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トウカイテイオーに続けなかった「幻の後継者」の不運

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撮影:Ruriko.I

 17日、Twitterのトレンドに突如として懐かしの競走馬の名前が挙がった。それがツルマルツヨシである。これはどうやら大人気ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)に登場する新アイテムの発表が関連していた様子だ。

『ウマ娘』には“サポートカード”という育成を手助けするアイテムが存在するのだが、今週から登場する新たなサポートカードのイラストにはシンボリルドルフ、トウカイテイオー、そしてツルマルツヨシが描かれていたのである。

 往年の競馬ファンならばこの3頭の組み合わせを見て「なるほど」とその関係性がピンと来たはず。一方でそれこそ『ウマ娘』がきっかけで競馬に興味を持ったファンの中にはシンボリルドルフ、トウカイテイオーのペアには馴染みがあっても、「なぜツルマルツヨシ?」と疑問に思った方も多かったかもしれない。

 シンボリルドルフの産駒と聞いて誰もが真っ先に思い浮かべるのがトウカイテイオーだろう。皇帝といわれた父の後継者に相応しい帝王の名を背負い、数々の伝説を生んだ歴史的名馬といえる存在である。だがそのトウカイテイオーの陰に隠れてはいるが、実はもう1頭シンボリルドルフの産駒には“大物”が存在していた。それこそがツルマルツヨシである。

 ツルマルツヨシは関係者が絶賛する程の好馬体の持ち主で、デビュー以前からその素質の高さを認められる存在であった。しかし“ツヨシ”の名とは裏腹に体質は虚弱であり、デビューが叶ったのは3歳(旧4歳)の5月という同世代がクラシックを戦う真っただ中の時期であった。

 デビュー戦では無事に勝利を収めたものの、その後も体質の弱さに悩まされツルマルツヨシは満足にレースに出走することができずにいた。素質の高さは本物であり条件戦では4戦3勝という抜群の成績を残したものの、デビュー戦での初勝利から3勝目を挙げるまでには約1年1か月という長い時間を要してしまった。

 それでもツルマルツヨシのポテンシャルを信じていた陣営は、4歳(旧5歳)時に三河特別(900万下・当時)で3勝目を挙げた後に格上挑戦となる北九州記念(G3)への出走を決断する。するとこのレースでツルマルツヨシは見事に期待に応えて3着に好走。重賞でも通用する力を示し、続いて挑んだ朝日チャレンジC(G3)で待望の重賞初制覇を遂げる。

 この時期には体質も改善し、コンスタントにレースを使えるようになっていたツルマルツヨシ。まさしく充実期を迎えており、重賞制覇の勢いに乗って翌月の京都大賞典(G2)へと挑むこととなる。

 この京都大賞典にはツルマルツヨシと同世代のダービー馬・スペシャルウィークが出走。同じ1998年クラシック世代の“遅れてきた大物”と当代のダービー馬の直接対決は大きな注目を集めることとなった。

 その他にも前年に天皇賞・春(G1)を勝利したメジロブライトや、この年の皐月賞(G1)を勝利したテイエムオペラオーといった強豪が集結したこの年の京都大賞典。夏の上がり馬として期待を受けたツルマルツヨシではあったが、評価はG1馬3頭に次ぐ4番人気で挑んだ。

 しかしレースでは直線で早々と抜け出して先頭に立つと、メジロブライト、テイエムオペラオーの猛追を最後まで凌ぎ切り快勝。圧倒的な支持を受けたスペシャルウィークは7着に敗れ、ツルマルツヨシは世代のトップを相手に大金星を挙げて見せた。この勝利によって“遅れてきた大物”は一躍秋の主役へと躍り出ることとなった。

 重賞連勝で勢いに乗るツルマルツヨシは、意気揚々と秋のG1戦線へ駒を進めることとなる。天皇賞・秋(G1)では府中の2000mで不利とされる8枠17番の大外枠に苦しみ8着に敗れたものの、続いて臨んだ有馬記念(G1)では4着に善戦する。

 この有馬記念は今なお語り継がれるグラスワンダーとスペシャルウィークのハナ差4cmの激闘が繰り広げられたレースであり、その2頭と0.1秒差の4着と食い下がったツルマルツヨシの走りは十分に評価できるものだった。強豪相手にG1でも通用する力を証明したツルマルツヨシは、翌年に更なる飛躍が期待されていた。

 だがその期待と裏腹に、この有馬記念がツルマルツヨシにとって最後の輝きとなってしまう。ついに本格化を迎えたかに思われたが、この有馬記念の後に骨瘤を発症。ここにきて従来の弱点であった虚弱体質が露呈し、約10か月におよぶ長期休養を強いられてしまう。

 翌年になんとか復帰し京都大賞典へ出走するも、見せ場は無く惨敗。続いて臨んだ有馬記念ではレース中に故障を発生し競走中止。左前脚の繋靭帯断裂により競走能力を喪失し、このレースを最後にターフから去ることとなってしまった。

 引退後は血統的な魅力もあって種牡馬入りの話も上がったようだが、体質的な弱さが懸念され最終的には種牡馬入りは果たせず。その後は京都競馬場の誘導馬としても活躍し、現在は宮崎の吉野牧場で余生を送っている。

 皇帝シンボリルドルフの血を引く馬として一線級で活躍できるポテンシャルを持ちながらも、未完の大器のまま終わってしまったツルマルツヨシ。シンボリルドルフの後継としてはトウカイテイオーやアイルトンシンボリが種牡馬入りを果たしたものの、その2頭は種牡馬として目立った活躍馬を輩出できず、現在ではこの系統は絶滅寸前の状況である。

 クラウドファンディングなどの取り組みでトウカイテイオーの仔から血を繋げようという取り組みはあるものの、この系統の存続が難しいという現状に変わりはない。こうした話題が取り上げられる度に、もしツルマルツヨシが種牡馬入りを果たしていれば…という思いを抱いてしまう。

 仮にツルマルツヨシの体質が丈夫であれば98年のクラシック“最強世代”の勢力図やその後の競馬の歴史も少しは変わっていたのではないか。そうなればツルマルツヨシが種牡馬として成功し、皇帝の血が後世に繋がっていたかもしれない…。勝負の世界に“もしも”は無いのだが、そう言いたくなるほどにツルマルツヨシは素晴らしいポテンシャルを秘めた馬であった。

 今回は『ウマ娘』がきっかけで時代を超えて注目を集めたツルマルツヨシ。血統表にその名は残らないが、皇帝の血を引くもう1頭の“大物”がいたことを我々ファンは記憶に留めておきたい。

(文=エビせんべい佐藤)

<著者プロフィール>

 98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。

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