恩師の急逝と弟の引退…決意新たに柴田大知が躍動
今月初週から始まった夏の福島競馬だが、2020年は新型コロナウイルスの感染対策の影響、2021年は最大震度6強を観測した福島県沖地震の被害を受けたスタンドの補修工事の影響でそれぞれ無観客での開催に。有観客で行われる夏の開催は3年ぶりということで、特に大きな盛り上がりを見せている。
福島盆地特有の猛暑と、並々ならぬファンの熱気に包まれている今年の福島開催。そんな当地の熱気に引けを取らない程に、熱い騎乗を見せた1人の騎手がいる。それが柴田大知騎手である。先週17日には8鞍に騎乗すると計3勝の見事な固め打ち、当地のファンを大きく湧かせた。
例年、夏の福島開催では多くの騎乗機会を得ている柴田大騎手であるが、とりわけ目立つのがビッグレッドファームやサラブレッドクラブ・ラフィアンに関係する所謂「マイネル軍団」の馬への騎乗である。17日に挙げた3勝もすべて「マイネル軍団」の関連馬であった。
夏の福島で気を吐いた「柴田大×マイネル軍団」のタッグ。今回の福島開催に限らずとも柴田大騎手は「マイネル軍団」の主戦を任されることが多く、まさに蜜月の関係と言えるだろう。競馬ファンの間でも今やお馴染みといえる両者のタッグだが、この結びつきのきっかけは14年前に遡る。
2006年から2008年にかけて柴田大騎手は大きな低迷期を迎えており、この3年間で平地競走での勝ち鞍はゼロであった。一時は引退もよぎったと後に本人も語っているが、そのどん底から這い上がるきっかけとなったのが「マイネル軍団」の総帥である故・岡田繁幸さんとの出会いであった。
柴田大騎手は2008年からマイネル軍団の騎乗依頼を受けるようになると、次第に騎乗機会が増加。徐々に勝負勘を取り戻していった柴田大騎手は2011年の中山グランドJ(G1)でマイネルネオスに騎乗してG1初制覇。更に2013年にはマイネルホウオウでNHKマイルC(G1)を勝利し、平地G1初制覇を遂げた。
まさに「マイネル軍団」との出会いによって騎手人生が一転したといえる柴田大騎手。故岡田総帥へ感じている恩義は計り知れないものがあるだろう。
まさに柴田大騎手にとっては“大恩人”であるが、昨年3月にこの世を去ってしまった。この際に柴田大騎手は「ダービー(を勝ちたい)と言っていたので、それを果たせなかったのが本当に悔やまれます」とコメントを残している。「恩返し」を果たすためにも、来年こそは「マイネル軍団」の馬でクラシックロードを歩みたいという気持ちは強いだろう。
また、柴田大騎手が今夏の福島開催で奮闘するもう1つの理由として、弟の柴田末崎騎手の存在が挙げられる。柴田未騎手は柴田大騎手と共にJRA初の双子ジョッキーとして96年にデビュー。11年に柴田未騎手は現役を引退したものの、先述のG1レースでの柴田大騎手の活躍に刺激を受け、再び騎手試験に挑戦。14年に現役復帰を果たした。
しかしその後も目立った活躍はできず、先月末をもって騎手生活に幕を下ろすことに。柴田大騎手にとっても弟の現役引退は大きな出来事であるはずで、これを機に弟の分まで活躍しようと奮起したことが、夏の福島での大活躍に繋がっている面もあるはずだ。
亡き恩師やターフを去った弟の果たせなかったダービー制覇という大きな夢を背負って戦う柴田大騎手。今月は特に新馬戦での活躍が目立っており、既に「マイネル軍団」関連の3頭の若駒を勝利に導いている。この調子で2歳戦での勝利を重ねていけば、「マイネル軍団」の馬と共にクラシックロードを歩むチャンスを掴めるかもしれない。夏の福島での大活躍をきっかけに更なる飛躍をみせられるか、柴田大騎手の今後に注目したい。
(文=エビせんべい佐藤)
<著者プロフィール>
98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。
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