福永祐一「最後」の有馬記念で有終の美ある? 騎乗批判に晒された苦い過去も
まだまだ現役トップの実力を示しながらも、46歳の若さで調教師転身を決断した福永祐一騎手。年末が近づくにつれて今年注目を集めたニュース的な話を目にすることも増えてくるが、個人的には福永騎手の騎手引退を最大級の扱いにしたい。
福永騎手といえば、天才と呼ばれた福永洋一さんの長男であり、競馬界のレジェンド武豊騎手と同じ二世ジョッキーでもある。鳴り物入りでデビューした福永騎手に懸かる関係者の期待も大きく、若い頃から有力馬の騎乗を任されるケースも多々あった。
その一方で、G1などの大舞台で勝負弱さを露呈することもあり、大活躍をしていた武豊騎手と比較される苦しい立場は、本人にも大きなプレッシャーとなったはずだ。
しかし、それまでのどこか頼りないところのあった福永騎手も、19回目の挑戦となった2018年の日本ダービー(G1)をワグネリアンで制覇。父・洋一さんでも勝てなかった「福永家の悲願」を達成してからは、まるで別人のような手綱捌きを見せる。
2020年にコントレイルとのコンビで無敗の三冠を達成しただけでなく、翌21年にもシャフリヤールでダービー3勝目を手に入れた。今年のG1でもフェブラリーS、皐月賞は福永騎手の好騎乗が光った。
長らく苦しんだ高い壁を乗り越え、騎乗に迷いがなくなったことも、その後の好成績へと繋がったのだろう。そういう意味では、福永騎手をデビュー当時から知るファンと、近年の福永騎手しか知らないファンとの間に多少の温度差があっても不思議ではない。
成長曲線でいえば超晩成タイプにも思える名手がピークを迎えたタイミングで、鞭を置いてしまうことに一抹の淋しさを覚えるものの、理論派として知られる福永騎手の成功に太鼓判を押す関係者も多い。第二の人生でもトップトレーナーとなる可能性は非常に高そうだ。
そんな福永騎手にとって現役騎手として最後の有馬記念(G1)となるのが、ボルドグフーシュと臨む今週末の25日。前走の菊花賞(G1)で好騎乗を見せた吉田隼人騎手がポタジェとコンビを組むこともあり、幸運にもチャンスのある馬が回ってきた。
騎乗批判に晒された苦い過去も…
その一方で、福永騎手が有馬記念で結果を残せていないことは少々気掛かり。2011年に9番人気のトゥザグローリーで3着に入ったことはあるものの、過去13度の騎乗で馬券圏内に食い込んだのは、このときの一例のみ。半数以上の7度で二桁人気馬とコンビだったため、苦手条件と決めつけてしまうには早計だが、最もチャンスのあった2014年の有馬記念は、非常に勿体ないレースだったかもしれない。
コンビを組んだ当時、ジャスタウェイは同年のドバイデューティーフリー(G1・現ターフ)を6.1/4馬身差で圧勝。このパフォーマンスを評価され、国際ハンデキャッパー会議で130ポンドの評価を与えられ、ロンジンワールドベストレースホースランキングの単独首位となり、日本馬として初となる世界一の称号を手にしていた。
ゴールドシップ、エピファネイアに続く3番人気ながら、世界最強馬の実力は折り紙付き。勝ち負けは福永騎手の腕次第と考えたファンは少なくなかった。
しかし、1000m通過63秒という超のつくスローペースで後方待機策を選んだのが裏目となり、好位から先に抜け出したジェンティルドンナの前に4着に敗戦。道中で動けるタイミングもあったように思える中、最後の最後まで“静”に徹した福永騎手の判断は、一部のファンから集中砲火を浴びることになってしまった。
ただでさえ、2着に敗れた前走のジャパンC(G1)で元お手馬のエピファネイアに初騎乗だったC.スミヨン騎手が、別馬のような走りを導いて4馬身差と圧勝し、騎手が違えばこうも変わるものかと、ファンが驚かされた経緯もあったのだから尚更だ。
同日の7Rグッドラックハンデ(2勝クラス)より流れが遅かった上に、出走するメンバーはG1のトップクラスだったことを思えば、ある程度は前を意識していないと末脚が不発となってもおかしくはない。
そう考えた場合、中山の短い直線で1着ジェンティルドンナ(2番手)、2着トゥザワールド(7番手)、3着ゴールドシップ(5番手)に対し、12番手から追い込んだジャスタウェイが後ろ過ぎるという意見も納得できる。上がり3ハロン最速33秒4の鬼脚を披露しながらも届かず、0秒2差の敗戦が善戦と評価されなかったのは仕方がないだろう。
当時、口の悪いファンから「世紀のクソ騎乗」と揶揄された福永騎手だが、それはまだダービーを優勝して“本格化”する前のこと。今の“スーパー福永”なら、何かをやってくれそうな期待感も十分。ボルドグフーシュと挑む最後のグランプリで、苦い記憶を上書きしたいところだ。
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