「さすが武豊」「豊さんのおかげ」も立場なし…レジェンド賞賛の陰で再び味わった屈辱
2日、阪神競馬場で行われた大阪杯(G1)。勝ったのは2番人気のジャックドール(牡5歳、栗東・藤岡健一厩舎)だった。
これが今年の始動戦となった同馬だが、反応良くスタートを決めて4走ぶりに逃げの手に出ると、後続の脚を削りながら自らの持ち味である持久力を活かす得意のパターンに持ち込む。そのまま4角先頭で直線に向くと、最後はスターズオンアースに迫られながらも追撃をハナ差しのいでゴール。キャリア14戦目で待望のG1初勝利を掴んだ。
思えば、ちょうど1年前のこのレースは1勝クラスから5連勝と勢いに乗った状態で挑むも、2番人気の支持を裏切る5着に敗れていた。
当時はG1の壁に跳ね返される格好となったが、休みを挟んで臨んだ夏の札幌記念(G2)ではパンサラッサやソダシといった強敵を抑えて優勝。G1級の実力があることを改めて示してみせる。それでもG1のタイトルとは縁遠く、秋は天皇賞・秋(G1)と香港C(G1)で見せ場なく敗れ、悔しい想いを抱いたまま年を越すこととなってしまった。
迎えた今回の一戦は、2走連続で跨った武豊騎手が「良いスタートが切れれば先手を取りたいと思っていた」と振り返ったように、しっかりとスタートを決めて主導権を握る。
そのうえで、「今日の馬場状態だと59秒で入りたかった」という言葉の通り、1000mの通過タイムは58秒9。狙い通りのレース運びで先頭のままゴール板を駆け抜けてみせ、競馬ファンからは「さすがの体内時計」「ペース判断がすごすぎた」といった絶賛の声が並んだ。
レジェンドの名騎乗は馬を送り出した陣営にも大きな衝撃を与え、『スポーツ報知』の取材に応じた藤岡調教師が「ペースは速いなと思って見ていましたが、時計勝負になっても十分やれる馬。さすが武豊だなと」と舌を巻けば、これがJRA・G1初勝利となった前原敏行オーナーも「豊さんのおかげ。最後はびっくりしたけど、今までのレースで一番良かった」と最高のエスコートに感謝を述べている。
さらに元レジェンド騎手の安藤勝己氏も、自身のTwitterで「人馬でレースをコントロールした。これぞユタカちゃんの逃げやった」と思わずつぶやいた。こうして武豊マジックが各所で絶賛された一方で、どうしても注目が集まってしまうのが、昨年までこの馬の主戦を務めていた藤岡佑介騎手である。
レジェンド賞賛の陰で再び味わった屈辱
昨年はジャックドールとのコンビで金鯱賞(G2)と札幌記念を制し、「G1を勝てる素質のある馬」と大きな期待を寄せていたのだが、天皇賞・秋を不完全燃焼の競馬で4着に敗れると、12月の香港Cでは武豊騎手への乗り替わりが決まる。
その香港Cも7着だったものの、陣営は武豊騎手の継続騎乗を決断。昨年5着に敗れた大阪杯でリベンジを果たしたいところだったが、かつての主戦にそのチャンスが巡ってくることはなかった。
藤岡佑騎手といえば、実は昨年もこういった屈辱を味わっている。6月に当時3歳だったセリフォスとともに安田記念(G1)に挑んで4着に敗れたが、休みを挟んだ秋の富士ステークス(G2)では古馬の強豪を破って勝利を挙げ、レース後には「G1ホースになる資格のある馬」と秋のリベンジに闘志を燃やしていた。
ところが、次走のマイルチャンピオンシップ(G1)ではD.レーン騎手に乗り替わることとなり、しかもそこで同馬が6番人気を覆す優勝。藤岡佑騎手はその模様を17着に終わったベステンダンクの背中から見つめることしかできなかった。
とはいえ、セリフォスに関しては2歳時にもデイリー杯2歳S(G2)を勝利後、続く朝日杯フューチュリティS(G1)ではC.デムーロ騎手に乗り替わるという例が過去にもあった。馬主の意向により短期免許で来日中の外国人騎手に手が替わることや、中内田充正厩舎の主戦的な立ち位置である川田将雅騎手への乗り替わりという采配については、ある程度は覚悟できていた部分もあったことだろう。
しかし、今回のケースはひと味違う。ジャックドールは父・藤岡健一師の管理馬であり、厳しい勝負の世界とはいえ、師にも心のどこかには“息子と大きなタイトルを”という想いもあったのではないか。それだけに、父の「やっと勝てたなと。チャンスはたくさんあったんですけどね」というまっすぐな言葉には、これまで以上に大きな悔しさを感じたに違いない。
気が付けば、ケイアイノーテックで制したNHKマイルC(G1)からもうすぐ5年が経とうとしている。思えばあの時は、騎乗停止となった武豊騎手の“代打騎乗”で巡ってきたチャンスに一発回答で掴んだ栄冠だった。
あれから現在まで、JRA・G1では52連敗中。そんな中で出会った最もG1を意識した馬が、武豊騎手とのコンビで頂点に立った。この悔しさをバネに、奮起することができるか。節目の20年目、藤岡佑騎手の逆襲に期待したい。
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