
G1出走をめぐる陣営の苦悩…「斤量62キロ」強行も辞さない修羅の道

2日、中山競馬場で行われたスプリンターズS(G1)を皮切りに、今年も秋から暮れにかけてのG1戦線が幕を開けた。
今後はG1レース以外の重賞もトライアルや前哨戦の位置付けで行われるものが多くなり、ビッグタイトルをかけた争いが競馬界の話題の中心となる。
G1競走の勝利は、どの陣営にとっても目標のひとつ。その想いの強さを垣間見る出来事が今週もあった。
5日に大井競馬場で行われた地方交流重賞の東京盃(G2)。11月に盛岡競馬場で行われるJBCスプリント(G1)の優先出走権もかかる一戦は、ドバイからの帰国初戦となったレッドルゼルが1番人気に応えて勝利を掴んだ。
手綱を取った川田将雅騎手も、「目指すべきところに無事に向かって行けることが一番」と語ったように、陣営が見据えているのはJBCスプリントの2連覇。まずは大目標に向けた始動戦を無事に乗り越え、安堵の気持ちを口にしている。
その一方で、今年は8頭立てという少頭数のレースになったにもかかわらず、東京盃への出走が叶わなかったのが、リュウノユキナの陣営である。
同馬は昨年の東京盃で2着に入り、続くJBCスプリントでも5着に入った実力馬だが、最後の勝利は昨年8月のクラスターカップ(G3)までさかのぼる。
地方交流競走の出走馬決定においては「過去1年間の収得賞金」が重要な要素となるため、この1年のうちに重賞で4度の2着を記録したリュウノユキナよりも、条件戦で複数回の勝利を挙げた上がり馬の方が補欠の順位が高くなる、という現象も起こり得るのだ。
このため、東京盃では“補欠5番手”という扱いになり、中央馬の出走枠5頭の中に食い込むことができず。しかし、フタを開けてみると地方の選定馬は6頭中3頭しか出走しなかったため、レースは8頭での戦いに。これには「なんとかならないものか……」という声も各所で聞かれた。
「斤量62キロ」強行も辞さない修羅の道
この結果を受けたリュウノユキナ陣営は、8日に阪神のダート1200mで行われる大阪スポーツ杯(OP)に登録を行った。
ただし、このレースは別定戦とあって、重賞で着実に賞金を稼いできた同馬の負担重量は「62キロ」という過酷な斤量になってしまった。結局この条件での出走は見送り、8月のクラスターCからぶっつけで大舞台に臨むことになりそうだ。
ところが、ここでも立ちはだかるのが「賞金」の問題である。
JBCスプリントでは中央馬の出走枠も7頭に拡大され、「通算収得賞金」+「過去1年間の収得賞金及び、過去2年間のG1競走の収得賞金」の上位順に出場権が割り振られるものの、ダートのスプリント路線には「通算収得賞金」だけで1億2000万円を超えるような馬がゴロゴロいる。
東京盃を勝利したレッドルゼルをはじめ、テイエムサウスダンにダンシングプリンス、サクセスエナジーまでは当確のライン。以下は大混戦となるが、次いでスマートダンディー、その次の6番手がリュウノユキナなのだ。
どうにか東京盃で賞金を加算したかったがそれも叶わず、すがる思いで大阪スポーツ杯にも手を挙げかけたが、本番1カ月前に62キロを背負って戦うというのはさすがに厳しい。陣営としては苦渋の決断の末、吉報を待つことを選んだ。
そんなリュウノユキナを脅かすのが、10日の盛岡競馬場で行われる南部杯(G1)に参戦するシャマルとヘリオスの2頭。ともにJBCスプリントの出走を目指しており、シャマルは2着以内で、ヘリオスは1着ならリュウノユキナを賞金面で上回ることができる。
どちらか一方であればリュウノユキナは賞金順の7番手で留まり、JBCスプリント出走の可能性は残るものの、ここに来て新たな刺客も……。南部杯に出走するアルクトスの馬主・山口功一郎氏が自身のTwitterで「状態次第でJBCスプリントに向かう」とコメントしたのだ。
アルクトスは現時点の通算収得賞金が1億4000万円を超えているため、状態が整って出走となれば、7番手の馬が出走枠から押し出されることになる。ボーダーラインにいるリュウノユキナ陣営としては、胸中穏やかではないだろう。
出たいレースがあっても、用意された出走枠は狭き門。それでいて実績があればあるほど、レースの選択肢は狭くなる。 JRAのダート短距離馬にとって、G1という舞台は想像以上に険しく遠い道の先にあることがよく分かる出来事だった。
今回はかなり極端な例ではあるが、ここから先はG1という晴れ舞台にかける想いから、各陣営が賞金というボーダーを見ながらレースを選択するケースも増えてくる。
ここが叩きなのか、メイチなのか……。馬券作戦を立てる上でも、陣営の“本気度”は重要なファクターとなるだけに、インタビュー映像や報じられるコメントは注意深く見て行く必要がありそうだ。
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