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怪物オグリキャップに二冠馬ミホノブルボン、世界最強馬イクイノックス…常識の埒外から現れた「マイナー血統馬」の活躍こそ競馬の醍醐味【競馬クロニクル 最終回】

競馬クロニクル
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 68回、約1年半にわたって連載した『競馬クロニクル』も今回が最終回となります。そこでこれまでのまとめとして、筆者が競馬のどこに惹かれるのかを記しておきたいと思う。お目汚しの雑文ですが、しばらくお付き合いのほどをお願いします。

 強い馬が強い競馬をする。長い競馬の歴史は“強い馬探し”という淘汰の歴史だったのだから、それは当然のことだ。シンザン、シンボリルドルフ、トウカイテイオー、タイキシャトル、エルコンドルパサー、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ジェンティルドンナ、アーモンドアイ……。歴史を彩った駿馬たちの想像を超える強靭な走りはファン以外にも感動の輪を広げ、なかにはディープインパクトのように社会現象とまで言われるほどの巨大なムーヴメントになっていった。

 筆者もそのひとりだ。特に悔しいレースが続いた3歳時から引退までを取材し続け、休養先である福島県いわき市の“馬の温泉”(JRA競走馬総合研究所リハビリテーションセンター常磐支所)にまで押し掛けたテイエムオペラオーへの思い入れは強い。なかでも8戦全勝、G1レース5勝を記録した2000年の彼の雄姿を思い浮かべると、いまでも身震いがするほどである。

筆者を“競馬沼”に引きずり込んだ「芦毛の怪物」オグリキャップ

 ただ、私が過去に入れ上げた馬には、血統的にマイナーな馬が多い。だいたいにして、筆者を“競馬沼”に引きずり込んだオグリキャップからしてそうだった。

 父のダンシングキャップは、歴史的名馬ネイティヴダンサー(Native Dancer)産駒でありながら現役時代は重賞未勝利の競走馬にすぎなかった。日本で種牡馬入りしてからも大物は出なかったが、ダートの短距離を得意にする仔が多かったため、産駒はもっぱら地方競馬に供給されていた。オグリキャップが笠松競馬でデビューしたのも、ごく自然な流れだった。

 母ホワイトナルビー(父シルバーシャーク)も笠松競馬場で走り、通算成績は8戦4勝と、脚の怪我もあって条件クラスにとどまった馬。ただし、オグリキャップの初代オーナーとして知られた小栗孝一氏が所有し、繁殖牝馬として大事にされたおかげで、笠松で15勝を挙げたオグリシャークなど、どれも堅実な成績を挙げて、一定の評価を受けてはいた。

 しかし、岐阜県の小さな競馬場でデビューしたマイナー血統の芦毛馬がまさかJRAのG1で4勝を挙げるまでになるとは誰も想像していなかった。それが証拠に(オーナーの小栗氏がJRAの馬主資格を持っていなかったという事情があるにしろ)、中央の3歳クラシックに出走するための登録、いわゆる『クラシック登録』をしていなかった。そのため、オグリキャップは中央へ移籍するなり重賞を連勝しながら、クラシック競走とは無縁の3歳シーズンを過ごすことになる(現在は追加登録という救済策がある)。

 常識の埒外から現れる、こういう“異端の馬”が好きだ。1992年のクラシック二冠馬、ミホノブルボンも“異端の馬”である。

 父のマグニテュードは、歴史的名馬のミルリーフ (Mill Reef)産駒 、母が英1000ギニー(G1)と英オークス(G1)を制したアルテッスロワイアル(Altesse Royale)という名馬でありながら、現役時代は6戦未勝利。それでも血統の良さが買われて日本で種牡馬入りした。

