JRAによる「動物虐待事件」疑惑から7年。腕時計を壊された係員が三浦皇成「進言却下」のムチ使用で大炎上…「真面目だし乗りやすい」エリート娘は母の無念を晴らせるか
26日、有馬記念デーの中山6R新馬戦を制したのは2歳女王ローブティサージュの娘ローブエリタージュ(牝2歳、美浦・手塚貴久厩舎)とC.ルメール騎手だった。
16頭立て芝1600mのレース。外枠不利の中山マイル戦で大外16番からの発走となったローブエリタージュだが、2番人気に甘んじたのはそういった背景もあるかもしれない。スタートはあまり良くなったが、ルメール騎手が促すと鋭いダッシュを見せて中団へ。レースの流れに乗った。
「3、4コーナーで大外に出したら、しっかり加速しました」
そんなルメール騎手の言葉通り、真価を発揮したのは勝負所の3、4コーナーだ。外に持ち出されるとライバルたちをひと捲り。先頭集団に並びかける形で最後の直線を迎えると、抜群の手応えからあっさり押し切った。
2着とは1馬身1/4だが、見た目の着差以上に能力を感じさせる好発進だ。
ローブエリタージュの母ローブティサージュといえば、2012年の阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)を制した父ウォーエンブレムの傑作だ。また、このレースは鞍上・秋山真一郎騎手の初G1勝利としても知られている。
しかし、それ以上にこの馬が有名になったのは、その2年後に起きたJRAの「虐待疑惑事件」だろう。
2014年11月の京阪杯(G3)。当時4歳だったローブティサージュは阪神JF制覇後に不振に陥っていたが、スプリント路線に活路を見出して同年のキーンランドC(G3)を勝利。約2年ぶりの重賞制覇を飾るなど、第2の全盛期を迎えていた。
だが、その一方で激しい気性はなかなか改善が見られず……。この日の事件は、そんな気性面が引き金となった。
発走時刻を迎え、各馬が続々とゲートインする中、この日もゲート入りを嫌ったローブティサージュ。ただ、今回はいつにも増して激しさを見せており、ゲート入りを誘導するJRAの係員があの手この手を尽くすも状況が改善する気配はなかった。
「目隠しをすれば、すんなり入ります」
待つこと数分後、そう進言したのはローブティサージュの主戦を務めていた三浦皇成騎手だった。今夏からコンビを組んで函館スプリントS(G3)2着、キーンランドCで重賞勝利。本馬を復活に導いた立役者だけに、その言葉には説得力があったはずだ。
しかし、JRAサイドは「対応の手順がある」があると、三浦騎手の進言を却下。後ろ脚を激しく蹴ってゲート入りを嫌がるローブティサージュにムチを入れて促した。
だが、JRAにとって不幸だったのは、このシーンがテレビ中継で大きく取り上げられたことだ。映像に加え、現場の音声まで収音マイクに拾われれば、目にした全国のファンの一部から「動物虐待」という意見が届くのも当然だろう。
さらにこの事件は、後にローブティサージュ陣営から抗議が入り、さらに炎上する。
結局、目隠しをしてゲートに入ることができた点も含め、三浦騎手が「主張したのに受け入れられなかった」と言えば、「(ムチの使用で)精神的ダメージを受けた」と本馬が所属するシルクレーシングも徹底抗議の構え。
また、一部マスコミから「ムチを入れた係員が、ローブティサージュが暴れたせいで腕時計を壊されていた」という報道まで持ち上がり、“ローブティサージュ事件”は2014年の競馬界を代表するニュースの1つになった。
最終的に翌年3月の阪急杯(G3)で復帰を果たしたローブティサージュだったが、そのレースで3着するものの、その後は二けた着順で連敗するなど、かつての輝きを失ってしまった。
陣営が抗議した精神的ダメージとの因果関係は定かではないが、多くのファンにとって「あの事件」が原因になったと映るのは仕方ないことだろう。
「真面目だし乗りやすい。走りのバランスも良い」
あれから7年。これも父ディープインパクトのなせる業だろうか、ルメール騎手の言葉通り、ローブティサージュの3番仔となるローブエリタージュはお利口さんのようだ。母娘による阪神JF制覇には少し間に合わなかったが、来年には母が涙を飲んだクラシックが待っているはずだ。
(文=浅井宗次郎)
<著者プロフィール>
オペックホースが日本ダービーを勝った1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)
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