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【天皇賞・春】武豊、横山典弘を敵に回して豪脚一閃!マヤノトップガン&田原成貴の試行錯誤が三強対決に断【競馬クロニクル 第53回】

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ファンの心を震わせるような1997年の天皇賞・春

 結果として1着と2着の差は開いたが、レース前からの盛り上がりを含めて、“三強”の激突と喧伝された1997年の天皇賞・春(G1)は、ファンの心を震わせるような名レースとなった。

 “三強”とは、前年の本レース覇者であり、有馬記念(G1)も制して年度代表馬に輝いたサクラローレル。3歳時に菊花賞(G1)、有馬記念を連勝して年度代表馬となったマヤノトップガン。当時はG1未勝利ながら、前年の有馬記念でサクラローレルの2着に食い込み、前哨戦の大阪杯(G2・当時)を快勝して臨んできた遅咲きの大器、マーベラスサンデー。この3頭が他を圧する人気を集めて、どの馬が大舞台でテッペンを取るか、日に日にファンのヴォルテージは上がっていった。

 最初にお断りしておきたいのだが、筆者は編集担当としてこの年の天皇賞・春を取材し、マヤノトップガンをターゲットにしていた。よって、本稿はトップガン陣営寄りの視線がいくらか強めになることをご承知いただきたい。

 3歳の秋を最高のパフォーマンスで締め括ったマヤノトップガンは、翌1996年、阪神大賞典(G2)から始動。ひとつ年上のナリタブライアンと激突し、歴史に残る名勝負を見せる。2周目の第3コーナー付近から揃って上がって行った2頭は、後続を置き去りにして約500mにわたる“マッチレース”を展開。そのまま馬体を併せてゴールしたが、ナリタブライアンがわずかにアタマ差先んじていた。(ちなみにゴール時、3着のルイボスゴールドはマヤノトップガンから9馬身も離されていた)。詳細は別項に譲るが、“マッチレース”と呼ばれるレースとしては、1977年の有馬記念におけるテンポイントとトウショウボーイの激闘と並んで称されることが多い。

 しかし次いで出走したトップガンは、最終コーナーを先頭で回る攻めのレースをしたが、直線で脚が止まって初の直接対決となるサクラローレルの5着に敗れた。

 次走の宝塚記念(G1)は、やや手薄になったメンバー構成のなかで格の違いを見せて圧勝。3つ目のG1タイトルを手に入れた。しかしその後は歯がゆいレースが続き、始動戦のオールカマー(G2)でサクラローレルの4着に敗れると、天皇賞・秋(G1)こそバルブガムフェローの半馬身差2着にまで追い込んだが(サクラローレルはクビ差の3着)、有馬記念は勝ったサクラローレルから1秒5も離された7着に大敗。勝利を挙げられなかったばかりか、同じ相手に2度も煮え湯を飲まされる屈辱を味わった。

 武豊が4度乗った以外は、ずっと手綱を取り続けていた田原成貴は、いまの乗り方では限界があると感じていた。何度イメージを膨らませても、サクラローレルより、またどの馬より先にゴールを駆け抜けるシーンが思い浮かばなかった。このままではサクラローレルに勝てないと、苦悩を深めていた。

 しかし、ただ悩んだだけで終わらないのが、競馬界きっての鬼才たる所以。1997年の初戦として出走した阪神大賞典で、ゆっくりとゲートを出たマヤノトップガンを急かすことなく長手綱で行く気に任せ、8頭立ての8番手、最後方から進むという策に出た。スタンドのどよめきをよそに、トップガンと田原は最後方を気持ちよさそうに進んでいた。そして2周目の第3コーナー手前から、トップガンは自らの“行く気”に任せて2番手までポジションを上げて直線へ。そして“馬なり”でビッグシンボルを交わして先頭に躍り出ると、ハミをかけ直すゴーサインを受けるとぐんぐんと後続を突き放し、田原が抜いたステッキは使われないまま悠々とゴール。悩み抜いた末に導き出したプランに沿って、田原は相棒の“別の顔”を引き出すという、けっして簡単とはいえないチャレンジを完遂してリベンジのステージへと向かった。

