クロフネとイーグルカフェの「天国と地獄」、チャンピオンズCの前身を制した馬の明暗
早いものでもう12月になるが、今週末は秋のダート王決定戦、チャンピオンズC(G1)が開催される。ご存じの通り、2000年に「ジャパンCと並ぶダートの国際競走を開催しよう」という趣旨のもと創設されたジャパンCダートが前身となるレースである。
だが、さまざまな事情が絡み合い、当初はジャパンCの週に東京ダート2100mという条件で開催されていたが、ダートの本場アメリカのブリーダーズCの開催の兼ね合いで1週繰り下げて阪神のダート1800mに条件変更、さらにアメリカの競馬場はすべて左回りコースであることが考慮されて、阪神から中京へ開催場が変更されるなど、わずか22年の間でこれほど開催条件が変わったG1はほかにないかもしれない。
そのジャパンCダート時代に優勝した名馬の1頭に“白毛のアイドル”ソダシの父としても有名なクロフネがいる。中央競馬の歴史の中で史上3頭目となる「芝・ダートのG1を勝った馬」としても名を馳せる馬だが、クロフネが快挙を達成した翌年、クロフネをなぞるようにジャパンCダートを勝って4頭目の芝・ダートG1制覇を成し遂げたのがイーグルカフェだ。
クロフネとイーグルカフェの「天国と地獄」
どちらもNHKマイルC(G1)とジャパンCダートを勝って両G1制覇を達成したわけだが、その過程はいわば「天国と地獄」のような違いがある。今回はこの両馬の軌跡をなぞってみたい。
イーグルカフェはクロフネの1つ上の世代であり、先にNHKマイルCを制したのはこちら。デビュー戦、2戦目の新馬戦(当時は同じ開催中であれば勝つまで何度でも新馬戦に出走できた)はダートを使われ3着、2着と勝ち切れなかったが、年末の3戦目に芝を使うとあっさり勝ち上がった。
そのまま明け3歳の初戦に京成杯(G3)を2着に好走、さらに翌月の共同通信杯(G3)で重賞制覇を飾る。次走のニュージーランドT4歳S(現ニュージーランドT・G2)で初の着外に沈んだものの、NHKマイルCでは2番人気に推され、ハナ差の辛勝ながら初のG1制覇を成し遂げた。このとき7着に入っていたのが、後にやはり芝・ダートG1制覇を成し遂げるアグネスデジタルだった。
イーグルカフェがNHKマイルCを制覇した年の10月にデビューしたのがクロフネだ。最初の新馬戦は惜しい2着だったが、中1週で臨んだ新馬戦を勝利。条件特別を連勝して初の重賞となるラジオたんぱ杯3歳S(G3、現ホープフルS・G1)に出走。この時勝ったのがダイワスカーレットの父としても有名なアグネスタキオン、2着が後のダービー馬ジャングルポケットで、その3着に入ってみせた。
ここから間隔を空けて春の復帰戦に毎日杯(G3)を選択し、堂々の勝利を収めると単勝1.2倍の圧倒的1番人気に推されNHKマイルCでG1制覇を成し遂げた。
一方、イーグルカフェはNHKマイルCのあと、3歳馬ながら安田記念(G1)に挑戦して大敗を喫する。クロフネのデビューと前後して秋は毎日王冠(G2)から始動。4着と掲示板を確保したことで、続く天皇賞・秋(G1)にも出走し、ここでも4着と煮え切らない結果を残したせいか、なんと次走はジャパンC(G1)を選択。さすがに距離の限界を見せてブービー負けしている。
クロフネが休養している頃、3歳の安田記念から負け続きの泥沼を脱出すべく、イーグルカフェはダートに転向。4歳初戦に根岸S(G3)を選択したが大敗。翌月のフェブラリーS(G1)にも出走したが結果を残せず、再度芝に戻す契機としてドバイ遠征を敢行するも、これも完敗しG1馬らしからぬ泥沼の連敗が続いていた。
対するクロフネはNHKマイルCを勝ったあと、いわゆる「松国ローテ」として有名な日本ダービー(G1)出走に踏み切る。この年、無敗で皐月賞(G1)を制したアグネスタキオンが屈腱炎発症で無念の引退となり、クロフネ対皐月賞組という図式の中2番人気に推されるが、重馬場も響いたか距離の限界を見せて5着。そのまま秋に向けて休養に入った。
イーグルカフェはというと帰国初戦のエプソムC(G3)、さらに函館記念(G3)まで使ってともに敗退。秋は京成杯AH(G3)を初戦に選び、ようやく3着に入った。この後、毎日王冠で5着、再度ダートへ転向して武蔵野S(G3)で2着とようやく光が見えてきたものの、マイルCS(G1)では10着に大敗。まだまだ連敗街道は続いていた。
クロフネの秋は菊花賞トライアルの神戸新聞杯(G2・当時2000m)から始動、しかし、陣営の思惑をよそに3着に敗れてしまう。ここから天皇賞・秋へ行くプランだったが、外国産馬の出走枠を得られず、急遽ダートに転向して武蔵野Sに出走。ここで2着に入ったのが上記のイーグルカフェだったが、9馬身差をつける圧勝だった。
この勢いをかって第2回のジャパンCダートに出走。単勝1.7倍の圧倒的1番人気に推され、レースでも前年の覇者ウイングアローを相手にせず7馬身差をつけ、前走に続く圧勝劇となった。翌年は海外遠征も視野に入っていたが、屈腱炎を発症して無念の引退に追い込まれる。
イーグルカフェはマイルCSの後休養に入り、5歳初戦に中山金杯(G3)を選択するが5着。さらにこの後芝もダートも使われる迷走ぶりがたたったか春シーズンは7戦して全敗。2年2カ月ぶりの勝利は七夕賞(G3)でもたらされた。だが、次の札幌記念(G2)でやはり敗れてしまい、そのままフランスへ海外遠征。G2戦で3着と好走し、帰国初戦に選んだのが第3回のジャパンCダートだった。
5番人気と人気はそれほどではなかったが、名手L.デットーリ騎手を背に勝利を挙げ、20連敗していた馬が2つ目のG1タイトルを手にした。この時の3着がやはりこの後芝・ダートのG1制覇を成し遂げるアドマイヤドンだった。
この後、有馬記念(G1)に出走するがしんがり負け。翌年フェブラリーSから始動して3着、アンタレスS(G3)で2着とダートで見せ場を作るが、結局6歳シーズン、7歳シーズンも勝てず15連敗の後引退した。
どちらも種牡馬入りしているが、ここでも対照的な成績を残すこととなる。クロフネはフサイチリシャール(朝日杯FS)、スリープレスナイト(スプリンターズS)、カレンチャン(高松宮記念ほか)、ホエールキャプチャ(ヴィクトリアマイル)、クラリティスカイ(NHKマイルC)、アエロリット(NHKマイルC)、ソダシ(桜花賞ほか)と7頭のG1ホースを送り出したが、イーグルカフェは重賞勝ち馬すら生み出すことができず、種牡馬生活を終えている。
このようにNHKマイルCとジャパンCダートという同じレースをすれ違うように制し、芝・ダートの両G1を制した馬として名前を残すことにはなったが、不遇な生活を送ったイーグルカフェに対して、一流馬としてまっとうしたクロフネは対照的な存在となった。
ジャパンCダートを巡って、こんなドラマが裏にあったことを知っておくのも一興ではなかろうか。
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