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【安田記念】セリフォス、シュネルマイスターですら届かなかった頂点!意外と知られていない3歳馬の快挙…名トレーナーが残した偉大な爪痕【競馬クロニクル 第58回】

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 安田記念(G1、東京・芝1600m)は、春のマイル王決定戦のイメージが強く、実際そうなのだけれど、競走条件を見ると「3歳以上、オープン」となっていて、古馬のみのものではないことが分かる。とはいえ3歳の春といえば、まだ古馬とは実力差があって勝負になり辛いと考えるのが普通だろう。

 しかし、そうした常識をひっくり返した馬がいる。2011年に優勝したリアルインパクト(父ディープインパクト)である。

 この年の安田記念は、前年に牝馬三冠を制し、前走のヴィクトリアマイル(G1、東京・芝1600m)で強豪ブエナビスタを下したアパパネが参戦。単勝オッズ2.2倍の1番人気に推された。前年の秋にマイルCS(G1、京都・芝1600m)でクビ差の2着に食い込んだダノンヨーヨー、3歳時に日本ダービー(G1、東京・芝2400m)で2着に入り、前年の安田記念で勝ち馬から0秒1差の3着に入った実績を持つスマイルジャックらが出走。レースは概ね、アパパネの“一強ムード”で進んでいた。

 一方のリアルインパクトは、2歳時に京王杯2歳S(G2、東京・芝1400m)、朝日杯フューチュリティS(G1、中山・芝1600m当時)で連続2着して高い評価を獲得。約4カ月の休養をはさんだ3歳初戦のニュージーランドT(G2、阪神・芝1600m当時)は0秒5差の11着に大敗したものの、続くNHKマイルC(G1、東京・芝1600m)では勝ったグランプリボスから0秒3差の3着に好走した。

 ここでリアルインパクト陣営は一つの決断を迫られる。収得賞金では日本ダービーへの出走も可能な額に達していたが、ここまで1400 mを2戦、1600 m戦を3戦と、マイル路線を歩ませていたことからも分かるように、2400mという距離に対する適性は未知の部分が大きかった。安田記念へ進めば古馬との争いになるし、日本ダービーに向かえば距離に対する不安が残る。

 果たして陣営は、距離適性はもちろんのこと、古馬に対して斤量が4kgも少ない利や、日本ダービーより1週間長く調整を積める点を考慮して、安田記念への参戦を決めた。

 この決断が春のマイル王決定戦の歴史に大きな爪痕を残すことになる。

 単勝オッズ29.3倍の9番人気でレースを迎えたリアルインパクトは、絶好のスタートを切ると積極的に先行集団に取り付き、3番手を追走。アパパネは中団の8番手、スマイルジャックは後方の14~15番手をそれぞれ進み、馬群は一団となって直線へ。リアルインパクトはコーナーを回っても手綱は抑えられたままで、残り400mのハロン棒付近でようやくゴーサインを受けてスパートを開始。先行したぶん末脚の鋭さには欠けたが、しぶとい二の脚を使って粘りに粘ると、追い込んできた同厩舎のストロングリターン、スマイルジャックの追撃を封じ、先頭を守り切ってゴール。ついに念願のG1初制覇を古馬との戦いで達成したのだった。

 本レースでの3歳馬の勝利は第2回(1952年)のスウヰイスー以来59年ぶりと紹介されていたが、誤りとまでは言えないものの、説明が必要な背景がある。

 安田記念の出走年齢に関するレギュレーションを振り返ると、1951年に「4歳以上」(現在の年齢表記で「3歳以上」)のハンデ戦として創設され、グレード制が導入された1984年に「5歳以上」(現在の年齢表記での「4歳以上」)の定量戦となり、1996年には馬齢が「4歳以上」(同前)へと戻されている。

 そして3歳馬のイツセイ、スウヰイスーが勝った第1回、第2回の当時は、まだ日本の馬産が太平洋戦争で負った荒廃から立ち直っていく最中で、馬資源が枯渇気味だった時代のこと。軽種馬に関する年次別生産頭数の統計資料が残されている1955年は2615頭だったが、バブル景気で需要が急増した1990年代には1万2000頭台に達しており(過去最多の1992年は1万2874頭)、そのほか海外のセリで購買、輸入される高額のサラブレッドも増加。バブルの崩壊にともなって生産頭数は年間7000頭ぐらいにまで減少したとはいえ、1950年代と2010年代では、まったく比較の対象にならないほどの格差があった。この背景を知ると、3歳のリアルインパクトが安田記念を制したという偉業の重みがお分かりいただけるだろう。

