「伝説の新馬戦」でネオユニヴァースとスペシャルウィークの産駒が激突!3着馬は現役最強牝馬、遅れてきたダンスインザダーク産駒は菊で大輪【競馬クロニクル 第59回】
日本ダービー(G1)が終わってひと区切りついて……という心持を味わっていた時代も今や昔。2012年からはダービーの翌週から2歳戦がスタートするようになり、厩舎関係者もまったく息つく暇がない、「ダービーからダービーへ」というシームレスな競馬の連環が出来上がっている。
クラシックを狙うような良血馬、高いポテンシャルを示す素質馬のデビュー時期はどんどん早くなり、6月の東京・京都開催や、夏のローカル開催のうちにまず1勝を挙げたら、牧場へ戻して再度成長を促すという育成パターンも当たり前になってきた。
のちのG1馬3頭が一堂に会した伝説の新馬戦
さて、あらためて年々注目度が高くなる新馬戦だが、その中においても、特に『伝説の新馬戦』と呼ばれるレースがあることは、ベテランのファンならば耳にしたことがあるだろう。それは2008年10月26日、京都の芝1800m(雨・良)を舞台に行われたものだ。
上位人気の馬を順に挙げていく。
1番人気 ブエナビスタ(2.3倍)
2番人気 リーチザクラウン(2.7倍)
3番人気 アンライバルド(7.6倍)
ブエナビスタ(牝、栗東・松田博資厩舎)は、父がG1レース4勝のスペシャルウィーク、母が阪神3歳牝馬S(G1、現・阪神ジュベナイルF)を制したビワハイジで、半兄にアドマイヤジャパン(父サンデーサイレンス)、アドマイヤオーラ(父アグネスタキオン)という重賞勝ち馬を持つ良血馬である。リーチザクラウン(牡、栗東・橋口弘次郎厩舎)も同じスペシャルウィーク産駒で、オーナーは父の所有者でもあった臼田浩義氏ということでも注目を浴びた。アンライバルド(牡、栗東・友道康夫厩舎)は、父が春季クラシック二冠のネオユニヴァースで、母はバレークイーン。つまり、1996年の日本ダービーをデビュー3戦目にして制して“和製ラムタラ”と呼ばれたフサイチコンコルド(父Caerleon)の半弟という良血だった。
11頭立てのレースはアンライバルドが先行し、リーチザクラウンが7番手、ブエナビスタは後方の9番手を進む。2歳の中距離戦で想像を超えるようなスローペースになるのはよくあることだが、このレースもご多聞に漏れず1000mの通過ラップが64秒5と極端に遅い流れになり、中団以降に位置を取った馬にはかなりの不利となった。結果、前目を進んだアンライバルドが早めに抜け出し先頭に躍り出て勝負を決め、リーチザクラウンとブエナビスタも終いは伸びたものの、それぞれ2、3着に敗れたのだった。
アンライバルドはその後、京都2歳S(当時OP)の3着を経て、若駒S(当時OP)、スプリングS(G2)を制すると、3連勝で皐月賞(G1)を戴冠。友道調教師にとって初のクラシック制覇となった。
ブエナビスタのその後の活躍は“牝馬の時代”の先駆として、特別に華やかなものとなった。母に続いて阪神JFを制すると、翌年には桜花賞(G1)、オークス(G1)と牝馬クラシック二冠を達成。それだけではなく、2010年にはヴィクトリアマイル(G1)と天皇賞・秋(G1)で優勝し、2011年には前年に1位入線・2着降着となったジャパンC(G1)でリベンジを果たし、生涯成績でG1レース6勝を挙げる偉大な名牝となった。
リーチザクラウンは、きさらぎ賞(G3)を制し、日本ダービーで2着に食い込んだが、その後の勝ち鞍は2010年のマイラーズC(G2)のみで、G1タイトルには手が届かなかった。
遅れてきた大物は菊花賞で大輪の花を咲かせた
3着までの説明は以上となるが、この新馬戦の面白みは、オッズ49.7倍の8番人気で出走して4着と、地味な結果に終わった馬までのちに大出世するところにもある。その馬は、父に菊花賞馬ダンスインザダークを持つスリーロールス(牡、栗東・武宏平厩舎)である。
スリーロールスが初勝利を挙げたのは3戦目のこと。その後も苦戦を強いられて4連敗を喫し、3歳5月にようやく500万下(現・1勝クラス)を勝ち、さらに5着をはさんで、9月の1000万下(現・2勝クラス)の野分特別で3勝目を挙げた。そして、収得賞金順で7分の6の抽選をくぐり抜けて菊花賞で初のG1出走を果たした遅咲きのステイヤーは、ターフビジョンに驚いて大きく斜行し、フォゲッタブル、リーチザクラウンに先を譲るピンチもあったが、ラスト100mで勝負根性を見せてフォゲッタブルと馬体を並べてゴール。写真判定の末、ハナ差で勝利を手繰り寄せていた。オッズ19.2倍、単勝8番人気での勝利だった。
同じ新馬戦でデビューし、そのうち3頭がクラシックホースとなったのは、これが史上初のこと。加えて日本ダービーで2着に入ったリーチザクラウンまで名を連ねていたのだから、より貴重さは増そうというもの。『伝説の新馬戦』と呼ばれるのも納得のレアケース(レース?)である。
※所属厩舎は当時のもの。
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