何度も上がり33秒台の脚を使って勝利しているが、ソウルラッシュはデビュー以来一度も33秒台の脚を使ったことがない。先週の日本ダービー(G1)でレコードタイムが飛び出し、上位2頭は上がり33秒台の脚を使っていたように、今の東京は高速馬場。馬場や展開によっては32秒台から33秒台前半という極限の上がりが要求される。それはソウルラッシュにとって未知の領域でもあり、不安要素のひとつでもある。
ちなみにモーリスとイルーシヴパンサーは、皐月賞トライアルのスプリングS(G2)に出走しともに4着という経歴も同じ。成績を見れば見るほど、イルーシヴパンサーとモーリスは被る部分が多い。
一方でソウルラッシュは3歳時に重賞出走経験がなく、前走のマイラーズCが重賞初挑戦。マイラーズCは安田記念の前哨戦となるG2戦ではあるが、1994年のノースフライトを最後に、過去27年でここを勝利して安田記念に挑み勝利した馬はいない。その点も大きなマイナスだ。
以上からも、この安田記念に挑む4連勝中の2頭でモーリスをイメージさせるのは、イルーシヴパンサーであり、ソウルラッシュではないことがわかる。イルーシヴパンサーの経歴はモーリスを彷彿させるものであり、新たなマイル王の誕生すらも予感させる。
(文=仙谷コウタ)
<著者プロフィール>
初競馬は父親に連れていかれた大井競馬。学生時代から東京競馬場に通い、最初に的中させた重賞はセンゴクシルバーが勝ったダイヤモンドS(G3)。卒業後は出版社のアルバイトを経て競馬雑誌の編集、編集長も歴任。その後テレビやラジオの競馬番組制作にも携わり、多くの人脈を構築する。今はフリーで活動する傍ら、雑誌時代の分析力と人脈を活かし独自の視点でレースの分析を行っている。座右の銘は「万馬券以外は元返し」。
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