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5歳で早くも”引退勧告”を受けたノンコノユメが切ない

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ノンコノユメ

 25日、元JRAのG1馬で大井に移籍したノンコノユメ(セン10歳、大井・荒山勝徳厩舎)が引退することがわかった。今回は長きにわたる競走生活の中の1ページを改めて紐解きたい。

 2017年2月19日に行なわれたフェブラリーS(G1)。ノンコノユメ(セン5歳、美浦・加藤征弘厩舎)は4番人気ながら7着に敗れたが、レース後のC.ルメール騎手のコメントは個人的には結構ショッキングなものだった。

「以前より瞬発力が落ちている。前は瞬発力が良かったが、今は同じ脚色になってしまう。ベストポジションだったけど……」

 このコメントは勝ちに行った結果、力及ばず敗れたルメール騎手の切実な言葉で、我々のような馬券を買う側の人間からすれば、「馬は頑張っている」などと抽象的なコメントをされるよりも余程参考になる。

 つまり3歳5月から約2年間、昨年のチャンピオンズカップを除いて、ずっと騎乗してきたルメール騎手がそう「感じた」ということは、ノンコノユメに以前のような力がないということなのだろう。これは競走馬にとって”引退勧告”一歩手前の手厳しい内容でもある。

5歳で現役の窮地を迎えていたノンコノユメ

 

 無論、現状のコンディション面の問題はあるのかもしれない。だが、筆者がショックだったのは、昨秋から「セン馬」になったノンコノユメに対して「超一流の馬の専門家」からこういった意見が出たことだ。

 一般的に(あくまで競馬の世界の一般だが)セン馬になると「気性面の良化」が見込めると同時に「競走馬としての寿命が延びる」といわれている。

 前者の「気性面の良化」に関しては、ノンコノユメにも如実な効果があったようだ。昨年のチャンピオンズCの共同会見で加藤調教師は「非常に穏やかになっており、調整はしやすい」と話しており、一定の効果を認めている。

 だが、後者「競走馬としての寿命が延びる」つまりは年齢的な肉体の衰えを減少させるという効果は、フェブラリーSのルメール騎手の発言を聞く限りみられていないということになる。それどころかノンコノユメは去勢前よりも去勢後の方が、明らかに成績が下降している。ワンパンチ足りなかった馬が、ツーパンチ足りなくなっている感じだ。

 述べるまでもなく去勢手術を行いセン馬になるということは、今後どれだけ活躍しても種牡馬になれないという明確なリスクがある。ましてやノンコノユメはG1馬。そのリスクは決して安いものではなかった。だからこそ、成功を得てほしいというのが正直な感想だ。だが、ノンコノユメは逆に不振に喘いでいる。

 そもそも、去勢することによって「気性面の良化」はともかく生物学的に「競走馬としての寿命」は延びるのだろうか。

 あくまで統計的な話だが、例えば飼い猫や犬の場合、去勢手術をすれば人間換算で10年ほどの寿命が伸びるらしい。だが、それは前立腺の病気やヘルニアの予防など、肉体的な衰えの防止というよりは、命に係わる病気など危機的状況の回避の意味合いが大きいようだ。

 また去勢手術の効果を医学的な見地からみれば、女性ホルモンの活性化が大きな特徴といえる。

 人間であれば、清時代の中国では国王などに使える官吏が去勢する「宦官」という制度があった。浅田次郎の時代小説『蒼穹の昴』などが有名だが、彼らは一様に女性のような甲高い声を発したという。これも去勢による女性ホルモンの発達が影響しているようだ。 

 では競走馬の場合、女性ホルモンが活性化することでどういった作用があるのかと述べると、まず靭帯が柔らかくなるようだ。JRA競走馬総合研究所の高橋敏之主任によれば、女性ホルモンには靭帯や腱を緩める働きがあるらしい。

 実際に競走馬にとって「不治の病」といわれる屈腱炎は、牝馬よりも牡馬の方が1.5倍も発症率が高いという。したがって去勢手術を行い、女性ホルモンが活性化し「牝馬に近づく」ことで筋肉が柔らかくなり、故障のリスクが減少する。それがセン馬の統計的な競走寿命の増加の一因となっている可能性は高い。

 だが、その一方でケルソというアメリカの歴史的な名馬を御存じだろうか。
 
 ケルソは3歳から7歳まで、西暦1960年から1964年まで5年連続で年度代表馬に選出されたアメリカ競馬でも屈指の最強馬である。63戦39勝、51度の連対を誇るこの”モンスター”は、やはりセン馬だった。

 つまり、ただセン馬が「故障するリスクが少ない」というだけでは、ケルソは到底説明できない存在である。

 それもケルソは26歳で死去。これは先日世を去ったミホノブルボンの28歳、ホワイトマズルの27歳よりも短い馬生だ。即ちセン馬になることで「生物学的な寿命」に大きな影響はないというサンプルになる。それと同時に「競走馬としての寿命」には大きく作用したという見方ができる。

 また、ノンコノユメが出走したフェブラリーSの前日に行なわれたダイヤモンドS(G3)は、高齢のセン馬が4頭も出走した珍しいレースだった。

 その現象について東京サラブレッドクラブの公式コラムでは、セン馬に関して「去勢によるホルモン変化で気性が温厚化し筋肉の柔軟性が増し、競走馬としての能力を長く保つ効果ありと広く認められている」と見解を示している。

 無論、これもあくまで統計的な話ではあるが、香港やオーストラリアといった国々に比べ、セン馬についての研究や認識が遅れている日本だけに、まだまだ我々が知らないような独特の作用や傾向がある可能性も残されていることだろう。

 いずれにせよ、ノンコノユメがこのまま終わるのは何だか切ないものがある。今回、人気を裏切ってしまったことで、今後はさらに厳しい戦いが待っているだろうが、なんとかもう一花咲かせられないものかと個人的には思っている。

“等価交換”ではないが、彼は勝つために大事なものを失っているのだから。

(文=浅井宗次郎)

<著者プロフィール>
 1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)

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