 ちなみに『安田記念』の成立に関して少し触れておくと、創設当時はまだ戦後体制における緊急措置として設けられた「国営競馬」の時代。日本競馬会(日本中央競馬会の前身)の理事長を務め、東京優駿(日本ダービー)の創設などに尽力した安田伊左衛門の姓を冠した『安田賞』の名称で創設。そして、1954年に発足した日本中央競馬会で初代理事長を務めた安田が1958年に亡くなったのを機に、その年から『安田記念』と改称して施行されるようになったレースである。

 話を2011年まで戻すと、特記しておきたいのは、リアルインパクトが安田記念を制したこの頃が、いまではトップトレーナーとして鳴らす堀宣行が大ブレイクした時期と重なるということだ。

名トレーナーが残した偉大な爪痕

 1991年にJRA競馬学校厩務員課程を卒業して、8月に諏訪富三厩舎(美浦)所属の厩務員としてキャリアをスタートさせた堀は、同年の11月、開業したばかりの二ノ宮敬宇厩舎(美浦)へ移って調教助手となった。この時期、二ノ宮厩舎はエルコンドルパサーが在籍した全盛期で、その仕事ぶりをつぶさに見るという貴重な経験を積んでいる。

 その後、2002年に調教師免許を取得。翌年に厩舎を開業し、2006年の函館スプリントS(G3、ビーナスライン)で重賞初勝利を挙げた。そして2010年には高松宮記念(キンシャサノキセキ)、天皇賞・春(ジャガーメイル)とG1レースを2勝するとともに優秀調教師賞(関東)で初めて1位となる。2011年にキンシャサノキセキが高松宮記念を連覇し、今回取り上げたリアルインパクトでの安田記念制覇を達成。一気にトップステーブルの一角に躍り出た。

 堀厩舎は高い勝率、連対率、3着内率を叩き出すことが大きな特徴。それは、半端な状態でレースを使わず、出走数を絞り込むことによって実現されるもので、休養先の育成牧場とも密に連絡を取り合い、細やかなケアをオーダーすることで知られている。

 JRA賞の最多勝利調教師、最高勝率調教師の二冠に輝いた2015年の成績を見ると、235という極めて少ない出走回数のなか、〔54・26・9・146〕という成績を残し、勝率.230、連対率.340、3着内率.379という高数値を記録。通常、勝率が1割を超えるとリーディングトレーナーでベスト10入りできるのだが、堀厩舎は余裕で2割をオーバーしているのだから驚く。ちなみに2011年にも最高勝率調教師を受賞し、2016年には最多賞金獲得調教師、最高勝率調教師の二冠を占めている。

 2015年にドゥラメンテで皐月賞、日本ダービーを制したほか、タスティエーラ(日本ダービー)、モーリス(天皇賞・秋、安田記念、マイルCSのほか、香港G1の香港マイル、チャンピオンズマイル、香港C)、ストロングリターン(安田記念)、サトノクラウン(宝塚記念、香港ヴァーズ)、カフェファラオ(フェブラリーS・2連覇)、ネオリアリズム(クイーンエリザベス2世C)など、次々にG1ホースを輩出しているのはご存じのとおりだ。

 リアルインパクトはその後、国内のG1レースでは苦戦が続いたが、7歳となった2015年に豪州へ遠征。初戦のジョージライダーS(G1、ローズヒルガーデンズ・芝1500m)に優勝し、実に約4年ぶりのG1制覇を飾ると、続くドンカスターマイル(G1、ランドウイック・芝1600m)でも2着に健闘した。そしてこの年いっぱいで現役を引退し、翌春にスタッドインすると、一時はシャトル種牡馬としてオーストラリアでも繋養された。産駒にはNHKマイルCを制したラウダシオンがいるほか、豪州でもグループレースの勝ち馬を2頭送り出した。

 2011年の安田記念は、現代の鬼才、堀宣行のタレントが着火し、観る者にリアルな衝撃を与えたレースとして筆者の記憶のなかに生き続けている。
(文中敬称略)

三好達彦

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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