三強対決を制したのは…13万人の前で披露した大逆転劇

 4月27日。天皇賞・春。天候は快晴、馬場状態はパンパンの「良」。京都競馬場には約13万人ものファンが詰めかけ、頂上決戦にふさわしい舞台設定ができ上がっていた。

 単勝1番人気は、前年の有馬記念以来のレースとなるサクラローレルで、オッズは2.1倍。マヤノトップガンが3.7倍、マーベラスサンデーが4.1倍でそれぞれ2番人気と3番人気に推された。他の出走馬はいずれもオッズが10倍を超えており、レースは明確に“三強対決”の図式が描き出されていた。

 逃げを打ったのは、阪神大賞典でマヤノトップガンの2着に粘ったビッグシンボル。サクラローレルは馬群の中団を進み、マーベラスサンデーはそれを目前に見ながらマークするようなポジションを取る。そしてマヤノトップガンは前走と同様に後方から進んだものの、やや行きたがる素振りを見せたため、鞍上の田原はインに進路を取り、前に馬を置いて流れに乗せた。

 ビッグシンボルに競りかける馬がいなかったためにレースは1000mの通過ラップが62秒0のスローペースになり、定まった隊列を崩す動きが出たのは2周目の向正面のこと。遅い流れに我慢しきれなくなったサクラローレルが馬群の外をするすると上がっていき、ビッグシンボルの斜め後ろまでポジションを上げる。すると、サクラローレルにつられるようにマーベラスサンデーも一気に上昇。一方、インを進んでいたマヤノトップガンは外へと進路を取り直し、追撃態勢に入る。

 直線に入るとすぐさまサクラローレルとマーベラスサンデーが馬群を置き去りにし、激しい叩き合いとなる。2頭が馬体を併せての息詰まる追い比べを展開するところへ、大外から目を見張る末脚で急襲したのがマヤノトップガン。空母の滑走路から飛び立った彼は眼前のターゲットを目がけエンジンを全開にして疾駆すると、一気にそれを交わし去って先頭でゴール。2着のサクラローレルに1馬身1/4の差を付ける圧勝でリベンジを果たし、満場のファンを熱狂の渦に叩き込んだ。そして走破タイムの3分14秒4は、1993年にライスシャワーが残した従来の記録を一気に2秒7も更新する驚異的なコースレコードだった。

 レースから数日して、マヤノトップガンを管理する調教師の坂口正大を栗東トレセンに訪ねた。会話のなかで軽く「もの凄い追い込みでしたね」と語りかけた際、私たちは坂口の「トップガンはこれまでどおりに先行していても勝てたんです」という、普段の穏やかさからは想像しにくい、いささか強い口調での返答に驚くことになる。このひと言から、田原に手綱をとらせ続けながらも、二人が必ずしも一枚岩ではなかったことを知った。強固な信念を胸に秘めたトレーナーと、天衣無縫の言葉が似合う天才肌のジョッキー。互いの力量は認めながらも、食い違う愛馬への見立てと思い。そして、そのような関係性のなかでも、我関せずとばかりに圧勝を遂げる1頭の優駿。競馬の面白さ、奥深さを端的に表す一場面だったと思っている。

 疲労のため宝塚記念への出走を断念したマヤノトップガンは夏の休養に入ったが、秋に向けての調整過程で左前肢に浅屈腱炎を発症していることが判明。そのまま引退し、種牡馬入りが決定し、残念ながらあの豪脚は二度と見られなくなってしまった。しかし、だからこそ春の快晴の淀で13万人もの目の前で披露した大逆転劇は、より輝きを増しているように感じられるのかもしれない。
(文中敬称略)

三好達彦

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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