
O.マーフィー「状態は本当に良かったと思います」万全クロノジェネシス“奇策”引っ提げるも惨敗! 奇策の意図と敗因
3日、パリロンシャン競馬場で第100回凱旋門賞(G1)が行われた。5カ国のトップホースが集結したドリームレースを制したのは、ドイツから唯一参戦したトルカータータッソ(牡4歳、独・ヴァイス厩舎)。1975年スターアピール、2011年デインドリーム以来、10年ぶり3頭目のドイツ馬による勝利となった。
一方、日本馬による初勝利を目指して出走したクロノジェネシス(牝5歳、栗東・斉藤崇史厩舎)とディープボンド(牡4歳、栗東・大久保龍志厩舎)だったが、クロノジェネシスが7着、ディープボンドは14着に敗退。日本競馬の悲願は来年以降に持ち越しとなった。
「クロノジェネシスでもダメだったのか……」
そう思った日本の競馬ファンは多いはずだ。同馬は直線で急坂があってタフなレースとして知られる宝塚記念(G1)や有馬記念(G1)制覇など輝かしい実績を残している国内トップクラスの実力馬。加えて稍重・重馬場で4戦4勝しているため、日本より時計が掛かる欧州の馬場にも対応可能と見る向きも多かった。
また血統的な裏付けもあった。クロノジェネシスの父は04年の凱旋門賞優勝馬であるバゴだ。この点については、クロノジェネシスの前走に騎乗したC.ルメール騎手もフランスメディアのインタビューで「(クロノジェネシスは)凱旋門賞勝ち馬バゴの仔です。緩い馬場が得意です」と、後押ししていた。
しかし、クロノジェネシスを所有するサンデーレーシングの吉田俊介代表は戦前に「向こうの重馬場は全く違うので」と、日本との馬場の違いについて強調していたことは見逃せない。吉田代表としては、良馬場を希望していたかもしれない。
だが、不幸なことに競馬場があるパリはレース前日から雨が降り続く悪天候。フランスギャロが当日朝に発表した馬場状態は、不良に近い重馬場だった。
そんなタフな条件のなか、クロノジェネシスは外寄り14番からスタート。まずまずのスタートを切ると、他馬が内ラチ沿いに密集するのを無視して直進する「奇策」に出た。スタートして約40秒後に、じわじわと馬群に近づくと武豊騎手のブルームの外に並ぶ好位2、3番手の位置を確保した。
フォルスストレートを抜けて、最後の直線に入ると鞍上のステッキが一発、二発と入りラストスパート。しかし残り300mを過ぎて徐々に手応えが怪しくなると、後続が一気に押し寄せ、日本競馬の夢を背負った芦毛は馬群に飲み込まれていった。
クロノジェネシスの鞍上のO.マーフィー騎手は序盤に見せた奇策について、「ゴールデンホーンのルートを取りました。徐々に良いポジションを取ろうとして」と説明した。
ゴールデンホーンとはL.デットーリ騎手が騎乗し15年の凱旋門賞を優勝した馬だ。クロノジェネシス同様16番と外目からスタートしたゴールデンホーンは、レース序盤で馬群の外目を走る奇策で好位を確保し、そこから押し切って3連覇を目指したトレヴらに勝利した。
この騎乗についてはネット上で「外枠の不利を挽回したい意図は感じた」といった肯定的な意見もあれば、「ノリさんですか」と、15年天皇賞・春(G1)のゴールドシップや昨年の日本ダービー(G1)マイラプソディで今回のマーフィー騎手と似た騎乗をした横山典弘騎手に例える声もあった。
他方でJRA通算1918勝を誇る元騎手の藤田伸二氏は、自身のTwitterアカウントにて「馬は群れを好む生き物!マーフィー……何やっとんねん……」と、ツイート。藤田氏を代表に否定的な声も多数ある模様だ。
マーフィー騎手は序盤の騎乗の説明に続けて「道中は良い感じで行っていました。直線向いて良い感じだと思ったんですが、そこから加速が無かったですね。やっぱり日本の重馬場と違いますね」とコメント。マーフィー騎手も吉田代表が懸念していた「馬場状態」が敗因と見ているようだ。
最後にマーフィー騎手は「状態は本当に良かったと思います。今日は本当に状態は良かったと思います。夢を見させていただきました」と回答。マーフィー騎手のコメントからは「雨さえ降らなければ……」といった無念さが伝わってくる。
ぜひ来年も現役続行して、リベンジしてほしいところだが、サンデーレーシングの規定により、クロノジェネシスは来年3月までに引退することが決まっている。それゆえ、今回のリベンジは今後生まれてくるであろうクロノジェネシスの産駒が成し遂げてくれることに期待したい。
(文=坂井豊吉)
<著者プロフィール>
全ての公営ギャンブルを嗜むも競馬が1番好きな編集部所属ライター。競馬好きが転じて学生時代は郊外の乗馬クラブでアルバイト経験も。しかし、乗馬技術は一向に上がらず、お客さんの方が乗れてることもしばしば……
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