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コントレイルに「喧嘩を売った男」石川裕紀人、無念の降板劇から2年で掴んだ栄冠

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ブラックホール

「コントレイルにも一矢報いることができるんじゃないかなって」

 一昨年の夏、『netkeiba.com』の『今週のface』でインタビューに応じた石川裕紀人騎手は、相棒のブラックホールとそんな小さな野望を抱いていた。

 2連勝で札幌2歳S(G3)を制したブラックホールは、翌年の春のクラシック戦線を石川騎手と共に走り抜けた。しかし、皐月賞(G1)は9着、日本ダービー(G1)も7着と同世代トップクラスの厚い壁に跳ね返されている。その頂点にいたのが、無敗の二冠馬コントレイルだった。

 一見、無謀な挑戦にも見えるが、毎日のように調教に乗っていた石川騎手は、相棒の類稀なるステイヤーとしての可能性を感じていた。あえて同世代の絶対王者の名を口にしたのも、舞台が淀の3000mだからこそだ。

「本当に、本当に楽しみですね。間違いなくクラシック三冠では1番合っている舞台だと思いますから」

 ご存知の通り、この年の菊花賞(G1)ではコントレイルがシンボリルドルフ、ディープインパクトに続く史上3頭目の無敗三冠を達成。そんな中、ブラックホールは14番人気という低評価を覆して5着に好走している。

 しかし、その鞍上に石川騎手の姿はなかった。インタビュー後の札幌記念(G2)で惨敗したブラックホールの陣営からは、藤岡佑介騎手への乗り替わりが発表されていたのだ。

 前述のインタビューでは「だから菊花賞まではブラックホールの背中から下ろされないようにしたいです(苦笑)」と自嘲気味に語っている石川騎手。だが、その直後の「これは必ずしも冗談ではなくて」「厩舎やオーナーの期待に、自分は応えられていない」という言葉からは、ブラックホールが1年間勝利から遠ざかっている危機感がひしひしと感じられていた。

 その後、ブラックホールは翌年春の調教中に故障で競走能力を喪失し、そのまま引退。石川騎手がその背中に戻ることはないまま、2人の冒険は幕を閉じている。

「うれしい以外の言葉が、ちょっと見つからないです」

 あれから約1年半の月日が流れ、チャンピオンズC(G1)が行われた12月の中京競馬場で、石川騎手はG1の勝利騎手インタビューの壇上にいた。中央競馬騎手年間ホープ賞を受賞したのはデビュー2年目19歳のシーズンだったが、あれから8年、そこには様々な挫折を乗り越え成長してきた27歳の姿があった。

 実は9月、石川騎手は福島まで引退したブラックホールに会いに行っている。

 かつての相棒は、国の重要無形民俗文化財に指定されている相馬野馬追に出陣したことで話題を集めるなど、ちょっとしたアイドルになっていた。詳細は先月発売された『週刊Gallop』(産経新聞社)のジャパンC特集号に記載されているので、興味のある方はぜひご一読いただきたい。

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ジュンライトボルト

 石川騎手がデビュー9年目にして初のG1制覇を飾った相棒ジュンライトボルトは、奇しくもブラックホールと同世代。ブラックホールが初勝利を挙げた2019年7月20日、その翌日にデビューしたのがジュンライトボルトだった。

「(道中は)馬のリズムをしっかり感じて乗っていました。直線では『勝てる』という反応だった」

 先週は自身が「目標」と公言するR.ムーア騎手がジャパンC(G1)を勝利。石川騎手は唯一地方からの参戦となったリッジマンに騎乗していた。単勝374.1倍が示す通り、ノーチャンスのまま最後方を回ってきただけの競馬になってしまったが、実はこれが今年のG1初騎乗だった。

 そして今週、偉大すぎる世界のトップジョッキーの“神騎乗”に刺激を受けてのG1初制覇だ。

「すべてのジョッキーがG1は勝ちたいと思っているでしょうけど、僕だって勝ちたいですよ。これまで何度も乗せては頂いていますし、そろそろチャンスをつかみたい」

 これは先日の『今週のface』に再登場した石川騎手の言葉だ。ブラックホールの主戦降板となった2年前は悪い予感が当たってしまったが、今回はまさに有言実行の結果となった。

 丸田恭介、横山和生、荻野極、坂井瑠星、そして石川裕紀人……もし昨年の今頃「この5人に共通するものは?」と聞かれたら、「来年G1を勝つジョッキー」と答えられる人はまずいないだろう。

 今年の競馬は、とにかくドラマに満ちている。

銀シャリ松岡

銀シャリ松岡

天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。

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