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JRA「蛯名正義騎手引退」日本が世界に一番近づいた最初の瞬間、エルコンドルパサーで会心の騎乗も頂点に手が届かなかった名勝負

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 28日、JRA通算2538勝を挙げた名ジョッキー、蛯名正義騎手がステッキを置き引退する。数多くの名馬に騎乗し、名勝負を繰り広げてきた。だが、そんな蛯名騎手もG1初勝利は意外に遅く、デビュー9年目の96年にバブルガムフェローで制した天皇賞・秋だった。

 このときは主戦の岡部騎手が海外遠征のため騎乗できなかったので、テン乗りでお鉢が回ってきた結果、好騎乗を見せて3歳馬(当時表記では4歳)として初の天皇賞制覇という快挙を成し遂げた。

 これに続くG1制覇がエルコンドルパサーのジャパンCになる。エルコンドルパサーは蛯名騎手が騎乗しているイメージが強く残っているのだが、実はデビューから主戦として騎乗していたわけではない。

 エルコンドルパサーが最初にG1を制覇したNHKマイルCでは的場均騎手が騎乗しており、そもそもの主戦騎手は的場騎手だったのだ。

 蛯名騎手の運命を変えたとも言えるエルコンドルパサーへの騎乗は、今や伝説級の名勝負、スーパーG2とも称される98年の毎日王冠からである。このとき、的場騎手にはもう1頭怪物級のお手馬グラスワンダーがいた。骨折で春を棒に振った怪物がこのレースで復帰することになったのだ。

 的場騎手はこのとき、エルコンドルパサーとグラスワンダーという2頭の怪物を秤にかけて、グラスワンダーを選んだのだった。その結果、蛯名騎手にエルコンドルパサーが回ってきたのである。

 このレースでサイレンススズカには完敗するも、エルコンドルパサーは2着に健闘し、これによって新たな主戦騎手として騎乗することになる。

 エルコンドルパサーは上記の通り、毎日王冠からジャパンCへ駒を進め、スペシャルウィークやエアグルーヴを抑えて快勝。元々秋は2戦の予定ということと、世界的な評価が高いジャパンCを勝ったことで、日本に敵なしと判断して有馬記念を使わなかった。

 翌年からは当初の予定通り海外遠征を敢行。初戦にはイスパーン賞(G1)を選び、惜しくも2着に敗れる。しかし、これで蛯名騎手は手応えを掴むと同時に、エルコンドルパサーの状態も急上昇。2ヶ月後のサンクルー大賞(G1)に出走すると1番人気に応えて快勝した。

 この後、外傷による脚部不安を発症し、1ヶ月ほど調教ができない状態になったものの、立て直して凱旋門賞と同じコースを走る重要なステップレース、フォワ賞(G2)に出走する。ここでも1番人気に推され、直線で後ろから一旦交わされるも差し返して勝利。

 本番の凱旋門賞では、同じく前哨戦を危なげなく勝ったモンジューが1番人気、エルコンドルパサーは2番人気だった。出走14頭中8頭がG1勝ち馬ということで、ハイレベルな戦いが予想されていた。

 そして、スタート。エルコンドルパサーは内ラチ沿いに先頭に立ち、そのままレースを引っ張っていく。道中常に2馬身程度のリードを保ったまま、3コーナーを周り、4コーナーから直線に向かう。

 直線でも手応え十分。絶妙なタイミングで追い出すと、後続を突き放し3馬身から4馬身程度のリードを開く。中継を見ていた誰もが残り200mを切ってまだ先頭を走っているエルコンドルパサーの勝利を確信したとき、後ろからモンジューが追い込んできた。

 ゴール前100mを切ったあたりまで、粘ったエルコンドルパサーだったが、モンジューの差しに屈して先頭を譲ったところでゴール。鞍上の蛯名騎手は世界の頂点を掴みかけ、手のひらから落ちていった瞬間だった。

 エルコンドルパサーの凱旋門賞を皮切りに、ナカヤマフェスタやオルフェーヴルが2着に入るが、それはエルコンドルパサーの挑戦から実に9年以上も後の話になる。

 エルコンドルパサーと蛯名騎手は、世界に最も近づいた最初のコンビだったのだ。

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