 マグニテュードはコンスタントにとは言い難いが、中央でエルプス(桜花賞・G1)、コガネタイフウ(阪神3歳S・G1)などの活躍馬を出す中堅種牡馬だったが、産駒の活躍はほとんどがマイル以下の距離をテリトリーとしたもの。ゆえにミホノブルボンも3歳になって距離が延長されるたびに距離不安説が流れたのはご存知のとおり。それでもミホノブルボンの素質を見出した調教師、戸山為夫氏の坂路でのスパルタ調教で鍛え上げられて皐月賞(G1)、日本ダービー(G1)の二冠を逃げ切りで制した。

 他のG1ウィナーにも、マイナー種牡馬の産駒はいる。

 1988年のオークス(G1)を制したコスモドリームの父は、年間の種付け頭数が4~5頭のブゼンダイオー(父ダイコーター)だった。1994年の天皇賞・秋(G1)を勝ったネーハイシーザーの父であるサクラトウコウ(父マルゼンスキー)は、G1を勝った産駒が本馬1頭だけ。また1995年のマイルCS(G1)、1996年の安田記念(G1)を勝ったトロットサンダーの父である皐月賞馬ダイナコスモス(父ハンターコム)も、中央で出した重賞勝ち馬は2頭だけだった。

「世界最強馬」イクイノックスも異端といえる1頭

 血統の面でみれば、イクイノックスも本来は異端の馬だったはずである。

 サンデーサイレンスの後継種牡馬は数多いるが、その最良の産駒といえるディープインパクトの産駒はどうか。ブリーダーズCフィリー&メアターフ(米G1)を勝ったラヴズオンリーユーなど、数多くのG1ホースを送り出しているが、その子供たちからは、まだ極みまで突出した馬は出ていない。

 その一方で、重賞1勝のみでG1勝利のない全兄ブラックタイドを経由し、さらに母の父にスプリンターのサクラバクシンオーを持つキタサンブラックを経て、年間世界最強馬(2023年度『ロンジン・ワールド・ベストホース・ランキング』1位)が生まれているという真実がある。こうもドラマチックな血の受け渡しが起こり、突然変異(または隔世遺伝)らしき展開が起こるといったい誰が想像しただろうか。

 忘れられない言葉がある。

 1998年のフェブラリーS(G1)を勝ったグルメフロンティアについての取材を進めるなかで、生産牧場である白井牧場の場主、白井民平氏にインタビューしたときのことだ。

 グルメフロンティアの父トウショウペガサス(父ダンディルート)は細々と繁殖生活を続けるマイナー種牡馬だったため、なぜその馬を種付けしたのかを訊ねたくて白井さんを訪れたのである。率直にその質問をぶつけた際の白井さんは訥々とこう語った。

「サラブレッドは過酷な淘汰の歴史を経て今まで続いてきたものです。そして淘汰ということで言えば、どんな血統であれ競走成績であれ、種牡馬として生き残った馬は、すべて淘汰を経てきた馬、選ばれた馬だと私は考えています。何か見るべきところがあるから生かされているんだ、と。だから私は世間でマイナーと呼ばれる種牡馬からG1を勝つ仔が生まれても何の不思議もないと思っていますよ」

 この白井さんの言葉を聞いた帰り道、筆者はそういう馬こそが競馬を面白くしてくれると同時に、競馬の奥深さや血統の不思議さを教えてくれるんだなぁと、深く得心したのを覚えている。

 世界的な良血馬が幅を利かせる昨今、マイナーな種牡馬や競走馬が入り込むスペースはどんどん狭まっているのは確かだろう。だが、それだけではつまらないではないか。「広く天下にマイナー血統の優駿を求む」。あと何年競馬を楽しめるか分からないが、筆者は数少ないながらも渋く活躍するマイナーな馬を追いかけていこうと思う。

 この連載記事は今回が最終回となりますが、また場所を変えて、競馬の歴史のなかのエポックメイキングな出来事をクローズアップする文章をネット上で書き続けようと考えています。正式に公開先が決まった際にはみなさんにお知らせしたいと思っています。これまでのご愛読に感謝します。それでは、また会える日までしばらくのサヨウナラを。

三好達彦

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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