JRA「強いです!」戸崎圭太を悪夢再来から救った異次元の末脚。アーモンドアイ、アパパネの国枝栄調教師を驚かせた「規格外の怪物」が秋華賞(G1)へ
大器の明暗が分かれる結果となった。
5日、安田記念(G1)が開催された東京競馬場に「超大物」と噂されるドゥラドーレス(牡3歳、美浦・宮田敬介厩舎)が登場。春のクラシック出走が叶わなかった大器が、逆襲の秋に向けた仕切り直しの一戦に多くの競馬ファンが熱視線を送った。
今年1月のセントポーリア賞(1勝クラス)を3馬身差で圧勝し、続く毎日杯(G3)では単勝2.1倍の1番人気に推されたドゥラドーレス。しかし、スタートで大きく出遅れると、最後は上がり最速の末脚で追い上げたものの3着……事態を重く見た陣営は、大事を取って春のクラシック挑戦を断念した。
あれから約3か月、鞍上を戸崎圭太騎手から福永祐一騎手へスイッチして挑んだ今回のホンコンジョッキークラブT(2勝クラス)。7頭立ての少頭数ということもあって、ドゥラドーレスは単勝1.2倍の大本命に推された。
しかし、レースは前半の1000m通過が63.6秒というスローペース。折り合いを重視して後方からの競馬を試みたドゥラドーレスだったが、これが完全に裏目に……。最後は上がり最速となる33.0秒の末脚で追い込んだが、超スローだけに前の馬にも33秒前半の脚を使うだけの体力が残っていた。
結局、ドゥラドーレスはまさかの3着敗戦。秋に向けたプランが大きく狂った敗戦にレース後、福永騎手は「最後は地力だけで走っていましたが、届きませんでした」と言葉を絞り出す他なかった。
単勝1.2倍の敗戦ということもあって、レース後には福永騎手の騎乗がファンの批判の的となったが、今回は超が付くほどのスローペースを後方から競馬した結果と敗因は明らか。ある意味、後ろからいった時点で「負け確定」と言わざるを得ない敗戦で、次のレースでドゥラドーレスが人気を落とすことはまずないだろう。
ドゥラドーレスが屈した「負け確定」を覆した怪物
しかし、その一方で、そんな「負け確定」という運命を覆した馬がいる。その前日に行われた東京7Rに出走したサリエラ(牝3歳、美浦・国枝栄厩舎)だ。
「強いです!」
レース後、鞍上の戸崎騎手が手放しで称賛したのも当然か。舞台はホンコンジョッキークラブTと同じ東京・芝2000m。前半1000m通過タイムは、ドゥラドーレスの63.6秒よりさらに遅い63.8秒。超スローの中、サリエラは9頭中7番手で最後の直線を迎えた。
「あの位置取りで、もう終わりだと思った」
そう国枝調教師が振り返った通り、本来ならここで「負け確定」である。しかし、サリエラはここからドゥラドーレスの上がり33.0秒を上回る32.9秒の豪脚で一気に差し切ってしまった。かつてアパパネやアーモンドアイといった三冠牝馬を手掛けた名伯楽をして「しまいはビュンと来たよ」と苦笑いを浮かべる他ない、まさに圧巻の“鬼脚”だった。
「ドゥラドーレスは2勝クラスだったことに対して、サリエラはまだ1勝クラスのレースでしたから、単純な比較はできません。それでもこの日の東京は前に行った馬が有利でしたし、正直サリエラはドゥラドーレス同様に負けても仕方ない内容だったと思います。国枝調教師も『能力は非凡だね』と驚いていたらしいですよ」(競馬記者)
この異次元の末脚に救われたのは、鞍上の戸崎騎手に他ならないだろう。
レース後に国枝調教師が「あの位置取りで、もう終わりだと思った」と振り返った通り、この日のサリエラの競馬は「負け確定」のパターンだった。もし敗れていれば、ドゥラドーレスの福永騎手同様、その騎乗が批判の的にさらされてもおかしくはなかったはずだ。
「実は前のレースまでドゥラドーレスに騎乗していたのが戸崎騎手。前走の毎日杯では後方から大事に行き過ぎて敗戦しており、レース後には本人からも謝罪のコメントがあったほどでした。そんな戸崎騎手からすれば、一歩間違えればサリエラでまた同じミスを繰り返すところ……。本人も『能力で勝ってくれた』と話していましたが、もし敗れていれば乗り替わりの可能性も浮上していただけに救われた一戦だと思いますね」(同)
サリエラの兄は先週の安田記念で3着と復活の気配を見せたサリオス。姉にはエリザベス女王杯(G1)2着のサラキアもいる超良血馬だ。
「競馬はドキドキして楽しいな」
そう語った国枝調教師によると、今後は秋の秋華賞(G1)を目指してローテーションが組まれる予定だ。スターズオンアースが三冠制覇に挑む秋の大一番に、規格外の上がり馬が大きく立ちはだかるかもしれない。
(文=銀シャリ松岡)
<著者プロフィール>
天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。
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