
JRA アーモンドアイを超える牡馬の名馬に巡り合えるか? 国枝栄調教師の1000勝達成と「ダービーを獲りたい」夢の難しさ

2日の函館10R洞爺湖特別を管理馬のクライミングリリーが勝利したことで、美浦の名伯楽・国枝栄調教師が通算1000勝を達成した。芝G1史上最多となる9勝を挙げたアーモンドアイをはじめ、3冠牝馬アパパネなど名牝を手がけてきた国枝師だが、美浦トレセンでのインタビューに応じ、「私もダービーはまだなので、それを獲りたいなと思います」と今後について語った。
この調教師1000勝というのは相当な偉業で、ジョッキーの通算1000勝超えが41人いるのに対して、調教師では国枝師を含めてわずか15人しかいない。さらに言えば、国枝師以外の14人はすでに引退しているため、現役でも国枝師が最多勝の調教師となっている。
では、師が「私も獲りたい」と語ったダービーについて、過去の1000勝達成調教師はどのような成績を残してきたのだろうか。
「ダービーを獲りたい」夢の難しさ
まず、今もって調教師の最多勝の記録が破られていないのが1670勝をマークした尾形藤吉調教師。この名前を聞いてピンときた人はよほどの競馬通かオールドファンだろう。JRAが発足してからの記録で1981年まで現役だったのだが、実際に調教師としての資格を取得したのは1911年のこと。この後に触れる1000勝超えの調教師を数多く門下生に抱えた、いわば日本競馬史を支えてきた名調教師だ。
これだけの調教師なのでダービーの勝利数も半端でなく、戦前から通算して実に8勝をマークしている。そのいずれも「競馬史に残る」というレベルの名馬揃いで、今では考えられないが牝馬でオークス・ダービー・菊花賞の変則3冠を制したクリフジ、初の海外遠征・海外での重賞勝利を挙げたハクチカラなどが挙げられる。
次いで史上2番目の勝利数を挙げているのが今年2月に勇退した藤沢和雄調教師。こちらは読者諸兄にとってもお馴染みの人物だが、意外なことに海外も含めG1を35勝挙げているにもかかわらず、ダービーとなると17年のレイデオロの1勝だけになる。もっと言えばダービーの1勝以外に牡馬クラシック3冠レースを勝っていない。
ダービー1勝のみという1000勝調教師は他にもおり、古くは73年のダービーを勝った「ハイセイコーの敵役」タケホープを管理した稲葉幸夫調教師、80年のダービーを勝った「史上最弱のダービー馬」オペックホースを管理した佐藤勇調教師、85年のダービーを勝った「長期ヨーロッパ遠征」シリウスシンボリを管理した二本柳俊夫調教師などがそうだ。
ただ、上記の調教師はいずれも古い世代の人物なので、ピンと来ない人がほとんどだろう。
もう少し時代を近づけると名伯楽・伊藤雄二調教師もダービーは1勝しかしていない。マックスビューティやシャダイカグラといったクラシックホースをはじめ、今もってその血脈が残っているエアグルーヴも管理しており、牝馬では実績を残してきた。
だが、意外にも牡馬クラシックは77年に皐月賞を制したあと、実に16年間勝ち星がなく、93年にウイニングチケットでダービーを初制覇している。鞍上の柴田政人元騎手がダービーを初制覇したことで記憶に残る馬だが、実は伊藤雄調教師にとっても初制覇だった。
そのほか、1000勝調教師の管理馬にはシンザン、ミスターシービーといった3冠馬2頭も含まれており、15人中実に11人までが調教師としてダービーを制覇している。一方、ダービーはおろか、G1級の勝利がない調教師やさらに重賞の勝ち星すらなかったにもかかわらず、1000勝を達成した豪の者もいる。
もっとも、この1000勝調教師のダービー制覇のほとんどは80年代以前のもので、90年代以降のものとなると前述のウイニングチケットとレイデオロの2頭しかいない。直近になればなるほどダービー制覇の敷居が高くなっていることは間違いないだろう。
現役調教師で国枝師に続く勝ち星を挙げている音無秀孝調教師は騎手時代にもダービー制覇の経験はなく、安田隆行調教師は騎手時代にトウカイテイオーで2冠を制しているが調教師に転向してからはまだダービー制覇の経験がない。
こうやって見ると、現代競馬において調教師で1000勝挙げることがいかにすごいことか、それに上乗せしてダービーを制することが難関であるかがよくわかる。
牝馬には恵まれている国枝師も今年のコマンドラインには期待がかかったもののシーズンに入っては尻すぼみになってしまった。ぜひ、牡馬クラシックを賑わす大物牡馬とのダービー制覇に期待したい。
(文=ゴースト柴田)
<著者プロフィール>
競馬歴30年超のアラフィフおやじ。自分の中では90年代で時間が止まっている
かのような名馬・怪物大好きな競馬懐古主義人間。ミスターシービーの菊花賞、
マティリアルのスプリングS、ヒシアマソンのクリスタルCなど絶対届かない位置から
の追い込みを見て未だに感激できるめでたい頭の持ち主。
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