JRA「絶望からの生還」武豊ドウデュースは何故届いたのか。「やれることはやった」助演男優賞・岩田康誠が魅せた完全燃焼……日本ダービーにあって皐月賞になかったもの

29日、東京競馬場で行われた日本ダービー(G1)は、3番人気のドウデュース(牡3歳、栗東・友道康夫厩舎)が勝利。秋には凱旋門賞(仏G1)挑戦が掲げられている2歳王者が、再び世代の頂点に立った。
「もう、感無量。本当にうれしいです」
すべてのホースマンが憧れる競馬の祭典は、こうやって勝つ――。前人未到の6度目の戴冠となった武豊騎手のお手本のようなダービー制覇だった。
前走の皐月賞(G1)では1番人気を裏切る3着。レース後、武豊騎手が「ポジションが結果的に後ろだったかも」とコメントしたように、やや大事に乗り過ぎたことが批判の対象にもなった。
しかし、武豊騎手ら陣営は「一番強い競馬をした」とスタンスを崩さなかった。結果的に4コーナー14番手から差し切ったドウデュースだが、皐月賞の4コーナーもまた14番手だった。レース後に元JRA騎手の安藤勝己氏が「ユタカちゃんはダービー制覇にこだわってきたんやな」(Twitter)と語った通り、すべてはこの日に結果を出すためのステップだった。

勝ち時計の2:21.9は、シャフリヤールが勝った昨年の2:22.5を0.6秒も更新するスーパーレコード。歴史に残ったタイムも然ることながら、ドウデュースが豪快にライバルたちを飲み込むレースを演出した立役者は、間違いなくデシエルト(牡3歳、栗東・安田隆行厩舎)と岩田康誠騎手だろう。
岩田康誠騎手×デシエルトが魅せた完全燃焼
「スタートで躓いて……」
岩田康騎手がそう悔しがったのは、4月の皐月賞だ。デビュー3連勝の新星として挑んだクラシック開幕戦では発馬直後に躓いてしまう、まさかのアクシデント……。得意の逃げの形に持ち込めず、不完全燃焼のまま16着に大敗した。
そして迎えた日本ダービーでは、事前に安田隆調教師が「逃げます」と堂々の逃げ宣言。「出るからには勝つ気持ちで」とアスクビクターモアやピースオブエイトら、逃げ候補のライバルたちを強烈に牽制した。
そんな陣営の決意を本番で体現したのが、岩田康騎手だ。7枠14番は決して逃げやすい枠順ではなかったが、スタートを決めると押して押して気迫十分にハナを取り切った。1000m通過は過去5年で2番目に速い58.9秒。そこからさらに加速して、次の200mも11.7秒で通過した。
「レース後に、岩田康騎手も『やれることはやった』と話した通り、結果は15着の大敗でしたが、この形で負けたなら陣営も納得でしょう。岩田康騎手の気迫を感じましたし、完全燃焼の競馬だったと思います。2番手を進んだアスクビクターモアが3着に粘った通り、今日の馬場を踏まえれば数字ほどオーバーペースではなかったはず。皐月賞馬のジオグリフも最後止まってしまったように、父ドレフォンには距離の壁がありそうです。元々ダートで結果を残していた馬ですし、できれば次はジャパンダートダービー(G1)でリベンジに挑んでほしいですね」(競馬記者)
一方のドウデュースは皐月賞で3着に敗れた際、武豊騎手が「もっと流れるかと思ったのですが、流れませんでした」と、ペースが思うように上がらなかったことに敗因を求めていた。
「レコード勝ちしたドウデュースですが正直、道中は嫌な予感がしていました。というのも近10年で4コーナー10番手以下からダービーを勝ったのは、キズナ1頭しかいなかったからです。
ただ、それでも届いたのは、やはり皐月賞とは違い、デシエルトがあれだけのペースで引っ張ったのが大きかったように思います。もちろん、皐月賞と同様の競馬を貫いた武豊騎手はお見事でしたが、外連味のない逃げを打ったデシエルトと岩田康騎手に助演男優賞を贈りたいですね。しっかりと隊列を引っ張ってくれたことで、今年のダービーを歴史に残る素晴らしいレースにしてくれました」(別の記者)
「(ダービー勝利は)久しぶりだったので、やっぱり最高。これほど幸せな瞬間はないですね」
レース後、そう喜びを爆発させた武豊騎手は、これで20代、30代、40代に続く50代でのダービー制覇。30年以上に渡ってトップジョッキーであり続けた証であり、数ある記録の中でも、長く語り継がれる不滅の大記録となったに違いない。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。
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