JRA「苦労人」福永祐一が岡部幸雄、武豊の領域へ。「頭が真っ白」「最低の騎乗」コントレイル楽勝も最後まで出なかった「三冠」という言葉に感じる「7年間の苦節」
代表的なエピソードは、やはり騎手3年目で挑んだキングヘイローの日本ダービー(G1)だろう。
1997年にデビューした本馬は、福永騎手を背に3戦3勝で重賞を勝利し、一躍クラシック候補に名乗りを上げた。翌年の皐月賞は、主戦騎手の好騎乗もあってセイウンスカイの2着に好走。続くダービーはスペシャルウィークに続き、2番人気に支持された。当時20歳だった福永騎手は、ダービー初騎乗で初勝利という偉業に挑んだのである。
しかし、福永騎手とキングヘイローはまさかの暴走……。デビュー以来「逃げ」たことがなかった同馬が、当時史上2番目1000m通過60.6秒の逃げを打ち、見せ場もなく14着に大敗した。
「頭が真っ白になってしまい、何故かスタートして仕掛けてしまった。直線は穴があったら入りたい気持ちだった」というのは、若き日の福永騎手の言葉だ。
その後、2013年には自身初のJRAリーディングを獲得。最多賞金獲得、最高勝率の3冠を達成するMVJに輝くなど、名実ともに日本のトップジョッキーに上り詰めた福永騎手。
しかし、その一方で肝心の大舞台では“頼りなさ”が付きまとう。印象に残っているのは、単勝1.8倍の1番人気で12着に大敗した2016年のスプリンターズS(G1)だろう。
春の短距離王ビッグアーサーに騎乗した福永騎手だったが、激しくマークされると1枠1番の最内枠が災いし、最後まで進路が見つからず……ほぼ何も出来ないままレースを終えた福永騎手は自ら「最低の騎乗」と吐き捨てた。この“歴史的悪夢”は「ビッグアーサー、前は壁!」という名実況と共に、今でもファンの間で語り草となっている。
そんな福永騎手が、今回の神戸新聞杯を冷静に乗り切れたのは「ビッグアーサー事件」を乗り越え、教訓としたからに他ならない。コントレイルの無敗街道を支えているのは、間違いなく福永騎手が培ってきたエリートとは程遠い「経験と挫折」ではないだろうか。
本来、福永騎手は自身初のMVJに輝いた2013年頃に、コントレイルのような存在と出会うべきだったのかもしれない。何故なら、岡部騎手がシンボリルドルフと、武豊騎手がディープインパクトと出会ったのが揃って36歳のシーズンであり、福永騎手も同時期に騎手としての絶頂期を迎えていたからだ。
しかし、福永騎手がコントレイルと三冠に挑むのは、36歳から7年後の今年43歳のシーズンだ。岡部幸雄、武豊両騎手の偉業には大きく後れを取っているが、その7年間こそが「苦労人・福永祐一」が辿った“苦節”の結果なのかもしれない。
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