JRA「98連敗中」藤田菜七子に迫る「引退」の足音…今年1番人気わずか8回、女性騎手「試練の5年目」は何故起こってしまうのか
今年もいよいよ28日の競馬を残すのみとなった。有馬記念(G1)を制したエフフォーリアが中心となる年度代表馬の争い、各ジョッキーたちのリーディング争いなど、2021年の年間表彰も固まりつつある。
そんな華やかな世界がある一方で、この1年、もがき苦しんだ騎手がいる。現役女性騎手の第1人者、藤田菜七子騎手だ。
年間を通しての成績不振に加え、10月には左鎖骨骨折のアクシデントがあった。昨年2月に同箇所を骨折していたが、前月に患部を固定していたプレートの除去を行ったばかり。それも落馬などの事故ではなく、ゲートを出る際に手綱の結び目の金具がたまたま当たっただけだった。普通ならまず起こりえないはずの不運に、本人も泣き崩れて悔しがったという。
そんな藤田騎手にとって、今シーズンは過去5年間で最も苦しんだ1年だったのではないだろうか。
勝ち星はここまで14勝と、昨年の35勝から大きく後退。28日には3鞍の騎乗が予定されているが、現在8月15日の勝利を最後に98連敗中……もし勝てなければ、デビュー2年目と同じ勝利数で終えることになる。一昨年にキャリアハイの45勝を挙げていたものの、そこからあらゆる成績で右肩下がりと、明らかに勢いを失っている印象だ。
また、勝ち星の少なさに拍車をかけているのが「騎乗数」の減少と「騎乗馬の質」の低下だ。
キャリアハイの45勝を挙げた2019年の703回をピークに昨年が570回、今年は394回(28日騎乗分含む)まで激減。ちなみに先週は、中京が終了して2場開催になった影響もあって土日各1鞍ずつしか騎乗がなかった。骨折などで戦列を離れた時期もあったが、それを差し引いても深刻な状況と言えそうだ。
また騎乗馬の質として、わかりやすいのが「1番人気の騎乗回数」だろう。
2019年の45回をピークに昨年は28回に留まったが、今年はわずか8回。「結果が出ない→騎乗馬の質・量ともに減少→さらに結果が出なくなる」という騎手ならではの“負のサイクル”に嵌ってしまっているのが、今の藤田騎手といえるだろう。
苦境に立たされている藤田騎手だが、幸い騎手は年が替われば成績もリセットされる。来年こそは巻き返しに期待したいところだが、記者は「厳しい」と話す。
「今の藤田騎手は正直、これまで志半ばで騎手を引退せざるを得なかった多くの男性若手騎手と似たような状況にいると思います。
競馬は何といっても、結果がすべての世界。例えば、今年大ブレイクした横山武史騎手のように勝てば勝つほどいい馬が集まって、さらに勝ちやすくなる一方で、負ければ負けるほど“負の連鎖”が止まらなくなるのが騎手という職業。これまでも光るものがあるのに、騎乗機会を得られずに引退せざるを得なかった若い騎手を何人も見てきました。
それも藤田騎手は、現在すでにJRA通算101勝をクリアして見習騎手を卒業。かつて『菜七子ルール』などと揶揄された、女性騎手の減量特典+見習騎手の減量特典の併せ技も、今の藤田騎手には女性騎手の2キロしか減量特典がありません。そこが変わらない限り、今後も厳しい戦いが続く可能性は非常に高いと思います」(競馬記者)
また、記者曰くJRAの女性騎手にとっては「5年目」が試練の年になっているという。
実際に、藤田騎手がデビューするまでに細江純子さんなど6人の女性騎手がJRAから誕生したが、そのうち細江騎手、田村真来騎手が6年、板倉真由子騎手が5年、押田純子騎手が4年で、そのキャリアを終えている。
また西原玲奈騎手は2000年~2010年までの11年間現役を続けたが、5年目以降は勝ち星ゼロと苦しんだ。デビュー2年目に当時の女性騎手として初の二けた勝利(11勝)を達成した増沢由貴子騎手は18年のキャリアを誇るが、落馬負傷の影響もあって5年目は未勝利と苦戦している。
「女性騎手が短命であることについて、よく女性の身体面のピークの話が挙がりますが、20代でそこまで大きな衰えがあるとは思えません。それよりもJRAの見習騎手特典が、騎手免許取得5年未満を終えるとなくなってしまう点が大きいと思いますね。
そういった背景と合わせて、メディアなど周囲の関心が薄れていくのもこの時期。特に女性騎手の場合は希少性が高い分、デビュー時は大きく注目されますが、活躍できなかったときは、それだけ大きな落差を生んでしまうことにもなります。
そういった様々な積み重ねが、4年目・5年目といった若手騎手の騎乗数の減少を生んでいる側面は間違いなくあると思いますね」(同)
今年は新たな女性騎手として古川奈穂騎手と、永島まなみ騎手がデビュー。そこに自身の不振もあって、5年目の藤田騎手が新聞で活字になる機会は目に見えて減っている印象だ。
これまで数々の女性騎手の記録を塗り替えた藤田騎手が迎えている正念場。ただ24歳といえば、アスリートとしてはちょうどピークと言われるの年齢だけに、まだまだ復活のチャンスは残されているはずだ。2022年は藤田騎手にとって、大きなターニングポイントになるかもしれない。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。
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